第2話 プロローグ(1)

 まるで虚無を形容したかのような、ただただ白いだけの空間。


 ここには、如何いかなる物も生物も、時間すらも存在しない。


 ただ、私と彼女だけが存在していた。


 入口も出口も無いというのに、不思議と恐怖は感じない。


 懐かしさとも、安堵とも取れるような、不思議な感情が浮かび上がった。


「あの…私、別に生き返らなくていいです」


 そうぽつりと漏らした私の声は、思いの外良く響く。予想外の返事だったのか、彼女は大きな目をぱちぱちと瞬いた。


「・・・え?なんで?」


「だって、私の人生は・・・ろくな物じゃなかったので。生き返らない方が向田むこうだ君にも迷惑かけずに済みますし」


 だから、わざわざ彼女の手を借りてまで生き返りたいとは思わないのだ。


「・・・うーん・・・彼はきっと貴女のこと・・・いえ、何でもないわ。それなら・・・に来ませんか?」


「え?」


「うん。そこで一からやり直せばいいのよ!」


 彼女は先程から突拍子もないことをさらっと言ってのける。今だってそう。


「貴女の世界で、ですか」


「そうよ」


「・・・世界を所有するなんて、って凄いですね」


「惜しいわ、トモコ。所有じゃなくて担当。つまりは仕事よ・・・はぁ」


 溜息をつく女神って、何だか新鮮。まるで人間みたい。


「・・・なんだか、大変そうですね」


「そうなのよ!一日中世界を見守らないといけないし。それだけでも休みが無くて大変なのに、眷属は他の世界で問題起こすし!」


 途端に饒舌じょうぜつになった女神様。相当鬱憤うっぷんが溜まっていた様だ。


 何だか普段の私にそっくりで、笑いそうになってしまった。


「本当に、その節はウチの子がご迷惑を・・・」


 私は、そう謝罪する彼女の目をじっと見つめる。青く澄んだ瞳は、誠実な光を湛えていた。


 そうでなくとも、私は既に彼女を許していたのだが。


「謝らないでください。仕事しか無かった私の人生なんてたかが知れてますし、私一人いなくなったところで世の中大して変わりませんから」


 私は仕事の手際悪かったしなぁ。むしろ会社としては助かっているのかも・・・なんてね。ははは。


 私は遠い目をして力なく笑った。


「さて・・・そんなことより、眷属さん?に怪我はありませんでしたか?」

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