幼女なOLは異世界で自由を掴み取る。
閑谷
プロローグ
第1話 碌でもない人生だった。
――
・・・カタカタカタカタ
オフィス内にキーボードを叩く音が響いている。
・・・カタカタカタカタ・・・カタカタ・・・カチッ
うん。課長に頼まれていたプレゼン資料も、もう少しで完成しそう。
ふぁ~っと
ここに課長が居たら、「欠伸をする余裕があるならもう少し仕事を増やしても問題ないな」とか言って書類を山積みにされそうだ。
なんてね。
まぁ、その結果がこれだけど。
「お、お疲れ。そういやコンペって明日だっけ?」
「まぁね。でも、もう少しで完成するから明日のコンペには間に合うと思う」
「森本、お前働き過ぎだ。今日で寝ずに働くの何日目だ?」
うわぁ・・・向田君、目が笑ってないよー。
「・・・えーっと・・・四日目・・・かな?」
「あのクソ課長!いっつも定時で上がってるくせに森本に仕事振りすぎだろ!」
向田君、
「でも、お前もお前だからな?自分の体調管理位しっかりしろ!・・・仕事が大変なら周りの人間を頼れよ」
「でも・・・私が悪いの。・・・私の手際が悪いから・・・」
「いーや森本は俺より仕事ができる!・・・今回も原因は
「うん。・・・やり直しの一言しか返ってこないのは結構精神削られるんだよね・・・」
私、この仕事向いてないんだろうなぁー。ってぼやいてしまった。
「森本、この仕事終わったらちゃんと家に帰って休めよ」
「でも」
「お前はもう、十分頑張ってるよ」
そう言って、頭をポンポンと撫でられた。
向田君はお兄ちゃんみたい。・・・落ち着くなぁ。
「ふふ。ありがとう。でも、私には仕事しか無いから」
だから大丈夫だよって笑って見せた。
「どこがだよ?!お前、気付いてないんだろうけど隈凄いからな?顔色も悪すぎるんだよ。・・・分かったならさっさと帰って寝ろ!!」
「・・・」
「返事は?」
「・・・はい」
渋々――不本意ながらうなずくと、よろしいってまた頭を撫でられた。
向田君はやっぱり優しいお兄ちゃん。
社内の評判が「愛想の無い冷たい男」だというのが未だに理解できない。
こんなに優しいのに。
私は、向田君が差し入れてくれたおにぎりを頬張りながらそんなことを考えていた。
その後、おにぎりに入っていた梅干しのおかげなのか若干疲れが取れた私はテキパキと仕事を終わらせた。
向田君の協力もあって、私は無事課長(昼過ぎにやってきた)の合格と帰宅許可をもぎ取った。
――きっと、浮かれていたのだと思う。
ようやく家に帰れるという安堵と徹夜による眠気。
そして何より、向田君から与えられる無償の優しさに。
私は確かに浮かれていた。
だから、罰が当たったのだろうか。
帰り道、けたたましいクラクションを鳴らしながら歩道に突っ込んでくる軽トラに、私は反応できなかった。
――全身の骨が潰れるかのような衝撃と、直後にやってきた焼け付くような痛み。
『私の人生、碌なもんじゃなかったな。あぁ。なんてあっけないんだろう。最後に、課長に文句の一つでも言ってやりたかった』
なんてくだらないことを思いながら、私――
――筈だった。
これが、私の最期の記憶。
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