第13話 祝盃
この席で初めて口にした酒の味…小さい頃から可愛がってくれた近所の孫六じいさんが上座の私の横に座って酒を注ぎ頭を撫でながら、おい、ちょっと飲め!と。この方は、この辺りでは酒じいさんとしてかなり有名だ。私達兄弟は本当にお世話になったなぁとしみじみ思った。
私より一足先に村の大勢の方々の見送りを受けて元気な挨拶をして出発して行った。
この時も相変わらず兄との会話は一言も無かった。僕は、やっぱり寂しかった。
3月に入ると同級生みんなのそれぞれの進路が決まっていき騒がしかった。3月10日、東京大空襲の知らせが入る。心の穏やかさが消え失せるのを感じた。各務君も出発日が近づき学校にも姿を見せなくなっていた。卒業式の3日前に彼は出発するので話す機会もなく淋しかった。そして彼も大勢の方々に見送られながら元気な挨拶をして出発して行った。
出発する時の挨拶は、誰もが同じような台詞だったが、近く来るこの時の為に私も心の中で練習していた。
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