第41話 遠藤専務の述懐と思惑外れ


 恩師から、遠藤、新しい仕事として警備というのが社会的に徐々に認知されているようだ。お前は、学業は兎も角ガッツがある、新聞に大同警備会社が新入社員を募集している、受けて見たら、と。

 奈良県大和郡山市の高校から、当時大阪に本社を置いていた大同警備の面接に向かった。高校時代は、柔道で名を馳せた。180センチの堂々たる偉丈夫、第1期生の中でも特に創業者から可愛がられた。

 何処にでもついていった。身近に創業者の薫陶を受けた。そして警備受注に精魂を傾けた。夜討ち朝駆けは勿論、警備先担当者が好きなもの、趣味、を詳細にメモし、受注した時は必ずお礼に行った。警備先からも可愛がられ、次々と警備先を紹介して貰った。

 社業発展とともに、大阪支社長、関西地区事業部長、首都圏事業部長、取締役、そして専務と上り詰めた。

 だが、あれほど、次の社長はお前だと言った創業者は既に亡くなり、気付けば、万年社長次候補。いつしか社内に、もう専務は老害の何者でもないよ、早く辞めればいい、と噂される始末。一体誰のお陰で、大同警備が此処まで大きくなったと思っているのだ。

 業界の懇親会でバルザック次期社長内野副社長の知遇を得た。粗野な俺に比べ、眉目秀麗な風貌、育ちの良さが滲み出ている。こんなに魅了されたのは、大同警備創業者、大同道貫社長以来だ。

 そして、大同警備とバルザック合併後は副社長の椅子を用意すると。業界トップとなるバルザックの副社長、悪くない話だ。大同警備創業者大同道貫社長には申し訳ないが、これも貴方が約束を反古にしたからです。

 瑞鶴のホテルで、中央道高井戸総合ターミナル物流センターの機密文書と引き換えに、副社長からお墨付きを貰った。

 中央道高井戸総合ターミナル物流センターの警備を、受注出来なった社長の間抜け面が目に浮かぶ。


 瑞鶴で密談したひと月後、中央道高井戸総合ターミナル物流センター警備の情報が届いた。


 「専務」、と木島取締役が慌ただしく駆け込んで来た。

 「バルザックに決まったか」

 「否、当社です」

 「そんな馬鹿な」


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