第26話 語らいと固い絆
真地間の母親から、もう湿っぽい話は終わり、あの子も許してくれるから、皆で楽しく飲みましょう。意外な言葉に皆きょとんとしたが、そうだ、いつまでも泣いていては、返って、元気な頃の真地間君の屈託のない笑顔に済まない。
玄関を出る自見に、真地間の母親が、自見さん、有難う御座いました、会社から過分なお見舞金を頂きました、これ皆さんで使って下さい。いや、お母さん、お気持ちだけで、と云うのを、いいえこれは一郎の分です、と、にっこり微笑んだ。
駅前の居酒屋に、自見、図師、大場、佐藤愛、嵯峨美智子、真地間幸子、高橋朋美、栗木、楚辺隆、本橋順子、水野が集まった。言い出しっぺの真地間の母親は、私は、一郎と静かにここで飲んでいるからと。互いに自己紹介した後、皆は自見に、今大同警備はどうなっているのかと尋ねた。
自見は、大同警備は今経営改革に向かって、定期的に会議が開かれている。しかし、改革に積極的ではない遠藤専務によって改革の見通しが立たない。このままでは、増資に協力してくれた株主から、現社長の経営方針に疑義が持たれ、株主総会で紛糾することが予測される。
打開策としては、遠藤専務を失脚させること、その遠藤専務は、業界2位のバルザック次期社長の噂が高いバルザック創業者の孫内野通泰副社長と裏で繋がっている形跡がある。
「何故、遠藤専務は内野副社長と会っているのですか」と水野が、
ここで、自見は顔を引き締め、
「大同警備の身売りです」
図師が、
「まさか、遠藤専務は大同警備生え抜きですよ」
代わって、佐藤女史が
「驚かれるのは無理ありませんわ、しかし、事実です」
自見は男たちに、佐藤女史は女たちに、と自然に分かれる形となって、更に詳細に説明した。そして、自見は大場から貴重な情報を得た、それは遠藤専務の秘書が、大場の従妹だと。皆、納得したり、首を傾げたりと様々ではあるが、一様に怒りが込み上げているようだった。
一先ず落ち着いて、と誰が言うともなく、すっと会話が途切れた。皆、胸の内で思案している。5分程の沈黙が流れた。年配の栗木が、皆の気持ちを代弁するかのように、
「自見さん、私達に何か出来ることがあればどうか遠慮なく指示して下さい」それに、呼応するかのように、皆口々に叫びだした。
自見は、一人ひとりにあの眼差しを向けながら
「皆さん有難う、皆さんの協力があれば、改革はきっと成功します」
今後は、それぞれが連絡を密にし、自見の指示のもと行動することとなった。
皆、一郎がこの繋がりを作ったような気がした。そうだ、そうだよ、そうでなければ、こんな繋がりはなかった。
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