第25話 義母の死、そして再び真地間宅へ
K市は懐かしいと同時に悲しみも深い。結婚申し込みでは、トラック運転手の俺を、何も言わずに結婚を許してくれた。その義父母の懐の大きさに感謝してもし尽くせない。孫を抱かせてあげられなかったが、二人揃ってN 市に良く遊びに来てくれた。その都度、4人で各地をドライブした。
その日は、夜6時には仕事を終わり帰るつもりが、担当の警備エリアで宝石店多額窃盗事案が発生したので、警備係長の指示で、使い捨てカメラで現場写真を撮るなどしていたので、帰宅が遅くなってしまった。
まだ携帯電話がない時代、妻とは連絡が取れていなかった。帰宅した俺に、妻が、貴方、お母さん死んじゃった、といつも冷静な妻が、顔中涙だらけにして胸に飛び込んできた。
え、どうして。義母は正月頃風邪を引き、3月になっても咳がなかなか収まらなかったが、普段から元気なので格別気にすることもなく、仕事に出掛けた。そして、仕事中に突然倒れ、急遽病院に運ばれたがそのまま息をひきとってしまった。
会社に連絡し、悲しみにくれる妻を助手席に乗せ、東名高速、首都高速、東北自動車道をひたすら走った。朝の8時にK市に到着。義母は、8畳の居間に、傍らには義父が愛する妻の顔をじっと見つめていた。
良子、お母さん死んでしまった、と義父がぽつんと言った。妻は、義母の胸に飛び込み、おかあさん、おかあさん、おかあさん、とまるで幼子のように泣きじゃくった。
俺も、もう二度とこんなに泣くことはないだろう、涙が、涙が溢れてくる。
そんなことを、駅からのタクシーの中で思い出していたら、真地間宅に着いた。インターフォンを押すと、玄関で母親がにこやかに迎えてくれた。
自見と、図師、朋美は真地間の遺影に手を合わせた。そして、図師と朋美は、母親と幸子、そして幸子の婚約者、管理センター所長大場誠に今までの非礼を心から詫びた。
「図師さん、朋美さん、有難う、一郎もきっと喜んでいます」
「お母さん、私は一郎さんを裏切ってしまいました」
「お母さんに合わせる顔がありません」、朋美と図師の目に涙が溢れ出した。
「もう良いの、もう何も言わないで」
自見も、幸子も、大場も涙が静かに溢れた。その涙を拭うかのように金木犀のほのかな香りが忍び込んできた。
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