第18話 小樽のスナック


 朋美、久しぶり、元気だった、と嵯峨美智子が。

 此処は港近くの小さなスナックだ。朋美は、図師に会いにはるばる小樽まで来て、このスナックで夜アルバイトしている。

 図師とは離れられない、少し軽薄だが根は優しい。ふと見せる玲瓏な横顔に魅かれる自分を抑えきれない。真地間の自殺の原因の一端が自分にあることは百も承知だ。真地間が自殺メールを送って来たが、もう気持ちは図師に傾いていた。

 やがて本社に戻る図師にとって、自分は遊ばれているだけだと分かっていても、それで良い。捨てられても、今この一ときの恋に賭けたい。


 だが、図師は横領が発覚し、エリートコースから外れ小樽まで流された。美智子から、まさか貴女追いかけるつもりなの、と心配されたが、それを振り切って此処まで来た。

 今、図師と朋美は小さなアパートで同棲している。


 時々は、美智子に連絡を取っていた。美智子から、今度家族で北海道旅行する、コースに小樽観光も入っているので夜スナックに行くから、と。


 朋美、少し瘦せたね、でもキラキラしているよ、前よりもっと綺麗になったね、仲良くやっているのね、と、矢継ぎ早に言うのを、目で制止ながらも美智子の心配が嬉しかった。


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