第19話 社長と大河原取締役


 「大河原君、どうでした」

 「はい、社長の診立てに間違いありません」


 社長は大同警備に入社する前は銀行員だった。創業者大同道貫の長男は警察官僚になったので、道貫は次男道義を後継者へと、それなら一度他人の飯を喰わせた方が良いと、関連先の銀行に行かせた。

 40歳で銀行を退職して大同警備に入社。地方支社の支社長を1年経験後首都圏事業部長、役員になり、義兄幸助が社長の時副社長に、幸助が会長に退いたので、4代目社長に就任した。

 社長がまだ銀行員として勤めていた時、大河原は道義の直属の部下だった。大同会長の急死により、道義は大河原を取締役として迎えた。

 銀行時代二人は融資担当で、大河原は他行員が危惧するベンチャー企業にも積極的に支援し、成果を上げていた。何よりも道義が感心したのは、平衡感覚に優れ、物事を多面的に捉える、私情に流されない、と言って冷淡でなく、時に親身になって企業の相談に乗る情の厚い人間、それに惚れ、役員にした。


 「すると、裏で糸を引いているのはあの貴公子か」

 「そうです、友人の渡は今M&Aの担当です。そして、この合併は、各銀行にとって最大の関心事です。J銀行の渡も、狙っています」


 社長は、自見が齎した水面下の合併が真実かどうかその調査を大河原に頼んだ。大河原は親友の渡がM&Aの担当なので聞いてみると、その信憑性は高い、と。



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