第15話 訪問者
「お父さん、水野さんという方が、お父さんにお会いしたいって」
「水野さん、水野さんって誰だろう、ま、通してあげて」
新入社員の制服等の準備で、自見も、美紀も昼過ぎまで忙しく働いて、午後3時過ぎやっと一段落つき、一息ついていた。
眉の濃い、すっきりとした青年が、自見の前に立ち
「自見さん、一言お詫びしたいと思い参りました。私は総合ターミナル物流センター警備隊で勤務している水野です」
自見は、思い出した。真地間宅で栗木が持参したスマフォの録音を聞いていた時、
「しかし、正月やお盆は誰もが用事があります。班長だけ特別扱いするのはおかしいと思います」
「馬鹿野郎」と罵声が、この声は、と聞くと、水野班長だと
そうだ、その水野班長だった。確か入社5年目で、班長だった。で、何故その水野が、謝りたいのだろう。
「自見さん、自転車の事覚えていますか」
自転車、何だったかな、と思い出そうとする自見に
「小雨の中、傘を差して歩いていた自見さんに自転車で突っ込みました」
若いころ自見は柔道に熱中していた、それが役立った、自然に身体が開き、突進してくる自転車を咄嗟に交わした。
あの自転車突っ込みは、図師課長から、自見を脅してやれと。しかし後悔した、もう少しで人殺しになるところだった。振り返ったら、自見が国道に飛び出しそうになるところで、その脇を大型トラックが猛スピードで過ぎた。
真地間の件で、水野は深く反省した。爾後は後輩の面倒をよく見るようになり、今回初級幹部試験の筆記が合格し、二次試験の面接で本社に来た。この機会に、どうしても自見さんに謝りたい。
「よく来てくれました、有難う、嬉しいです」
「自見さん、私は」
そう言うと、水野の目から涙が零れた。
自見は、水野の目を見つめ、そっと肩に手をおいた。美紀の目も潤んでいた。
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