第10話 専務室


 社長が自見に何か依頼したようだ、と木島取締役が図師の情報を遠藤専務に耳打ちした。

 「図師、図師って誰だ」

 「あのK支社の図師ですよ」

 「ああ、あの件でどっかへ飛ばされた奴か、今何処だ」

 「小樽営業所です」


 遠藤専務にとって図師の情報などどうでもいいことだ。

 遠藤は辛抱強く待っていた、創業者大同道貫は、俺のことを可愛がってくれた。お前は高卒で学歴はないが、警備会社に学歴は必要ない、実力こそ全てだ。実力に磨きをかけて、いつかは俺の後を継げ。

 学歴コンプレックスの遠藤にとって、何よりの励ましの言葉だ。そして54年会社に貢献した。だが、創業者は、2代目に自分の弟を、3代目に婿を、4代目に次男、何れも有名大卒だ。言っていることとやっていることが違うではないか。

 そして思った。どうせこのままなら、あの提案に乗ってみるか。

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