第9話 北海道支社小樽営業所


 図師は営業所の窓から見える港をぼんやり眺めていた。首にはならなかったが、島流し同然のこの小樽営業所では何もする気は起こらなかった。木島取締役の娘との結婚も、あの1件で棒に振ってしまった。朋美とこっそり遊んだことだけが思い出される。

「所長、お客様です」と50がらみのパート事務員の小母さんが呼ぶ。所長とは名ばかり、自分と機械警備隊員2名、そしてこの女性の総勢4名。市内だけでは警備物件も限られているので、足を伸ばして営業活動をしているが、北海道は広いだけでそのあてもない。


 誰だろう、こんな俺を訪ねて来る酔狂者は。外に出ると、そこには高橋朋美がいた、驚いた。小樽営業所に転勤になる前に、一度東京であったが、その際付き合いはこれで終わりだと、朋美には引導を渡した。

 「お久しぶりです、お元気でした」

 立ち話もなんだからと、自分の車に乗せて波止場に向かった。少し痩せたようだ、朋美も苦労しているな、専らこんな境遇にしたのは俺の責任でもあるが。


 「どうしたのだ、連絡もしないで突然来るなんて」

 「次長に、良い情報を持ってきたのよ」

 「次長はよせよ、今はしがない所長さ」


 そして朋美が言うことを聞いて驚いた。朋美は亡くなった大同会長と自見の関係について話した。同じ町内に住んでいたこと、7年前本社に来たのは会長が呼んだから、会長の葬儀は親族のみで執り行われたのに、自見夫婦だけが特別に出席を許されたこと。そして、先日社長に呼ばれて、何か話していたこと。


 図師は、ピンと感じるものがあった。K支社に調査に来た時には、大同会長から協力するようにと言われたが、どうせ何もわからないだろうと、高を括ったのが命取りとなった。何とも口惜しい、いつかは仕返しをしたい。

 朋美の情報を取りまとめてみると、社長は自見にまた何かを依頼したかもしれないな、大同会長の時もそうだった。これはひとつ木島取締役の耳に入れなければ。

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