第8話 備品庫室
「お父さん、どうでした」
「うん、美紀ちゃん引き受けたよ、しかし、社長と私だけの秘密と言うことで」
「そうね、お父さん、それが良いわ」
二人だけの時は、美紀は自見のことをお父さんと呼ぶ。7年前、大同会長が、僕の親友で信頼が置ける人だから、何でも相談すると良いよ。
そして、一緒に働いてみると、穏やかでいつも笑みを絶やさず、誰にでも謙虚に接し、陰口を言わない。警備歴28年だが、それをひけらかすこともない。
大同会長から、あの夜間スーパー店長連続殺人事件で、自見が大活躍した事も聞いたので、それを聞こうとしたら、もう昔のことだから、と笑うだけ。
美紀が、離婚のことで悩んでいた時、自見は美紀と由香を自宅に招き、妻良子共々、本当の娘のように親身に相談に乗ってくれた。モラハラで悩んでいた美紀も、それで吹っ切れた。それからは、自見のことをお父さん、良子のことをお母さんと呼んでいる。
自見は何でも美紀にだけは話していた。特に今回、自見が特別顧問を引き受ける理由を美紀も充分承知している。大同警備の未来が、自見の肩に掛かっていることを。
ただ、お父さんの健康だけが心配だ。間もなく73歳になるお父さん、所謂社長の懐刀という立場の特別顧問ではあるが、何かと忙しい時もあるだろう。
9日間、調査で此処を留守した時は心配になった。愛には、お父さんのこと宜しくと頼んだら、愛からは、私の方がびっくりよ、まるで青年よ、惚れてしまいそうよ、と冗談も飛び出し少しは安心したけど。
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