第6話 大同警備躍進の一歩
大同警備の名が全国的に知られることとなった有名な事件がある。
警備業は、当初こそ常駐警備が主体であったが、直ぐに機械警備へ移行した。大手2社、べコム、バルザックは早くから常駐警備より機械警備の方が、収益性が高い事に気付き、経営方針をシフトしていた。
機械警備の利点は、基地局と機械警備車両と機械警備隊員で多数の施設の警備が可能で、一旦機械を設置すれば毎月安定した警備収入を確保出来る。
しかし、当時機械警備には大きな弱点があった。それは、警備を解除したのは警備先の社員なのか、警備会社の警備員なのか区別出来なかった。
そこに目を付け凶悪な事件が発生した、夜間スーパー店長連続殺人事件だ。バブル全盛時代、街も人も24時間眠らなくなった。そして深夜まで働く人達の為にスーパーも遅くまで営業していた。
ある市で、警察官が襲われ拳銃が奪われた。警察は犯人逮捕に躍起となったが、手掛かりが掴めず半年経った頃、スーパーの夜間店長が襲われ事務室金庫から現金が盗まれ、しかも夜間店長が拳銃で撃ち殺されるという惨い事件が発生した。
この事件は警備業界、警備会社、特に機械警備を主力とする警備会社に衝撃を与えた。
遅くまで営業するスーパーも、大体は夜1時過ぎには帰る、がまた店に戻ることはよくある。
そこに目を付けた犯人は、夜間店長が再び店に入るのを待ち伏せ襲った。これが、広範囲の地域で発生した。模倣犯も発生し、機械警備の脆弱性が露呈した。
本社機械警備部警備課長の大同会長、否まだ今井幸助の時、今井は機械警備の弱点をカバーする方法を考えた。それは、もし緊急性を要する場合は、操作キーを逆方向に操作する。基地局はこの信号を受信したら、直ちに警察に連絡する、機械警備隊員は必ず2名以上で行動する。
大同警備は機械警備開始説明会で、警備先の警備担当責任者に繰り返し、繰り返し説明した。
自見は入社後、直ぐ機械警備隊員となって、本社通達の機械警備部警備課長が、同じ町内で過ごした今井幸助だと分かった。
自見が担当しているエリアには夜間スーパーが2軒あった。あの凶悪な殺人事件が発生してからは、夜間店長には、万が一には冷静に行動してください、くれぐれもあの操作方法を忘れないように、と。
小雨が降っている、いつものように深夜巡回業務で警備車両を運転していると、基地局から連絡が入った。Aスーパーから逆信号を受信、警察に連絡済、貴車両は直ちに現場急行、警察官、応援車両到着まで現場で監視せよ。
ヘルメットを被り、手には木製警戒棒を握りしめ、最終出入口近くで監視、店の中から薄っすらと明かりが漏れている、店長室のようだ。まだ、警察官、応援隊員は来ない、待っている時間は長い。
すると、扉が開いた。何と、顔見知りの店長の後ろに覆面をした男がいる、左手に手提げ金庫を持ち、右手には拳銃らしきものが、最終出入口を照らしている薄暗い防犯灯越に見える。
何処かに連れていくようだ、同様の事件で隣県の夜間店長が、スーパー駐車場設置の物置で、死体となって発見されたのは記憶に新しい。
此処にもそれはある、さては、もう警察官や応援は待っていられない。咄嗟に自見は、渾身の力で覆面の男の右肘、そして左膝に警戒棒を叩き込んだ。いつも訓練している警戒棒操法の下段打ちが功を奏した。
賊は、拳銃は落としたものの、手提げ金庫は離さず逃走を図った。それを追いかけ、更に腰と右肩に一撃を加えた。そこに、警察官と応援が到着した。
この事件は新聞に大々的に取り上げられ、大同警備の名を一躍有名にした。自見は警察から感謝状を、本社はその年の警備業界功労賞を授与した。
そして、自見は本社から特別表彰するとの連絡を受けたが、固く辞退した。幸助には、今は会いたくはなかった、それには理由があった。
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