第4話 処分と調査の副産物



 自見の調査報告書に一点の疑義もないが、本社は有馬支社長と図師次長を呼び、報告書内容は事実か否か、を確認した。二人は事実だと認めた。

 本社は二人が素直に事実を認めたことを、反省の意があるとして、有馬支社長には、勤続年数30年の功労を汲み、不当所得を返納させ依願退職を認め、図師次長にも不当所得を返納させ、3ヶ月の給与半分減給処分と北海道支社小樽営業所への異動を命じた。

 図師の処分については、もっと厳しい意見があった。懲戒解雇に相当する、と。

だが自見は、図師のK支社での実績をあげ、擁護した。図師は着任するや否や、各警備隊を巡察、一人ひとりに面談し、親身に相談に乗っていた。これは前任者がやらなかったことだ。

 こんな事もあった、ある若い隊員が職場の人妻を恋した挙句、大量の睡眠薬を飲み、救急車で病院に運ばれた。図師は、直ぐ病院に駆け付け一晩中看護し、目覚めた隊員に、順々と諭した。

 君は、母一人、子一人と隊長から聞いたよ。俺も君と一緒だ、お母さんを悲しませてはいけないよ。今度のことは誰にも言わない、君は男らしく諦めなさい、と。若い隊員はその後自主退職した。

 村橋順子は、その人妻から度々相談を受けていた。自見と喫茶店で会ったとき、自見から図師の人柄を聞かれたので、悪い面だけではない、時にこんな優しい一面があることを。


 パワハラを実行した7名には、始末書を提出させ譴責処分に、更に近藤隊長には、総合ターミナル物流センター警備隊警備隊長及び警備員指導教育選任者の職を解き、他警備隊への異動を命じた。近藤隊長から依願退職願が出され、新任の支社長は受理した。

 

 7名は、真地間宅に行き真地間の遺影に手を合わせ、母親と幸子に陳謝した。母親と幸子からは、自見に感謝の手紙があった。自見はそれを読みながら、金木犀の傍らで微笑んでいる真地間の顔を思い浮かべた。

 そして、高橋朋美も自主退職したことを聞いた。だが、真地間宅には来なかった。東京に行ったようだと、佐藤女史から連絡があった。


 本社は、全国の支社長に、社長名でK支社に類似することがあれば自主的に本社へ報告すること、報告が期間内であれば処分はしない、しかし事実が爾後発見されれば、法的処分も辞さずとの通達を出した。

 自見の詳細な調査報告書は、全国の支社に衝撃を与え、驚くなかれ、半数の支社から事の大小はあるものの、類似する事案が報告された。

 本社は、結果として支社の独立採算制を廃止し、自見が提案した一元管理に経営方針を大転換した。

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