第3話 退職願

 自見は調査報告書の他に、「当社の現状分析と問題点その打開策、今後の大同警備20年計画案」を会長に提出した。その内容は、斬新かつ大胆なものだった。大同は、迅速な処理にも驚いたが、実直なだけが取り柄と思っていた自見の、明晰な頭脳に脱帽した。そして社長に、それを見せた。


 32歳で中途入社し、定年まで現場一筋、会長に請われて此処に来た。そして知った、大同警備が急速に成長したことにより、様々な所で歪が生じていることを。

 備品庫室は、社員の憩いの場でもある。何かと美紀の顔見たさに社員が格別な用事もないのに来る。そして、自見の実直な人柄に安心して、何でも喋る。聞き耳を立てているわけではないが、知らず知らずに上層部の現況が耳に入る。


 だが、それは自見の関心事ではない、現場一筋28年、最後は地方支社の警備課長で終えたが悔いはない。面白いことも数々あった、時には侵入犯逮捕に協力し、警察から感謝状を貰った。その数は、両手で数えても足りない。


 しかし、自見は大同会長から依頼された、K支社総合ターミナル物流センター警備隊真地間隊員自殺事案真相調査、が終了したら退職願を出す予定にしていた。そしてその機に、警備について思うところを、存分に披瀝したいと思った。


 会長は驚いてはいたが、受理してくれた、もうそれで満足だった。この7年間は実に楽しかった。特に、美紀と由香を知ったことは、晩年は寂しく老夫婦だけの暮らしが待っているだけと思っていたのを、神様は粋な計らいをする。


 だが、そうはならなかった。それは大同会長の死だった。

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