第2話 遠藤専務宅

 「しかし、やられたな、少し油断したか」

 「いや、始まったばかりです。今頃、社長と会長は浮かれているでしょう」

 遠藤専務と木島取締役が今日の会議を悔しそうに語る傍らに、図師が端正な顔を歪めている。


 遠藤専務は、創業者大同道貫が警備業に参入した時、自ら面接して採用した第1期生10人の内のひとりだ。大同警備が大手のべコム、バルザックの後塵を拝しているとき、警備を受注するため大同に付き従い、全国を駆け巡った。

 警備の社会的認知度が低い時に、高卒後何も知らず飛び込んだ。爾来54年大同警備一筋に人生を歩いてきた。

 自分が一番の功労者と自負し、創業者のあとを継ぐのは自分しかないと思っていたのを、何故か3代目社長は幸助に4代目は次男だ。これが納得できない。

 密かに自分に味方する幹部を探しているが、社長派の牙城は固い。今回K支社の匿名メールで、大同会長肝煎りのコンプライアンス課で適切な対応が出来なかった場合、その必要性を問いただし、返す刀で大同会長の無能を会議席上でさらしてやるつもりだった。

 大野警務部長から、調査員が備品庫室の自見と聞いた時、到頭会長も血迷ったか、と。しかし、豈図らんや只の爺と思っていた自見の詳細な調査資料で返り討ちに会ってしまった。

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