自見耕助の歩いた道 第二部 飛躍
伊眉我 旬
第1話 その日の大同会長宅
「お義兄さん、今日はお疲れ様でした」
「こちらこそ、道義君にご迷惑を掛けました」
夾竹桃が咲誇る庭を眺めながら、社長と会長が和やかに話している。奥では、賑やかな笑い声が聞こえる。
そう、会長は創業者大同道貫の婿養子だが、現社長道義はその次男、創業者大同道貫は敢えて、幸助を婿養子に迎えた。
それは、昔から創業者の苦労を知らず、業務を引き継ぐ息子は兎角守勢に廻り、孫に至れば、売家と唐様で書く三代目の例えもある。
どの業種業界も、先に始めた方が、時の利、地の利を得る、警備業も然り。それを覆すことは至難の業だ。だが大同は挑戦した、それは大坂商人の血を引く大同の、江戸商人に対する意地でもある。
べコムは、警備業発展の功労者ではあるが、利益を追及するばかり、バルザックは日本の警備を守るのは日本人でというが、実態は警察官僚が時の為政者の意を受けたものだ。
社是にある通り、適正な利潤こそが社会に貢献する、真の商人は質素にして剛毅。例え相手が総理大臣でも、貰うべきときは貰う、貰うべきものでないときは巨万の額を提示されても貰わない。
「お義兄さん、それにしても自見さんは見事でした」
「有難う、私もあれ程の人物とは」
話題は自見の事だった。他に適当な人が見つからず、ならば警備経験が豊かな自見を指名したが、ここまでとは思っていなかった。
「お義兄さん、自見さんを特別顧問として迎えたいと考えています」
「それはいい考えだが、彼は引き受けないかもしれない」
「どうしてですか」
「自見は、昔から営利、栄達を求めません。私は彼の父親から少なからぬ温情を受けたので、それを返したいと、何度も昇進を仄めかしましたが、巌として受け付けませんでした。そのような男です」
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