第11話

『そうだな、男女の友情は成立する同好会とかどうだ?』


 俺は出来る事なら英歌と友情を深めたい。恋人関係になるかはその後だろう。

 2人は、俺の話にある程度共感してくれたわけだし、わかってくれるとは思っている。


『理方で部への昇格を目指す形ね。青春もので、よくあるよね』

『おっ、夏美もしかしてそういう本読んだりするのか?』


 ノリで同好会と名付けたものの、何か成績を残せそうな活動はできそうにもないし、部を目指すかは保留。

 それよりも、その展開をすぐに思いつく当たり読書家なのか気になった。もしそうなら、同志になれる。


『活字はちょっと苦手だから、漫画かなあ』

『私も本は読む方じゃないわ。夏美と違って活字が苦手というよりも根本的に読むのが遅くて時間にかなり余裕ないと機会がないといったところかしら』


 残念なことに、同志はいなかった。いいさ、理方高校に入ってから探せばいるだろう。理方高校って一応理系の高校だから少し不安だ。

 しかし、2人も物語的なものを嗜めるのなら資質はある。是非霧谷先生の書籍を読ませたい。


『そういえば欧咲さんの方は趣味合ったりするの?』

『今日会ったばかりだから、そこまでは』

『まあまあ、これからじっくりと教えてくれるわ』


 本人もそう言ってくれているよ。だからあんまり心配していないのかもしれない。

 部屋には不可侵な以上、言葉で教えてもらうしかなさそうだけどな。

 しかし、砂那は能動的に動けよと指南するように話を続ける。


『やはり、友情を深めるための一番の秘訣は共通点探しだと思うの』

『グループ名の活動っぽくなってまいりました!』

『秘訣でもないだろ』

『ねえ、話訊く気あります?』

『ごめんなさい』


 野暮な事を言ったら怒られてしまった。実際にそういった話が同好会の活動なら歓迎しよう。

 名ばかりの筈だったのに、本当にそれっぽい活動するとは思わなかったけどな。


『それで? 共通点を探すところまではわかったけど、それがあったとしてどうすればいいのさ』

『共通点は、話のタネになるのよ。自分の知らない話よりも、知っている話の方が理解しようという気になるでしょ?』

『知らない話でも聞き手に興味があれば話が変わると思うけど、多くの場合当てはまらなそうだね』

『夏美のこと、コミュ強と見ているけど、つまらない話は退屈?』

『そりゃ、そうでしょ。あ、空の許嫁のお話はすごく面白かったよ』


 俺の話がつまらない枠に入っていなくて少し安心した。まあ、いきなり自分の知識をひけらかすような人種は、俺も苦手だよ。


『そうやって、共通点の持たない話は興味すら抱かれないわ。でも、共通の趣味とかがあれば親近感が湧くし、耳を傾けてくれること間違いないと思うの』

『砂那のいう事はよくわかった。でも、肝心の共通点は本人に訊いてみないと見つかりようがないよな』

『その通り! だから、一番に身に着けるべきテクニックは相手に話をさせる空気作りなの』


 すごく難しそうな話になってきたが、大丈夫だろうか。それは、才能のカテゴリーに入ると思うのだけどね。


『空気作りって、結局その場にいることと、相手との関係性が重要じゃない?』

『夏美の言う通り、関係が重要な要素になるわ。でも、初めましては関係の起点として必ずあるもの。空の場合、まだ助走段階といったところね』

『つまり、なんだ? まだ間に合う、と励ましてくれているのか?』

『そうね。でも、ここからは空の努力次第だわ』

『わかった。その秘訣を教えてくれ』


 砂那の言い方が様になっていると感じて、少し緊張してしまう。

 夜の課外活動だな。


『まず、一番大切なのは姿勢と態度よ』

『どっちだよ!!』

『まあまあ、似たようなものだし良いじゃない?』


 夏美がいるおかげで、俺がツッコミを入れても話が進むから助かるな。


『あなたに興味がありますという姿勢、聞き上手になってあげることが関係の第一歩だわ』

『ふむふむ。成程、確かにショッピングモールの時も話しやすかったのは、砂那が最後まで真剣に訊いてくれたからだしな』

『ピンポーン! そういう態度が関係を作り上げて、次に自分の話をする。でも、その内容は相手がしたことに関連することが望ましいわ。その方が共通点探しに繋がりやすいからね』


 関連する内容というのは、難しく聞こえなくもないが、初対面ではsmall talk……世間話が一般的であるので、相手が変な奴でなければ、まかり通るやり方だろう。


『相手に話を寄せるのね~。確かに聞き上手の秘訣だね』

『もちろん、話はここで終わらないわ。空の場合は大体一緒にいるのかしら?』

『そうだよ。まあ、話の場は常日頃といったところだな』

『欧咲さんって、訊く限り口が達者なのよね?』

『まあ、俺に自分の子事教えてあげるとまで宣言するくらいだ』

『言い方が大胆だよね。あたし、早く会ってみたい』


 夏美は、英歌に対してご執心の様子。この態度も、俺の話から伝わった英歌の人物像への興味なので、初めましての会話が如何に重要か伝わってくる。

 夏美と砂那が聞き上手だったからこそ、俺も話してしまったわけだしな。


『明後日には会えるぞ。同じクラスになるかは運次第だけど、見た目が特徴的だからすぐわかる』

『まあ、その話は当日に持って行くとして、空の場合、待っていればいいのだわ』

『待っている……とは?』


 能動的に行動しなければテクニックとは言えないのではないか? と疑問符を浮かべたが、砂那はわかりやすく説明してくれた。


『そのままの意味よ。勝手に喋ってくれるのなら、その中から共通点になりそうな部分に反応するだけ。空に興味津々なら、その話を広げようとする筈だわ』

『おお、わかりやすい』

『理系だもの!』

『関係ないでしょ!!』


 こうして、俺は砂那から秘訣を伝授され、明日以降の英歌との接し方を考えるのだった。

 よく考えれば、英歌って充分聞き上手だよな。このテクニックの出番はないのかもしれない。

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