第7話

 俺は、元々の目的である食材調達のために1階へと降りると女子2名と女児1名も付いてきた。

 野菜の産地を見ながら選んでいると、夏美が妙な事を呟いた。


「でも、男子なのに料理に積極的な空の方が不思議。許嫁……欧咲さんがいるのに」

「男女差別だぞ。英歌がいても元は一人暮らしのつもりだったから。それに高校の学食で昼を済ますのは大変だと聞いた」

「へーそうなの? それは知らなかったわ」


 理方高校には試験の時に訪れた事があったが、食堂があった。

 しかし、後からネットで在学生の呟きを確認すると、早い者勝ちで全員が食べられる量は用意してくれないそうなので、俺は弁当生活を決意した。この部分に限っては、絶対に英歌の手も借りないと決めている。


「コンビニ弁当で済ませてそうだと思っていた。偏見だったね」


 そんな忙しいサラリーマンみたいなことするか。だが、一般的に一人暮らしの男子はそういうイメージを持たれているのかな。


 許嫁がいるのに……っていうのは正論かもしれないが、一方的に押し付けたりするのは、対等じゃないだろう。英歌は嬉々として引き受けそうだったのは確かだったな。


「いつか、お邪魔してご馳走してもらいたいわ」

「ん? 気になるなら、学校始まってからになるけど、弁当作って持って行くぞ」

「欧咲さんを危惧してそうなったのかしら。そうね、前者じゃ合意してもらえなさそうだし、遠慮無く頂きたいわ」

「あたしもあたしも」


 後ろから肩を揺らして便乗してきやがった。まあまあ人がいるのだから、目立つ行動は謹んでほしい。


「2人分も3人分も変わらないし、いいよ」

「気前良いね!」


 その事で弁当箱新調していない事を思い出し、食材を買い終わった後に、雑貨屋に向かった。

 新しい分に兼ねて、更に二つ買うことになったが、俺の財布が減るわけでもなく、そんなにお金もかかっていないので、英歌も許してくれるだろう。


 ……と思っていたら、小夏が何か買った袋を俺に持ってきた。

 後から、夏美と砂那も付いてきた。


「これは何だ?」

「弁当箱分あるし、空と欧咲さんに」

「これから帰っても遅いわ。きっと待たせてしまっている筈だから」


 2人なりに気遣ってくれたのだろう。流れから考えて、待たせてしまった英歌への贈り物なのはわかったが、俺もというのはなんだろう。小夏が俺に袋を差し出してきたので受け取った。


「お嫁さんにプレゼント!」

「小夏ちゃん、ありがとう。でも、お嫁さんではないよ。それで、中身は?」


 小夏の頭を撫でながら顔を上げて、2人に尋ねた。


「ペアカトラリーセット。きっと喜ぶわ」

「空が選ぶよりもセンスあるでしょ?」


 煽っているようにも聞こえるが、その通りだ。俺のような男子じゃ選びにくい上に思い付くのも難しかった。

 しかも、本気でイケてる彼氏が彼女に送っても違和感の無い代物で、少し俺には似合わないな。

 ペアって事は、お揃いのものを使う事になるからだ。


「柄尻の形が違うな。凝っているけど値段……」

「大丈夫、2人で割り勘だったし気になるほどじゃなかったよ」

「本当に気にならない値段だから、あんまりそういう部分は探らないでくれないかしら」


 欧咲を待たせている事を考えて、夏美と砂那もお詫びのつもりだったのかもしれないが、弁当箱分のトレードなら納得した。


「ありがたく貰っておくよ。英歌にも、2人の事を伝えておくよ」

「いやダメでしょ!」

「伝えたらプレゼントの意味ないじゃないの。あくまで空からのプレゼントにしてね」

「おっと、そうだったな。じゃあ英歌の分までありがとうだ。弁当期待しておいてくれ」

「楽しみにしとくわ」


 これは、普通の料理じゃ俺が許せないな。心の中でハードルが上げた。頑張って作ろうと思う。

 ようやくショッピングモールを後にして、俺達は帰路についた。


 北大路姉妹と砂那も同じ方向らしく、途中まで一緒に帰ることになった。

 理方高校はここから俺の住むマンションへの距離の延長線上にあるため、偶然ではなかったが、家が近いのは良いかもしれない。


 ……家にお邪魔したいとかそういう意味ではなく、下校とかで一緒の方が楽しいだろうからだ。

 しかし、長いこと滞在していたのか来た道を逆方向へ進んでいるだけなのに見慣れない。

 来た時は、確かにスマホを注視しながら歩いてきたものの、我ながら記憶力悪いなと思ってしまった。


 というか、最終的に砂那と合流していなかったら俺結構危うかったのではないか? 帰り道判らず俺が迷子になってしまうところだった。

 本当に待っていて良かった。俺を引き離してくれなかったら書物達には感謝しなければ。


「本当は、自転車の方がいいけど小夏がいたからね」

「同じ徒歩で正直助かる。スマホ無いと帰り道わからないからな」

「空は方向音痴だったりするのかしら?」

「方向音痴ではないと思っている。単純に、土地勘がないだけ」

「ふふっ、どうかしらね」


 砂那は信じていないかのように微笑んで見せた。でも、夕焼けでよく顔が見えないな。


「さあ、暗く前に帰りましょう」

「だな。英歌に捜索願い出されていたらひとたまりもない」

「言い過ぎでしょ」

「そうだな。やるかどうかはまだ会ったばかりで定かではないな」


 小夏がまだ元気なのかとことことダッシュした。


「危ないから、交差点ではダメだよ、小夏」


 俺も早く帰ってやろうと、少しだけ早歩きになった。

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