第6話
「なんて言うか、面倒くさい勘違い男とそれに追われる女の話が逆転したみたい」
「ああ、それよ。私が思っていたイメージ」
どうやら彼女らの中で、上手く話がフィットしたようだが、俺は2人の話についていけなかった。
これがっ——女子トーク! なのか。
「小波のポンコツなイメージで理解できたのか」
「やっぱりこの人の方が最低じゃないかしら」
「あたしはよくわからなくなってきたわ。女の子バカにするのは最低ね」
「手のひら返すの、早くない!?」
俺は、しんみりするような表情を浮かべた。
すると、小波が口を抑えて笑いを堪えていた。飲み物を飲んでいたら少し吹き出しそうな勢いだ。
「ふふっ、本気にしないで。冗談だわ」
「冗談だったの!?」
対して北大路さんは、小波に便乗しただけだろうが、本心ではあったのか。まあ彼女の言うことも正論だとは思うよ。
「遠慮しなくていい男友達は貴重だと思わない?」
「うーん。難しいけど、朝倉くんは少し話して大丈夫だと思った」
そうして、また女子トークが始まった。しかも話題が唐突……でもないか。
目の前に本人いるのによく話せるものだと感心してしまう。
「でも、これだけ気楽に話せる朝倉くんが……どうして許嫁の子を避けるのか、わかんない」
「それは、一度会えばわかるよ」
避けているという表現はおかしい。俺は避けることができる立場にいないのだから。それに、初対面にしてそんなに悪くないとも思っていたのは事実だ。
英歌は、距離感さえ守ってくれれば、話すやすいし明るいし、理想の彼女って感じなりうるのも認めたくないが事実だ。
それが、下心では無く本心だと、信じている。
「本当は両想いだけど、照れ隠し合っているなんてシチュエーションかもしれないわね」
「嫌いじゃないのは確かだよ。根は絶対良い奴だっていうのはわかる。でも……それでも……。あーいや、やっぱり一度会ってくれればわかる」
あの強烈さは、体験してみるのに限るだろう。何より、人の人格を他人の話で決めつけるのは幾らなんでも失礼だ。
「英歌と同じクラスになったら、仲良くしてやってくれよ。本当に良い奴だっていうのは保証するから」
「もう絶対好きでしょ。照れ隠しでしょ。間違いないでしょ」
「まあまあ、落ち着いて北大路さん。会えばわかるというのなら、入学式まで待ちましょう」
テンション上がった北大路さんを小波が抑えていた。
さっきまで泣いていたという北大路妹の方は、それが嘘かと思えるくらい今は落ち着いている。
10歳なら、普通に喋れる筈なのだがどうも無口らしい。
俺が近づいて撫でても、反応が鈍い。
「お兄ちゃんはロリコンなの?」
「はい?」
しかし、幾ら子供に優しい俺にもカチンと来てしまった。小夏ちゃんは悪くないよ。きっと吹き込んだやつがいる筈だ。
俺は、姉の方を凝視した。
「言わんとする事はわかるよな?」
「実際変なおじさんが近づいてきたらロリコンだから逃げないと……って教えただけだって」
「ふふっ、おじさんに見られているじゃないの」
「あっ」
北大路さんは見事に墓穴を掘り、その攻撃は俺の心にグサっと来た。
迷子になって近づいてきた男性はみんなそのイメージだろうけど、効いた。
「今までにないショックだよ。俺は子供好きだから尚更。胃まで届いて穴が開いてしまったらどうしてくれるのかってくらい効いたよ」
「心配いらないでしょ。許嫁さんがいるのだから介護してもらえば」
「やめろお!」
弱り目に祟り目のコンボの中でも最上級にヤバすぎる組み合わせだ。俺はすぐに意識を安定させ反射で正気に戻った。
「大丈夫。俺はおじさんと呼ばれても、幼心地ゆえの戯れとしてはある事だと看過しよう」
「なんか、ごめん」
「いいよ。もう謝罪は言わないでくれ。俺の方が気にするから」
「そうだわ。私達もう友達ですもの」
さっきから、北大路姉の方は謝ってくるが、実際悪いことは何もしていないし、彼女の謝る事なんて本来ないのだ。
「じゃあ、お言葉に甘えてもう謝罪はしない。これから何か迷惑かける事があったら、それは謝るけど」
「おう、俺たち友達だよな! 北大路さん」
「あっはは、朝倉くん積極的だね。うん、友達」
「そうだわ! お友達になったのに連絡を交換していませんでした」
「それは必要だな。また小波さんが迷子になってしまったら大変だ」
「迷子じゃなかったでしょう? 私は」
「俺からしたら迷子だったよ。北大路妹は確かに迷子だったけど、小波だって女子高生で未成年だから」
「えっ」
俺の言葉に小波は言い返してこなかった。それどころか、何故か顔を逸らしてしまう。子供扱いが嫌だったのかもしれない。
じっと小波を見ていたら、隣から服の裾を引っ張られた。
「こなつー」
「呼び方か。はいはい、小夏ちゃんな。その年で随分物分かりが良いよな」
「えへへー」
顔をよく見ると、涙の跡が薄っすらとあることに気付いた。迷子で怖かったのだろう。
でも、やっと俺にも感情が豊かになってくれたようだ。これは心を許してくれた証拠かな。
「はいはい、小夏を名前呼びするなら、あたしの事も夏美って読んでもいいよ」
「それは……朝倉くんの場合は許嫁さんに殺されませんか?」
「空が言っていたでしょ。根は良い奴って。なら、問題無いじゃない?」
おお、コミュ強の考えだ。開き直った北大路夏美の、人格が何となくわかった。
早速、俺のこと名前呼びだし、もう白旗を上げた。
「そうさせてもらうよ、夏美。小波は? 浜辺でいいか?」
「それもう引っ張らないでほしいわ。2人とも砂那って呼んでいいわよ」
「よっしゃ!」
夏美は勢いよく声に出してそう言った。
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