Arrows

heavy blue-lupus

第1話 プロローグ

駅の階段で見かけたセンターわけのサラリーマン。テーラーで整えたと思われるきれいな生地のスーツが印象的だった。

螺旋階段をまわる鬼ごっこのように、その男は今日も私の夢に現れては後ろ姿しか見せようとはしない。私は下、彼は上。私が追いかけているのか、彼がただ私の前を歩いて気を引いているのか、それは定かではない。

男の名前は知らない、何をしている人間なのか、そして私が知っているのはただ一瞬にとらえた横顔と整ったスーツの生地だけ。


異世界という概念があることは知っている。でもそれは創作物の中の概念だし、実際にあるとしたらそれは人それぞれの心の中の逃げ場だと私は思っていた。


しかし、実際に異世界はあった。地球の記憶のまま、パラレルワールドに送り込まれているこの現状を私がすぐに飲み込めたのは、きっと先人の作家が物語上とは言え概念として植え付けたからだろう。真実は小説より奇なり。その言葉を今私はこの異世界という名のパラレルワールドで経験している。


私以外の人間がこの世界で生まれたらしいから、飛ばされたのは私だけだし、また異世界を知っているのも私だけのようだ。


この世界には魔法は存在しない。そのかわり、私が暮らしていたかの地球で呼ばれるような超能力は確実に存在していて、その超能力がこの世界の格、つまり地位や名誉と直結していた。


これは与えられるのものではなく、持って生まれたものだから、どこか家柄に似ている。後天的に育てることはできても、新しく自分で勝ち取ることは難しい。


種類は確認されているだけで5種類、そこから細分化されていく。


容姿、実務、情熱、言語野、感覚過敏。

基礎的5要素は入り組んで生まれたものもいれば、突出してひとつだけを備えたものもいる。

格が高いのは普通ひとつの異能の高い能力者となるらしい。最も高い能力の家は家元のような、独占企業のような、特権を与えられている。それがこの異世界の経済を回し政治の中心となっているようだった。


私が生まれたのはこの異世界の暦で、「はじめの日」であり、この日は神聖な日として感覚過敏の人々にとっては要注意されている日であるらしい。


生まれ落ちたとき、私は女の完成形として生まれた。もとの世界で私は30を過ぎていたから何ら違和感もなかったわけだが、生まれたという表現を使うなら、とても違和感がある年齢と言える。


その日、私が出会ったのは実務と情熱の最高責任者の男だった。


ふたりは鷹狩に来ていたと思われる。最も鷹狩の鷹は獰猛なグリフィンであり、狩る獲物はキューピッドだったわけだが。。。



この異世界にいる珍獣たちは地球で空想の産物として憧れられていたものばかりだ。だから私は一瞬にしてこの世界が異世界であると理解した。


男も女の人間だった。奴隷はゴブリンであったし、動物や珍獣は麒麟やグリフィンなどの聖獣だった。


鷹狩のグリフィンがとらえてきた獲物がミカエルだったことは私の頭を混乱させた。

最高責任者のふたりの男は意地悪い笑顔をそのミカエルに向けた。

私もミカエルの顔をしっかりと拝むように言われて、見つめたその顔に見覚えがあった。


あの駅の階段で見かけたセンターわけのサラリーマンだったのだ。



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