第8話助けてくれたのは

「どこの馬の骨かも知らない奴がウチのいーちゃんに手ぇ出すなんて許されねぇかんなっ!」


不機嫌さが含まれた彼女の第一声がこんな台詞セリフで、如何にもな不良が吐く台詞セリフで返答に困惑してしまった。あまりにもありきたり過ぎて、呆気にとられた僕。


「......?いーちゃんって誰のことですか?不良さん......」


「不良じゃっっ、ねぇっっ!ウチはっっ!いーちゃんだよ、いーちゃんなんて一人しか居ねぇだろ!馬の骨がぁっっ!」


叫び狂う不良さんが、大股で近付きひとさし指を胸に押し付け、捲し立ててきた。

あまりの力強さに押し負け、後方に倒れ尻餅をついた僕に、不良さんが胸元を勢いよく掴みかかってきた。

「──ああぁぁん!どうなんだよっっ、馬の骨よぉぉ!言い返してみろよ、反論しろよ、泣きわめいて悔いろっっ!謝罪しながら頭ァ、さげろよぉぉ!ウチのっっ、ウチの......いーちゃんをよくもっっ!」

恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い──身体中が恐怖のあまり、恐いで埋め尽くされ、萎縮してまともに不良さんを見れず、ガタガタと震えるしかなかった。


──何で、こんな恐い目に遭わされなきゃいけないんだよ、僕が──


誰かぁぁ、誰かぁぁ......助けてよぉぉ──


「八恵木っっ!なにしてんのっ?屋上で......そこにいるのって!?──やめてよっ!ゴロツキみたいなことしてぇっ!恥ずかしくないの?こんなことしないって思ってたのに......八恵木っっ」


屋上の扉付近から苗字を叫ぶのが聞こえたかと思えば、一瞬の内に不良さんが掴んでいた手が離れ、バチィーンと大きな音が耳もと近くで聞こえた。


おそるおそる上瞼をあげると花見が不良さんのブラウスの胸元を掴んでおり睨み付けており、不良さんは片側の頬を押さえ、顔を歪めている光景が広がっていた。


「なっ......んで、花見、さんが?」


脳内に浮かんだ疑問をつっかえながらも訊ねた僕に、強張った表情をゆるめ、微笑みをつくり、「良かったぁ......間に合って」と返した彼女だった。


彼女の微笑みと声を聞けて安堵し、その場に倒れ、恐怖から逃れられたことによって力が抜けたのだった。

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