旅始め

雨落ちる駅前は、窓越しに見ると綺麗だけど、

外に出ると綺麗ではなかった。



「なんでだろう」


少年が問うと少女は答えた。



「窓が間にあったからだよ」

「そうだとなんで綺麗なの?」


少年が再び少女に問うと、


「そのまま見る時と、

間に挟まってる時では

自分との距離感が違うから」


少女は遠くを見てそう言った。


少年はその瞳に昔の少女を見た。

少女が想い出の中を見ているのを見て、少年は静かに少女から目を離すと、少女と同じ方向を見た。


そこには誰もいなかった。


ただ1つ見えたのは、2人が出会った時のような快晴だった。


「逃げよう」


不意に少女がそう呟いた。


少年は静かに頷いた。



ここから

2人の旅は始まった。



夏の終わりを探して逃げる旅が。

昨日の自分に出会うまで続く旅が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る