第3話 君は誰
亮磨と昼食をとるようになってからもう一週間が経った。
俺が話さなくても会話を作ってくれる亮磨といると気楽だった。
「そういえば、この屋上って自殺者出たところだよな」
息を呑んだ。
いつかはふられると思っていた話題だが、俺はどう返答するか考えていなかった。
「入り口のところにも張り紙してあるし」
半年ほど前、この屋上では自殺者が出た。
飛び降り自殺だった。
「さあな」
「よく怖くないな」
「あ、ああ」
歯切れの悪い俺の返答に亮磨は眉間を寄せ、凝視してくる。
俺はなにも知らないという顔を出来なかった。
「やっぱ、創太が奏ちゃんと一緒にいた人だったんだね」
奏、そう。
ここで自殺した人物は、
人気者で、才色兼備に等しい存在。
俺とは真反対の世界に住んでいたはずの奏を俺は鮮明に覚えている。
「知り合いなのか?」
当然の問いかけだろう。
だが、亮磨は答えようとしない。
目を合わせようともしない。
「なぁ、亮磨」
奏のことを俺はあまりにも知らなすぎた。いや、知ろうとしなかったのは俺だ。それが罪だとわかっていてももう知ることはできない。
「創太、僕用事思い出したよ」
立ち上がり、帰ろうとする亮磨の背中に俺は叫ぶように言い放った。
「亮磨、お前は誰なんだよ」
急に現れたと思えば奏みたいに俺と昼食をとって、友達みたいにしていたと思えば、逃げようとしている。
「なんで、俺のところに来た」
憎まれているのかもしれない。恨まれているのかもしれない。
どんなことを思われているか、俺にはわからない。
「奏ちゃんと僕は幼馴染だったんだ」
振り向かず、俯きながら呟いたその言葉に俺は目を丸くした。
「僕が君に近づいたのは、奏ちゃんのため」
「奏......のため」
「君しか知らないんだよ。本当の奏ちゃんを」
俺はあの屋上の少女、否、奏のことを知らない。
屋上でしか会わないから、屋上でしか話さないから、屋上が2人の居場所だったから。
「だから、近づいたんだ」
理由になってないと思った。
だけど、ようやく振り返った亮磨の顔を見て言葉に詰まる。
「僕は、奏ちゃんのために生きてるから」
切なくて、寂しくて、俺の知ってる亮磨はどこにもいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます