第2話 非日
購買に売れ残ったパンはいつも味のしないコッペパンだ。
そのコッペパンを買って、近くにある自販機で牛乳を買って、ようやく旧校舎の屋上に向かえる。
屋上には誰もいない。
旧校舎は幽霊が出るなんて噂のおかげで誰も近寄らない。
だから、気楽だ。
「よう!」
定位置に座った時だった。
出入り口から声がした。
「亮磨...」
誰かとの昼食は久々だった。
亮磨は購買で人気のカレーパンを食べている。
「創太はさ、なんでいつもここで飯食ってんの?寂しくね」
「1人が好きだからだよ」
本音だった。
中学時代、クラスが荒れたことで孤立することを望むようになった俺は、集団行動を選ばなくなった。
1人なら怖くない。
「僕は、創太とは友達になれたつもりだよ」
「ふ、ふぅーん」
「だから、一緒にご飯も食べたいし、話したい。だから、今日から俺はここに来ます」
横暴なやり方だったが、嫌いじゃなかった。
どこかで懐かしさを覚えた。
誰かと食べるとコッペパンには味がある。
牛乳はコッペパンを流し込むための道具ではなく味のある飲み物になる。
「優しいんだな」
「だろ」
これが今の俺にできた日々だ。
だから自然と思ってしまう。
あの頃を。
屋上に行けば会える少女はいつも哲学的な話を俺にする。
「縛られた生きるなんてつまらないでしょ?死は選択するもの」
本でも書くのかと思ったが、少女はいつも本気の目をしていた。
俺に伝えるために話してくれている。
彼女の死生観は賛否のあるものだった。
「死は選択するべきもの」「自己選択権は死ぬことにもある」「寿命で死ぬなんてつまらない」
俺には理解できない部分もあった。
長く生きられるなら長く生きた方が得だと思っていたからだ。
少女は俺の前だけでそんな話をしているようだった。
「創太は、友達作らないの?」
ある日、少女はいつもの調子でそんなことを言ってきた。
俺の回答は、
「作れないの間違いだ」
「あ、そっか」
納得するな。
「お前は友達たくさんいるよな」
「いないよ」
「嘘言うなよ」
少女は首を振った。
「本物の友達なんて両手で数え切れるだけしかいないよ」
有り余るほどいるはずの友人を少女はいないものとした。
だからこの時、俺は友達の定義がわからなくなった。
「創太はきちんとした友達を作るんだよ?」
「言われなくとも......できる気がしない」
少女は大きな声をあげて笑った。
少女にとって俺はなんだったのか、わからないままだ。
「じゃあ、私が友達作ってあげる」
「お節介だ!」
「えぇー、優しさじゃん」
「調子に乗るな!人気者」
少女は楽しそうに笑う。
俺も楽しくなって笑う。
こんな日々はもうなくなった。
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