事実と虚構
伊崎夢玖
第1話
私は人を殺した。
ただスマホで写真を撮っただけ。
それだけでこんなに呆気なく死ぬなんて思わなくて拍子抜けだったけど、気分はスッキリした。
事の発端は一週間前。
体育館裏に呼び出された。
そこにいたのはクラスのリーダー格の女子とその取り巻き数名。
彼女たちの主張はクラスのリーダー格の女子の彼氏を私が誑かしたというもの。
簡単に言えば、言いがかりをつけられたのだ。
全く身に覚えがない。
何とか分かってもらおうと説明するが、聞く耳を持ってもらえない。
小突かれた拍子に体勢を崩し、転んでしまった。
タイミングを見計らったように、殴る、蹴るの暴力の嵐。
抵抗することもできないほど、間髪入れず暴力が降ってくる。
体を丸めて、ただただ彼女達の気が晴れるのを待った。
その日から毎日何かしらの嫌がらせを受けた。
靴を隠される。
教科書に落書きをされる。
階段で突き落とされそうになる。
言い出したら切りがない。
最初は抵抗していたが、それすらも面倒になってしまった。
いつか飽きると思っていたから。
それが昨日、勘違いであることに気付かされた。
職員室に呼び出された私を待っていたのは、校長先生、教頭先生、学年主任、担任。
「そこに座りなさい」
重々しい空気を破ったのは校長先生。
言われるがままソファーに座った。
「これは君だね?」
そう言われ、差し出された写真に写っているのは私と見知らぬ男の人。
「確かに私ですが、この人は誰ですか?」
「白を切るんじゃありません。君が援助交際をしているという情報を聞いたんです」
「違いますっ!私はそんなことしてませんっ!」
この場にいる大人全員が私を冷ややかな目で見てくる。
(人間ってこんなに冷たい目をすることができるんだ…)
さっきまでの抵抗はどこへやら。
どこか冷静になった自分がいた。
「誰しもそう言って否定するんです。正直に言えば校長先生は寛大な処分にしてくださると約束してくださってます。さぁ、正直に言いなさい」
担任は私のことを端から信じていない。
(あぁ…大人って醜いな…)
私は最後まで抵抗した。
してないものはしてない。
正直に言った。
結果、二週間の停学になった。
何がどうなってこうなったのか。
明白だった。
荷物を取りに戻ると京子と取り巻きがいた。
ニヤニヤとこちらを見てくる。
こいつらが犯人なのは確定している。
しかし、証拠がない。
泣き寝入りするしかなかった。
そして、今日。
停学中は家にいなければならないが、家にいてもやることがない。
気晴らしに外に出る。
今頃皆授業中なのに、私は一人外で自由を謳歌している。
何とも言えない気分だ。
ファストフードでご飯を済ませ、家に帰ろうとした時、見知った顔を見つけた。
京子だ。
何やらキョロキョロして、動きが不審。
気になって後をつけることにした。
着いた先は最近オープンしたばかりの大型ショッピングセンター。
あたりをキョロキョロ見渡しながら京子は進む。
ようやく足を止めたのは下着ショップだった。
(一人で下着を選ぶのが恥ずかしいとか…?)
黒とピンクの上下セットを手に取ると、試着室に向かう。
それから数分、出てくる気配がない。
おかしい…。
やっと出てきた彼女の胸に違和感を覚えた。
(あんなにデカかったっけ?)
やけに大きく感じたのだった。
京子は足早に下着ショップを出ると、急いでトイレに逃げ込んだ。
その行動があまりにおかしく、私も後を追ってトイレの隣の個室に入る。
行儀悪いが、便座の上に乗り、京子の個室を上から覗く。
上着を脱いだ下着姿の京子。
その胸には先程手に取っていた黒とピンクの下着が重ねてつけられていた。
ポケットに入っていたスマホを取り出し、シャッターの音が無音のカメラアプリを起動し、一部始終を写真に収めた。
下着を回収できた京子はそのままトイレから立ち去っていった。
隣の個室にいた私は未だ個室の中にいた。
(…勝った!)
いつも使っているSNSのアカウントとは別のアカウントを取得し、先程撮った写真をアップした。
瞬く間に拡散され、学校の知るところとなった。
私の停学処分は継続中。
まだ学校へは行っていない。
あと十二日?くらい残っている。
だけど、情報というものはどこからともなく入ってくる。
それが今の時代。
京子が自殺した、と情報が入った。
ざまぁとしか感じなかった。
万引きがバレただけで自殺。
まぁ、彼女の場合事実だから仕方ないけど、事実でないことで停学になった私はどうなるの?
スマホ一つで人を殺したんだ。
図太く生きていける自信はついた。
これからの人生、もう何も怖くない。
事実と虚構 伊崎夢玖 @mkmk_69
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