梅雨に愛はおおっぴらに咲く

殿下がお怪我!


 ついに入梅、じめじめと嫌な季節です。


 この間のキーマカレーは好評だったと聞きました。

 侍従さんたちや女官さんたちにも行き渡った訳で、雪乃さんが殿下の正妻になられるのは、当然と皆思ったようです。


 なぜかというと、雪乃さんが殿下の下着なんて繕っていたことを、殿下が口を滑らせたようなのです。


 王女が繕い物、しかも男性の下着を平然と行う王女殿下、料理は上手く、その上、ありえないほどの美貌、類まれなる叡智をもち、資産も破天荒に所持している……

 ケチのつけようがないのに、謙虚に繕い物をし、残り物というのに、そこらのレストランより美味しい料理を作る……


 とくに女官さんたちは、宮殿で噂されている王女の料理を初めて食べたようで、納得したようです。

 皇后陛下が、なんとしても王女殿下を皇太子殿下の正妻にと画策していることに、批判的だったのが、東宮御所の女官さんたち。

 憧れの皇太子殿下、上手くいけば、お手付きぐらいはと願っていたようですね…… 

 

 そんな事があり、東宮御所の女官さんたちの嫉妬が片付いたころ、とんでもない事が起こったのです。


 殿下が、雨の日に転んだのです……

 そう、ただ足が滑って、転んだだけですが、どう云う訳か変にぐねったのでしょうね。

 酷い捻挫と思われましたが、侍医が呼ばれ調べてみると、靭帯が伸びているぐらいの軽度の捻挫でした。

 しかし念のために入院となったのです。

 

 一報を受けた雪乃さん、取る物もとりあえず、入院先の帝都第一衛戍(えいじゅ)病院に駆け付けたました。

 なんせ帝国の皇太子が怪我で入院、ということで物々しい警備でしたが、『聖女岩倉姫宮雪乃』と名乗ると、見知った東宮御所の侍従さんが出てきて、通してくれたようです。


「大丈夫なのですか!」

「雪乃さん、学校ではなかったのか?」

「訳を言い早引きしました!」


「訳って?」

「許嫁が怪我をされたみたいで、とにかく病院に行くと……」


「ありがとう」

「で、怪我はどうなのですか!」

「軽度の捻挫らしいが、一週間の絶対安静、その後一週間のリハビリと聞かされた」


 慌てて『解析』を起動しますと、殿下の云われる通り、本来なら家で寝ていればよさそうですが、なんせ帝国皇太子殿下ですから、用心したようなのですね。


「とにかく安心しました……でも一週間は動けませんね、心配ですから、毎日見に来させていただきます」

「いいよ、悪いから……」


「いけません!ここでお医者様のいう通り、治療に専念しないと、のちのち再発しますよ、捻挫は癖になるのですよ!」 

「まったく、雪乃さんには叶わないな……」 


「ところで痛みはありませんね?」

「ない、我慢すれば歩けるのだがな」

「一週間の我慢ですよ」


「ところで……外してくれないかな……」

「なぜ?」

「トイレがね……」


「私がおりますから、看護婦を呼ぶ必要もありませんよ、大、それとも小?」

「……いや、なんとか一人で……」


「あきらめてくださいね、大、それとも小?」

「……小だ……」


「分かりました」

 で、尿瓶を取りに行った雪乃さんでした、なんせこの病院の名誉院長でもあるのですからね。

 ついでに、差し込み便器まで持ってきました。


「さあ、あきらめて、ナニを出してください」

「雪乃さんの前でか……」

「そうですよ、私と殿下が『婚約の儀』をしたら、お母さまの前で、殿下のナニに口づけするのですから、いいではありませんか」


「それとこれとは……」

「四の五のいわないの!出しますよ!」

 無理矢理に殿下のナニを取り出し、尿瓶をあてがう雪乃さんでした。


 あきらめたのか……尿瓶に一杯溜まりました、我慢していたのでしょうね。

 この病室は特別個室、トイレ付ですね。


 尿瓶の尿を廃棄してきた雪乃さん。


「ふいておきますよ」

 ティシュなんて手に持って、殿下のナニを拭いています。


「……雪乃……さん……私は……」

 

 雪乃さん、黙ってナニに口づけしていました。

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