水無月のお土産話
殿下の許嫁
この後も、殿下は大学芋もスイートポテトもご賞味、芋けんぴなどは足りなくなって、急遽、雪乃さんが作ったのです。
「雪乃さん、どうだろう、このまま家までこないか?勿論、よからぬ事はしないと確約する、八時までにはここに送ろう、侍従にはそのように申しつけている」
「雪乃様、せっかくの殿下のお誘い、お受けになられては?」
文子様が云ってくれますので、お伺いしようかしら♪
東宮御所はすぐそこだし……二人で黄昏時に歩くのも、いいかも♪
いやだ、どきどきしてきたわ♪
「すぐそこだし、歩いて行こう」
殿下ったら、手を差し出すのですから……
手をつないでも、良いのかしら?でも、せっかくだし……
おずおずと手を差し出す雪乃さん。
殿下と二人で手をつなぎ、『帝室聖女御用邸』から出てきた二人、そして前にある憲兵分署を通り過ぎていきます。
なんせ雪乃さんは超絶美少女、目に付かないわけはない上に、一緒にいるのが皇太子殿下。
それとなく、護衛がいますが、邪魔をしないように配慮しているようです。
誰が見てもラブラブカップル、本人達はそのような気は無いのでしょうが、警備の方々は、少しばかり迷惑気味です。
帝国では、男女が仲良く手をつないで歩くなんて、ひんしゅく物なのです……
ハッキリ言えば、帝都のバカップルというところ……
でも帝国の誰もが、皇太子殿下の『女を口説く手腕』に期待している……
『聖女殿下のお話』で、帝国の国民は、聖女に親近感をもっており、その嫁ぐ相手選びには絶大な関心を寄せており、候補の筆頭として、皇太子殿下を望んでいるのですね。
そのためか、聖女岩倉姫宮雪乃王女殿下と、皇太子殿下のラブラブの邪魔など誰もしない……
でもね、今にもキスなどしそうなバカップル、困ったものなのです。
「雪乃さんの手は温かいな♪それに小さくて柔らかい♪」
「殿下は手は大きくて♪頼もしくて♪」
「そうか♪でも頼ってくれたら嬉しいな♪男は愛する女性を守るものだから、私も雪乃さんは全力で守ってみせる!」
「嬉しいわ♪頼りにしております♪」
どこまでも、はた迷惑な会話を繰り広げているようです。
「おや、もう付いたのか、さあ、入ってくれ」
衛兵さんですかね、殿下を見て、慌てて『捧銃(ささげつつ)』をしています。
「ご苦労」と殿下が声をかけていますが、私を見ているのですよ。
仕方無いので、
「お仕事、ご苦労様です、岩倉雪乃ともうします、殿下のお供で参りました」
通していただいて、東宮御所へ……立派な離宮というか、赤レンガ造りの二階建て、『帝室聖女御用邸』の何倍の大きさでしょうね?
「お帰りなさいませ」
綺麗なメイドさんがズラリと並んでいます。
これはまずいのでは!
「殿下、こちらが聖女岩倉姫宮雪乃王女殿下でございますか?」
品の良いお年寄りが、殿下に声をかけています。
「そうだ、雪乃さんだ」
嬉しそうに殿下が答えています。
「岩倉雪乃でございます」
雪乃さんも続いて答えています。
「聖女岩倉姫宮雪乃王女殿下、失礼ながらお顔も覚えさしていただきました、これからはいつでもお越し下さい」
「ありがとうございます」
「ここのメイドたちは大丈夫でございますよ、殿下は手をつけるような方ではございませんよ」
「……」
図星を指されて、言葉に詰まった雪乃さん。
「殿下を信じていますが、女は嫉妬深く出来ているようで、恥ずかしい限りです」
「いえいえ、雪乃王女殿下は正直であられます、こんな場合、何かしら取り繕われるものと思っておりました」
「ここのメイドたちは皇后陛下にお仕えする女官です、皇后陛下から厳命を受けておる良し、九時には宮殿へ戻ります」
「それでは殿下があまりにおかわいそうでは……」
「別に問題は無いかと……大体は殿下はお戻りになり、夕餉と入浴を終わられると、ご勉学に励まれ、十一時にご就寝になられます」
「雪乃王女殿下の、御懸念されるようなことはあり得ません」
「もうそれぐらいにしてくれぬか」
「雪乃さん、私の部屋で話しをしないか?」
殿下の部屋に案内されると、質素な調度品の中に、ラジオがありました。
「これで雪乃さんの声を聞いているよ♪」
「殿下は何のご勉強をなされているのですか?」
「うーん、実は三時から、偉い学者が来て講義をしてくれるのだが、中には理解出来ないことも多々あってね、理解しようと復習などするわけだ」
「ご立派ですね♪」
「私のこの頭が、雪乃さんのように聡明なら良かったのだがな」
雪乃さん、殿下に対して尊敬のまなざしで見つめていました。
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