お夜食の差し入れ


「でも、殿下、お勉強は大事でしょうが、お体に触りますよ」

「しかしね、せっかく私の為に、講義に来てくれるのだし、それに答えねばならない、そうであろう?」

「たしかに、上にたつ身としては……」


「せめて、途中で休憩をなさらなくては……」

「ついつい、根を詰めてしまうのだ、もうこれは性分、替えられぬ」


「では、私が毎日、夜食をお持ちしましょうか」

「いや、それには及ばぬ、帰りは夜道になる、雪乃さんはまだ十四歳ではないか、無理はさせられぬ」


「ならば、簡単な茶菓子などをお作りいたしますので、侍従の方に取りに来て頂くというのは、いかがですか?」

「それは嬉しいが、迷惑だろう?」

「殿下のおためになるのです、迷惑とは思えません!」


「嬉しいな……でも、毎日手作りは大変であろう?」

「そうですね、殿下はご存じでしょうから、なにか取り寄せても構わないわけですし……それに取りに来て頂くのですから、暖かいものは無理ですから……」


「では三時のおやつを雪乃さん達はやっているのだろう、母上あたりが入り浸っていると聞いている、その時のものを私にも頂けないかな、それなら手間もそんなにかからないし、私も遠慮無く頂ける」


「お優しいのですね♪木曜と土曜日は帝国第一高女も授業は午前のみ、手作りはこの日に多いのですが、よろしいですか?」

「構わないが、疲れないか?」

「その時は、そこら辺のもので我慢して下さいね」


「それと、なにか繕い物があればおっしゃって下さいね、メイドさんに出せない下着のほつれなど、私には出して頂いても構いませんよ♪」

「こう見えても、繕い物は得意なのですよ♪」

「その時は頼みます」


「そうですよ、皇太子殿下は常日頃、質素倹約に努められている、世に殿下の姿勢を知らせるのは無意味なことではないですから」

「継ぎ当てを、私は恥ずかしいとは思いません、ちゃんと継ぎを当ててる方を誹ることこそ、恥ずべきと思っています」


「そうか、そのあたりの価値観は同じなのだな……」

「パンツとかふんどしとか、お繕いいたしましょうか?それとも靴下とかですか?」


 ゲラゲラとお笑いになる殿下。


「ご遠慮なされることはないですよ、私は万一殿下が、骨折とかで入院なされたなら、殿下の下のお世話もいたしますよ♪」

「尿瓶とか差し込み便器とかでね♪」


 さらにゲラゲラとお笑いになる殿下。


「そうならぬように、気をつけなくてはな♪」

「そうですね♪」


 ここで殿下、まじめな顔で、

「口づけしても構わぬか?」


 雪乃さん、黙って目をつぶっていますね。


 ここからが何もないのですね……

 女ったらしなのに、紳士なのが殿下の良いところ?


 帰りはさすがに東宮御所の侍従さんが、馬車で送ってくれたのです。


 この日から、平日は『帝室聖女御用邸』から『東宮御所』へ、お菓子が届けられるようになりました。

 たまには軽いお夜食も付いています。

 『三時のおやつ』以外に、雪乃さんが軽食なんて付け足しているのです。


 あるときは手作りのサンドイッチ、あるときは手作りおにぎり、とにかく手にとって食べられるものばかり……ドーナッツとかもね、おやきもありますね。

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