『あんこ』のち『おいも』


 世の中、端午の節句を祝っています。

 帝国では別に祝日ではありませんが、男の子のいる家では、鯉のぼりとか、武者人形とか盛大にお祝いするようです。


 女ばかりの『帝室聖女御用邸』では、別にお祝いなんて予定していません、粽と柏餅を食べるだけです!


 でも雪乃さん、どうやら粽も柏餅も作るつもりのようです♪

 

 餡子から手作り……しかもウェブで調べた甘さ控えめの『発酵あんこ』というもの……炊飯器の保温機能を使い10時間ほどかかりますが、小豆本来の味と米麹の甘さ……

 これを大量に作っているのです。


 この日は平日、当然のように学校が有りますが、昨夜から仕込んでいた餡子もし上がり、朝食のトーストに、この『発酵あんこ』とバターをのせて、皆で試食したのです。

 皆さん、『発酵あんこ』を知らなかったようですね。


 さて、五限も終わり、屋敷に戻って、いそいそと柏餅など、完成させ初めているのです。


「砂糖は使わなかったのですよね……優しい甘さですが、雪乃様のお好みでは無いような気がしますが?」 

「いいじゃないの!殿下に差し上げるのですから!」


「殿下に?来られるのですか?」

「……その……持っていこうか……と……中華ちまきも作って……」


「昨日、『発酵あんこ』を作っているとき……下準備をしておいたので……あとはお手軽にフライパンで作ろうかと……」


「突然東宮御所に、殿下を訪ねられても、回りの者が困るだけです、おやめください!」

 文子様と愛様が、断固として云うのです。


「……」


「それより、電話を差し上げられてはいかがですか?もっとも、内容は陛下あたりに筒抜けになりますが?」

「そうですね……東宮御所の侍従さんが、内容を記録することになっていますし……用件以外は云えませんが、お伺いのお電話ぐらい構いませんか……」


 で、

「もしもし、交換手さん、63番の『帝室聖女御用邸』ですが、11番へお願いします」

 つないではくれましたが、警備係りの部屋につながります。


「63番の『帝室聖女御用邸』ですが、発信元を確認してください」

「確認しました、侍従控え室におつなぎいたします」


「東宮御所の侍従控え室です、ご用件を」

「王女付宣旨文子と申します、聖女岩倉姫宮雪乃王女殿下におかれましては、皇太子殿下の為に、柏餅をお作りになり、ご自身でお持ちしたいとのご希望ですが、侍従長様のお考えをお聞きしなくてはと、お電話を差し上げました」


「侍従長は、殿下とともに打ち合わせをされております、お戻り次第、お伝えいたしますが、よろしいでしょうか?」

「分かりました、お手数ですが、当方までお電話を頂けますか?」

「お伝えいたします」


「雪乃様、しばらくお待ちになってくださいね、お待ちになる間、残りをお作りになられては?」

「そうですね、皆さんの分も作らなくてはね、今日の夕餉は中華ちまきにいたしませんか?」


 ここでダイアナ様が、要望を出したのですね。


「あの……できましたら、『おいも』のスイーツもお願い出来ませんか……私、この間の焼き芋で、『おいも』にはまって……」


「そうですね♪いい事をおっしゃいました!スイートポテトと大学芋なんてどうかしら♪」

「大学芋ってなんですか?」


 千代子様が、

「この頃、はやっている『おいも』の食べ方ですよ♪」


 やはり女性は『おいも』が好きなようでノリノリなのですよ。


「大学芋って、簡単にフライパンで作れるのですよ♪」


 そこへ、

「雪乃様、東宮御所からお電話があり、雪乃様に替わっていただきたいと、殿下が出ておられますよ」

 

 あわてて、電話口に出る雪乃さん。

「雪乃です♪不躾な電話で申し訳ありません♪えっ、こちらに来られる♪でも、お忙しいのでしょう?分かりました、四時にお待ちしています♪♪♪」


「殿下が、四時にお越しになられるそうです♪申し訳ありませんが、『おやつ』は一時間遅らせてください」


 殿下が来られるというので、さらに気合いが入った雪乃さん、大量の『発酵あんこ』の柏餅、そしてイチゴ大福風の柏餅。

 さらには中華ちまきに、大学芋とスイートポテト……芋けんぴまで作っています。

 二時間でかなりの量をつくりあげたのです。

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