賢き音声の錬金 黒曜石の銘板~オブシディアン・タブレット~開発記

大黒天半太

黒曜石の銘板~オブシディアン・タブレット~開発記

 錬金術師の最高峰にして、魔術師の頂点たる、我が三連塔の魔導師長マスターウィザードガイガー様が、国王陛下の依頼を受け、新しい魔術にして新しい魔道具の創造にかかられて以降、三連塔に所属する全ての錬金術師と魔術師は、細分化された課題を与えられ、その達成ノルマに追われている。


 そして、その進捗管理を行うのが一番弟子たる私、マールの仕事だ。


 異世界からの召喚勇者達からの要求でもあり、王国としてもこの世界でもそれが再現できるのなら、画期的な魔法技術の革新となるだろう。


 彼らの持つ『賢き音声スマートフォン』と名付けられた魔道具は、充填された魔力が切れると動作をしなくなるという。魔力の充填方法も極微の雷電を継続的に発し続ける器に極微の雷電で失った分を充填するという限定的な術式『充電チャージ』を用いていた。


 そもそも、『賢き音声スマート・フォン』って何だ?

愚かな音声イディオット・フォン』もあるのだろうか?

 略すとスマホって急に響きが間抜けに聞こえるのは気のせいか?


 外見は片面が黒水晶モリオン黒曜石オブシディアンでできた手に乗る程の大きさの銘板タブレットで、側面や裏面はそれを囲む様々な他の素材の枠でできている。


 その魔道具は、同じ魔道具を持つ者同士を遠く離れていても会話させ、見えるものを鮮明な画像で写し取って相手に届けることができ、知らない言葉や現象を調べることができるのだという。

 そのやり取りはやはり極微の雷電を用いた波の信号レディオ・ウェーブを使って伝えるため、そのやり取り、暗号化と解読コード/デコードをするための同じ議定書プロトコルが入っているのだという。


 魔術師、錬金術師はそれぞれの専門分野に割り振られ、課題毎に魔法技術での再現を行い、同時にその小さな魔道具に詰め込むための術式の小型化や高機能化を要求された。


 自分たちに割当てられた術式が全体のどれくらいの比重なのかも理解できず、目標のサイズに自分たちの術式をいっぱいいっぱいに詰め込んで、できましたと持って来られた時は、目眩がした。


 まず、本当に魔法の無い野蛮な世界で科学の力だけでそんな技術が生まれ使われているのかという魔術師ならば誰でも思う素朴な疑問だった。だが、実際にこちらの世界では一部の機能が使えなくなったが、魔力が切れるまでの間、細密な画像や多量の文書がその中に保存されているのを見せられたり、新たな画像を写し取ったり、文書を作ったりもできるのを見せられており、遠方の仲間同士でそのやり取りができたという部分だけ虚偽を述べる理由が彼らにはない。


 ならば、彼らの世界にそうした科学の技術が存在しており、その技術を我々が再現できるのかという問題になって来る。


 遠方の魔術師同士が会話する『遠話』、見たままの情景を写し取る『幻像』と離れた場所でそれを再現する『投影』、いずれもかなりの修行と魔力が必要だが、どう計算しても、極微の雷電に変換して貯留する程度の魔力では賄えない。


 召喚者たちは無いと不便だと主張するが、その科学技術による道具の恩恵を受けているだけで、どういう技術でそんなことができるのか尋ねても、十分な答えは得られなかった。


 魔力切れで使えなくなったそれを提供してもらい、分解・分析を試みたが、術式が魔術紋では無く、小さな固体欠片の中にそれぞれの役割を持たせ、極微の雷電が通るルートが細かく走っていて、作用するそれぞれの組合せによって様々な魔術と同等の技術が発揮できるのであろうという推測の域を出ない結果で終わった。


 最終的に、全て魔術と錬金術で新しい魔道具として作成するという原点に立ち返り、極微の雷電を使った形式という基軸はすっぱり捨てる方向に舵を切った。魔力のロスを少なくした分同じサイズでも魔力の充填は多くできるし、各術式に多く配分できる。


 試作品は『黒曜石の銘板オブシディアン・タブレット』と呼ばれている。黒水晶より黒曜石の方が安価なので。まだ現状では、三連塔の間で会話や幻像を送り合う程度の出力しか得られておらず、王都と最前線の距離で同じことをするためには、彼らの持つサイズの数十倍の大きさと重さが必要と計算されており、口さがない連中には『黒曜石の石柱オブシディアン・オベリスク』と呼ばれている。


 現状実用化されている技術は、最初に研究された極微の雷電を使った召喚者の所有する『賢き音声スマートフォン』の充電チャージだけで、現在、三連塔と三連塔出身の魔術師たちの副業として異世界語で書かれた『スマホ、充電できます』の看板が配布されている。


 

 

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