僕がスマホで待ち合わせしてから告白するまでの物語

メラミ

スマホに思いを込めて。

 ある日、ジュンは高校生になり、東京に遊びに行くことになった。

 ハツはジュンの中学校の後輩であり、二人は数日前から付き合っている。

 二人が知り合ったのは、SNSだ。出会い系サイトとかそういうのを使うにはまだ早い年齢であった。二人は母校が同じという理由でIDを交換した。つまり、同世代と通話アプリで会話するのが楽しくなり「実際に会ってデートでもしない?」という展開になった。


「東京行くの? まぁ高校生だから勝手に行っといで」

「……心配じゃないんだ」

「そりゃ夜遅くなったら心配だけど、昼間だからいいんじゃない?」

「父さんまで……心配するところそこ?」


 ジュンの両親は顔を一瞬見合わせると、父親は咳払いをし、母親はなんだか嬉しそうな顔をしていた。ジュンは両親に年下の女の子と付き合っていることを話していなかった。けれども、そのことを二人には話さなくても良さそうだ、と思っていた。

 明日、ジュンは東京へ行くと両親に話すと、部屋へ戻りスマホを見つめた。

 通話アプリを開くと、ハツからの通知が20個以上溜まっていた。


(何をそんなに舞い上がっているんだ……って俺もだけど)


 内心ジュンもハツに会いに行けるから嬉しくて堪らなかった。中学校を卒業して東京を離れて暮らしているジュンは、久しぶりに東京へ行けるのも嬉しかった。後輩のハツと自撮りを交換した時の彼女の反応が良かったので、ジュンは思わず「東京へ行きたい」というのを口実に「はっちゃんに会いたい」というメッセージを送った。

 それはつまり……告白をするという話でもあった。


 スマホを忘れずリュックにしまうと、ジュンは新幹線へ乗った。乗っている間もジュンはハツと通話アプリで会話をしていた。ラブラブなスタンプだけのやり取りが続いて、楽しくなる。顔を上げると、間も無く東京駅に辿り着くという電光板に気づく。

 ジュンは東京駅に着き、ハツへ連絡した。


『東京駅に着いたよ。改札出たところで待ってるね』

『どの辺? 東京駅って広くない? ちょっと待って』


 ジュンは彼女の「ちょっと待って」がわからなかった。

 するとしばらくしてハツから連絡があった。


『山手線の改札口わかる? そこまで来れる?』


 可愛いウサギが汗をかいて謝っているスタンプ付きでそう返ってくる。

 自然とすぐ既読が付いた。


『じゃあ、僕が今からそっち行くから』

『うん、あ、ちょっと待って』

『何?』

『いや、何でもない』


 彼女の意味深な会話は終わった。

 どちらが動くべきだろうか。彼女が待ってというのに来てと言ってくる。

 仕方がないから、山手線の改札口まで歩くことにした。


(お土産や食べ物、いろいろ売ってるなぁ……)


 ジュンは辺りを見回しながら、歩いていた。

 ハツのいるであろうところまで、15分くらいだろうか。

 スマホがポケットの中で振動した。彼女からの連絡だろうか。

 ジュンは歩みを止めスマホを見たが、つまんない顔をした。


『東京ばななとか、お土産買ってきてねっ!』


 母親からの通知だった。ジュンは軽く溜息をついて、再び歩き始める。

 山手線の改札口まで来てみたが、ハツの姿は見当たらなかった。


(あれ……この辺で大丈夫だよな……)


 ジュンは不安になりながら改札前の柱で、ハツを待つことにした。

 彼女に連絡してみる。しかしながら、すぐに既読がつかない。

 何でこんなに不安になってしまうのだろう。ただ、待ち合わせをしているだけなのに。ジュンはハツを待っている間に、近くの物産店にでも行ってお土産を買って来てしまおうかとも考えた。迷っているうちに、10分以上経ってしまった。


(はっちゃん、どうしたんだろう……)


 電話をかけようとした時、遠くの方でハツらしき人物が見えた。彼女は周辺を見渡しながらうろうろしていた。彼女もスマホを耳に当てて、ジュンの声を聞こうと電話をかける仕草をする。


「「あっ……!!」」


 電話がつながる前に、二人は思わず声を上げて片手を左右に振った。

 ハツはごめんと言ったのだが、待ち合わせ場所を離れた理由を、その時は言わなかった。ジュンは頭を少し掻きながら、仕方がないなと呟いた。二人は手を繋いで歩き始めた。


「ねぇ、スカイツリー行って写真撮ろうよ」

「そうだね。夜行けないのが少し残念だけど」


(あ……お土産もどこかで買わなきゃ)


 ジュンは東京周辺に詳しいハツに連れられて、スカイツリーに辿り着く。

 そして、二人はスカイツリーの頂上の撮影スポットへ行き記念撮影をした。


「はっちゃん……あのさ、僕と――」

「ねぇねぇジュン君、ここの床踏める? あたしは平気だよ〜」

「いや、僕は無理」


 そう言ってガラス張りの床の目の前で立ち止まる。ハツがガラス張りの床の上を歩く姿を見ていた。ジュンはここで言うのも照れくさいかもと思い、ハツをレストランへと誘う。人目が気になるし、何より……告白しなければ。


(あ、いっそのこと通話アプリで……)


 ジュンはあることを思いついた。でもこんなこと味気ないし、思いが伝わらないかもしれないとも考えた。しかし、ジュンは諦めなかった。実際にやってみて、彼女の心が動けばそれでよし。今までの会話の中で「好き」とは何度も伝えた。その好きの度合いをわかってもらいたくて、あることをしようと思い立つ。


 二人はレストランで食事をしていた。黙々と食べ続け、食べ終えるとジュンはスマホを取り出し、通話アプリにハツへのメッセージを書き込みする。

 ハツのスマホが鳴った。不審に思いながらスマホを見ると、ジュンからのメッセージだった。


『結婚を前提にこれからもお付き合いしてください』


 その文のあとには、ハツの大好きなキャラクターの「よろしくスタンプ」を付け足した。さらに、緊張したのかいつもと違う「愛してる」と書かれたスタンプを入れてしまう。


 ハツの反応はどうだっただろう……。ジュンはちらっとハツの真顔を見た。彼女がスマホの画面をじっと眺めていて、こちらの反応に気づかない。


(やっぱり口で言わなきゃ、ダメだよな……)


「あ、あのさ――!?」


 ジュンは声をかけようとしたのだが、ハツは突如、静かに泣き出してしまった。

 嬉し泣き? それとも何だろうか。


「は、はっちゃんど、どうしたの?」

「ううん。ありがとうジュン君……」


 ハツは一旦落ち着いたのか、テーブルに置かれていた水をゴクリと音を立てて飲み切る。彼女は深呼吸をしてジュンにこう言った。


「あたしね、今学校に行ってないの。いわゆる不登校ってやつ」

「う、うん……」

「ジュン君との東京デートとてもいい思い出になった。……早く大人になりたいなぁ」

「そうだね。はっちゃん、急に泣き出すからどうしたのかと思ったんだけど……」

「…………」

「はっちゃん?」


 ハツは沈黙を続け、再びスマホをいじり始めた。するとジュンのスマホが彼のポケットの中で振動した。ジュンはすぐスマホを見る。ハツからの通知だった。さっきの返事だろうか。いつの間にか手汗が滲み出て、ものすごくドキドキする。


 ハツの返事は――


『よろしくお願いします!』


 と、書かれていた。


 ジュンとハツはスマホから目を離し、顔を上げる。お互い目を合わせ、もう一度通話アプリの画面を見て、微笑んだ。なんて声をかければいいんだろう。ジュンは心の中でそう思いながら、彼女に「ありがとうスタンプ」を送った。気楽なものだな。今はただただ嬉しくて堪らなかった。スタンプ一つで思いが伝えられる。口で言うのが恥ずかしい自分には、とても便利なツールだ。


 新幹線の改札口前で、ジュンはハツに改めてお礼を言った。彼女が不登校である話は詳しくは聞けなかったが、とても充実した1日だった。デートはお互い本当にいい思い出になった。帰りの新幹線の中でも、ジュンとハツとの通話アプリでの会話は止まらなかった。一旦スマホから目を離し、車窓の山々を眺める。その時、ふとあることを思い出した。


(あ……母さんにお土産買うの忘れた)


ジュンはせっかく楽しい思い出になったデートなのだから、親へのお土産はまたの機会でも構わないだろう、と思い至った。

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