第四章 くぬがの道
くぬがの道
「おお。笙明に会ったのか」
「はい。それは勇しいご活躍で」
一ヶ月の旅を終えた栗松は都の天領庁で会った夕水に挨拶をしていた。
息子笙明の書状を嬉しそうに読む夕水であったが、そばにいた晴臣は静かに目を細めていた。
「使者殿。彼奴の供はどうしておいでか」
「はい。天狗の篠様も幼いながら逞しく。龍牙様は妖を一太刀で」
「もう一人おっただろう」
「……いえ。男衆三名ですが」
「そうか」
丁寧に男衆と加えた栗松を晴臣はじっと見つめていた。
陰陽師最高実力者。その力鋭い晴臣は、水鏡の占いで弟の傍の美少女の姿を捉えていた。こんな彼は栗松の目の動きを注視していた。
「それに皆様、つつがなくお過ごしでした」
「そなた。その胸のものはなんだ」
「は?」
「視える……これは」
晴臣はすっと栗松の胸元から白い物を取り出した。いつの間にか羽になっていた澪の髪。彼女の温もりを彼は常に胸にしていた。
「鳥の羽か」
「は、はい。それは旅のお守りで」
「これが、守りとな」
彼は美羽をそっと顔の前で透かした。
……妖の匂い。女だな……まあ、無害だが……
困っている彼に晴臣は返してやった。その顔を見て、よほど大事なものと確信した。
「笙明に授かったか」
「いいえ?!笙明殿は関係ございませぬ。これは私が」
「ふ。もう良い」
慌てた様子で答えを得た晴臣は、父とともに天領庁を後にした。白い石が敷かれた城内は神社の再建が進んでいた。
「良かったの。皆、元気とのことで安堵した」
「そうですね。こちらよりも楽しそうです」
「珍しいな。お前がそんなことを言うなんて」
「そうですか……」
夏の空は白い雲が浮かんでいた。都の暑い夏に晴臣は遠き東を望んでいた。
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