「第6章 愛を伝えたいと思う時」

夕焼けの下、ベンチに座っている陽菜はまるで一枚の写真のようで、どこかの個展で看板作品として飾られていても、全然違和感がなかった。

時折、悪戯心を持った風が彼女の髪を揺らす。それだけで、今度は写真から映画のワンシーンへと形を変える。美しく媒体を変化させていく陽菜は近付いてくる僕に気付き、こっちを向いた。


「おーいっ!」


 細く白い腕を大きく振る陽菜に僕も手を振り返す。砂場の砂が風で舞い上げられて、足元を薄い砂浜にする。僕はジャリジャリ小さな足音を立てながら、彼女の隣に座った。

 正確な日付までは分からないが、最後にこのベンチに座ったのは、最近のはずだ。なのに、随分と久しぶりな気がする。

 薄い砂浜の底にある、レンガ床に視線を落としつつ、僕は口を開く。


「互いに隠し事はナシにしよう。溜め込んでいるものは、今日で全部吐き出すんだ」


 陽菜の顔を見ながら言える勇気はなくて、下を見ながら言ってしまう。彼女の返事を聞くのが怖くて顔を上げられない。

失敗した、勇気を出して最初から顔を見ながら言えば良かった。無理でも何でもやるべきだった。そっちの方がまだ簡単だったと今更気付く。

頭を上げるのが、こんなに難しいなんて……。

 後悔の海を漂っていると、耳の少し上から返事が落ちてくる。


「うん、了~解」


 その一言に僕は遭難から脱出して、岸に辿り着いた。

やっと顔を上げられる。隣には、いつもの可愛い陽菜がいる。幽霊になっても覚えていた、世界で一番大切な人。つい見惚れてしまう。


「ん、どうしたの?」


「あっ、いや。別に」


首を傾げる陽菜に平静を取り戻そうとするが、勘の良い彼女がその瞬間を見逃すはずがない。


「私に見惚れていた、とか?」


「……正解」


「あらら。それはありがとうございます」


 丁寧に頭を下げる陽菜。心の中をこうも簡単に覗ける彼女に僕は翻弄されっぱなしだ。そして、そういう部分も大好きだから、始末が悪い。

いけない、話が逸れてしまいそうになる。小さく咳払いをして、本題に流れを戻す。


「さて、じゃあ僕から話すよ」


「どうぞ」


 隣にいる陽菜もすぐに真面目モードになってくれた。焦げ茶色の瞳がこちらをじっと見つめている。僕は目を閉じて、ここ数日の出来事を思い出す。

 思えば、謝れないだけで随分と遠くまで来たもんだ。ここまで遠くなるなんて、誰が想像しただろうか。今でも話すのが怖い気持ちはゼロではない。

 話し終えて、陽菜がする反応はいくつかあるだろう。その中にあるであろう、最悪の反応を想像するだけで、目の裏が震えてしょうがない。

けれど、その震えもどうにか軽減出来る。

なぜなら、陽菜に話したい気持ちが僕の心の占有率を独占しているからだ。この気持ちの方が怖い気持ちより勝っている。

陽菜は僕の事を覚えていてくれた。

この揺るぎない真実のおかげで、何でも陽菜に話をしたい気分になる。彼女を愛しいと思う気持ちは、生きている時よりも遥かに高く、数値は限界を知らず、現段階でも瞬間最高記録を自動更新中だ。

目をゆっくり開いて、新鮮な酸素をたくさん吸い込んだ。

よし、燃料補給完了。


「陽菜は生きている時、僕と最後にした事を覚えている?」 


「ううん、なーんにも覚えてないよ」


 陽菜は素直に首を横に振る。まずは前提条件クリアだ。


「僕達は喧嘩したんだ。きっかけは小さな事。マッチの火程度の、吹けばすぐに消えるものだった。なのに僕が酷い一言を言ってしまったせいで、一気に山火事になってしまったんだ」


「酷い事ってどんな?」


「それは……」


 言葉が詰まる。心の奥の一番脆い部分を他ならぬ陽菜に見せる恐怖。

これは想像以上だ、クラクラしてくる。まさにバンジージャンプ前の心境に近いだろう。


「言いたくない?」


 僕の気持ちを察した陽菜は救いの手を差し伸べる。前はその手を掴んでしまったが、今回は掴まない。自分の力で、立ち上がってやる。

この後に及んでまだ甘えるようでは、陽菜の彼氏失格だ。


「大丈夫。言えるから」


 一拍深呼吸。大きく息を吸い、肺に蓄える。


「陽菜が彼女だと大変だって言った」


 もう一度同じ言葉を、絶対言いたくない相手に言ったのは、人生で初めての経験だった。言い終えると、言う前とは視界の色彩がとても綺麗になっている現象が起こった。

 僕の刃物のような言葉を聞いた陽菜は下を向いてしまった。ダメだ、これじゃ、前に言った時と変わらない。ただ二回、陽菜を傷付けただけになってしまう。

 それは嫌だ。


「ごめんっっ!!」


 腹から声を出たという表現がまさに的確な大声が出た。空気がビリビリと振動したのがハッキリ分かるくらいだ。

幽霊で良かった。生きている頃だったら、間違いなく遊んでいる子供達の注目を集めてしまう。

 思いっ切り謝ってみると、助走が付いた走り幅跳びのように、その後の心境が勢いに乗って口からドンドン飛び出す。


「僕は陽菜に最低最悪な事を言った。それまでにどんな喧嘩をしていたとしても、それだけは言ってはいけない。陽菜が忘れているのは知ってたけど、だからって帳消しにしてはいけないんだ。ずっと謝りたかった。あの日に傷付けてしまった陽菜の顔は目に焼き付いていて、ふとした瞬間に視界に湧き上がってくる。その度に、自分を殴りたくなるんだ」


「じゃあ、この前のも……」


「あれは、不安そうな陽菜の顔が喧嘩した時と似ていたんだ。だから我慢が出来なくて……」


「喧嘩、か」


 下を向いている陽菜はそれだけを短く呟いた。怖くて彼女の顔を覗き込むなんて事は到底無理なので、今どんな表情なのか分からない。

 体が震える。鳥肌が全身に発生して、警報が出ている。さっきの震えなんて、レベルが低すぎていたのだ。

あの時は言いたい気持ちの方が大きかったから大丈夫だったけど、今はそんな簡単に対処出来そうにない。

目を力強く瞑り、警報群を彼方へ追い出す。小さく息を吐き、体の緊急メンテナンスを一折終えた頃、陽菜が顔を上げる。


「悠君の傍にいると、時々、胸の中が冷たい風に当たっているような感じがあった。それはちょっとの間だけしか起こらなくて、知らないフリをしていたら、どこかに消えちゃうんだ。でも、中々消えない時もある。そんな時、幽霊散歩って言って一人になっていたの」


 幽霊散歩の動機が分かった。道理で同じ幽霊なのに僕は全く魅力を感じないはずだ。おかしいと思っていたんだ。成程ね、そういう事か。うん、納得。

一つの謎が解決した同時に、また一つ罪悪感が芽吹く。

 陽菜の胸の中に冷風を当てた件だ。記憶がないからこそ、ここ数日の僕には謝るのを迷う時間が存在した。けれどその期間、彼女の体に影響があったのだ。本人に覚えがない以上、それはさぞ怖かったに違いない。


「怒ってるよね……?」 


 至極当然の事を僕は尋ねる。答えは分かり切っているのに、知っているのに。

それでも口が勝手に開いてしまった。


「うん♪」


 満天の笑顔で頷く陽菜。


「最近、悠君が何かよそよそしいな~とは思っていたけど、喧嘩とはね~。もっと早く教えて欲しかったなあ。そういう意味で怒っているよ」


「てりゃ」


陽菜は僕の頭を叩く。痛みはなく、優しく叩いてくれた。頭に残る感触は、陽菜が僕に触れる事が出来た証。

 良く考えたら、陽菜とは今までに手を繋いでいた。それだけでも普通ピンとくる。気付かなかったのは、それが当たり前だったからだ。習慣とは実に恐ろしい。


「さて、悠君の話は終わりだね? 次は私の番」


 攻守逆転して、今度は僕が話を聞く立場になった。これはこれで緊張する。向こうが必死で話すのだから、こっちも必死に聞かなければいけない。

この気持ちを陽菜はさっき味わっていたのだろう。緊張で奥歯が痒くなり始める中、彼女は口を開いた。


「私が悠君に隠していたのは一つだけ。悠君がもう死んでいる事」


「やっぱり……」


 例えば、自動販売機で飲み物を買わせなかった事。ここ最近ずっと二人だった事が陽菜の隠し事に当てはまる。

学校や公園、通学路と言った特定の場所は出てくるのに、肝心の人々。僕と親しい知人が一人も出ないのは僕が幽霊だったからなんだ。

覚えていないのだから、会話のしようがない。何より、僕の姿は生きている人間には見えないのだ。向こうから声を掛けられるなんて事はまず有り得ない。

……あれ? 他に誰かいたような……。

記憶の片隅に人影が、ぼんやりと浮かびかけた。けれど、それは風を頼りに飛ぶ紙飛行機のように不安定なシロモノで、すぐに墜落して消えてしまった。

しょうがない。取り敢えず、今は保留にしよう。

大事なのは幽霊の方だ。ところどころ現れていた僕の幽霊としての特徴。どうして陽菜は隠そうとしたのだろうか?


「どうして隠していたの?」


 頭の中の疑問を言葉にする。陽菜は困った顔を見せながら、僕の目を見て口を開いた。困りながらも目線を逸らない。その逃げない姿勢は実に立派だ。


「私の、せいだから……」


「えっ?」


 陽菜のせい? 予想外の言葉に脳がフリーズする。聞き返す以外に選択肢は無かった。


「えっと、どういう意味?」


「悠君って自分がどうして死んだか思い出せないんじゃない? ううん、それだけじゃない。きっと私の死因も知らないでしょう?」


ど真ん中を見事に打ち抜く陽菜の言葉の弓矢。まさにその通り。僕は自分の死因について何一つ分からない。それどころか僕は――。

 

 陽菜の死因を知らない。


 どうして知らないんだ? これも幽霊なった原因で記憶が消えている……? いや、違う。陽菜の事まで覚えていないのはおかしい。

幽霊になっても彼女についてだけは覚えていた。

 っという事は、僕は幽霊に関係なく本当に陽菜の死因を知らないんだ。


「さっき喧嘩の事を覚えていないって言ったでしょ?」


「うん」


「さっきも言った通り。私の胸の中は時折、冷たい風が当たる。それは喧嘩の事じゃなくて、その後の事が原因だとばかり思っていた。だから、今悠君から教えてもらうまで喧嘩していたなんて、考えが及ばなかったの。でも今、話を聞いて全部繋がった」


「喧嘩の後の事?」


 引っかかる言葉だった。彼女はそれと勘違いしていた為に、喧嘩の事が分からなかったと言う。一体それは……。


「悠君は後の事は覚えてないんじゃない? 思い出せる?」


「ちょっと待って」


 記憶エンジンを最大稼動させて、あの日を検索する。だがどれだけ深く潜っても、該当件数はゼロだった。


「どう?」


「思い出せないや」


 首を横に振り力無く答える。


「何かね。私も最初はすぐに出て来なかったんだけど、ある日突然フワっと浮かんで来たの。だから、悠君も今は出て来ないだけで、その内浮かんでくると思う」


「そうなんだ」


 幽霊の先輩である陽菜の言葉に説得力がある。


「あの日、私はけやき公園に一人でいた。その時はとても悲しい気持ちだった。体中が石みたいに重くて、そのままズブズブと地中に沈んでしまいそうなくらい。白黒の視界で私は動けなくて、ずっと立ち尽くしていたの。その時、遠くから悠君が走ってきた。そこだけがカラーで心臓が飛び出しそうなくらい嬉しかったのを覚えてる」


 陽菜の口から語られるあの日の様子はいとも簡単に背景が浮かんだ。おそらく僕も思い出せないだけで、頭のどこかに残っているに違いない。


「悠君が近付いてくるだけで私は石化から解放されていた。それまで動けなかった不満を爆発させるように私は悠君に向かって一直線に走り出した……」


 段々と陽菜の声が小さくなっていく。

話の先を聞くのが怖い。


「あの時の私は悠君しか見えなかった。音も見えるものも、全部含めて。悠君一人だけしか、私の世界にはいなかった……」


 陽菜の話がそこで止まった。目をキツく閉じている。ああ、彼女も怖いのだ、苦しいのだ。

辛そうな陽菜に僕が出来る事はこんな事しかない。僕はそっと陽菜の膝の上にある手に自分の手を重ねる。


「ありがとう」


 陽菜が僕の手の更に上から、手を置いて笑顔で言った。


「無理はしないで」


 そう言うと、ゆっくり一回だけ頷いて、陽菜は再び物語を再生する。


「けやき公園を飛び出し。私は悠君の元へ走り出す。目から大雨のように涙が流れていた。水の中に潜ったような視界で、ただ一点、悠君だけを見ていた。そして、私の世界は横からの突然の衝撃と共に、景色が一回転して……。気付いたら、真っ赤な空を見ていた。何が起こったの? 悠君は? って頭は思うんだけど、体はブリキ人形みたいに固くなっちゃってて、私の言う事をまるで聞かなかった」


 一つ一つ、陽菜の話す言葉が僕にぶつかってくる。話している彼女は勿論の事。聞いている僕だって苦しい。内臓をカッターでグシャグシャと掻き出される気分。さっき重ねた僕の手に彼女の両手の温もりが伝わっている事だけが、救いである。


「私はそこで一回、世界が真っ暗になった。でも、そんなに時間は長くないと思うよ。真っ暗から帰ってきたのはそうだね、せいぜい数分程度だったと思う。だって、足元にはまだちょっとだけ暖かい私が血の池で倒れていたから。ぐるっと周りを人の壁に囲まれている状態だった。制服のブラウスが濃い赤で染まってた。その時にね、ああ死んだんだなって理解したの。そして、悠君にも覚えはあると思うけど、その瞬間にみーんな忘れちゃった」


 重ねていた僕の両手をぎゅっと持ち上げて、自分の胸に運ぶ陽菜。


「けれど、悠君だけは覚えていた。空っぽだった私の心に悠君だけはちゃんといてくれた」


「僕も全部忘れた時、陽菜の事だけは覚えていたんだ」


「やった、お揃いだぁ~」


 共通項が出来た事が嬉しいらしく、ほにゃっとした笑顔で陽菜は万歳をする。すると、彼女手は僕の手と重なっている為、必然的に僕も半万歳状態になる。ちょっと前なら、こういうのを恥ずかしがっただろう。今はそれがなく、僕も素直に嬉しく感じる。

 だから、繋がれていない反対側の手も一緒に万歳した。これで全部一緒。


「うわっ! 悠君がノリノリだっ!」


「まあね、今日の僕はノリノリ悠君だから」


 驚く陽菜に今日のモードをさらりと告げる。


「おー。初めて見ました。ノリノリ悠君を」


「だろ? 今日だけかも知れないから。ちゃんと目に焼き付けておくように」


 ふざけて言うと、陽菜は「はーい、先生!」っと敬礼をした。可愛い。その仕草にそんな感想を抱いてつい、口から落としてしまう。


「可愛い」


「えっ!?」


 さっきよりも驚いた表情で陽菜は僕に聞き返す。対して、耳まで完熟トマトの僕は、鼻からガス抜きをする事で、赤味を取り除こうと必死だった。


「ねえ~。もう一回言って~っ!」


「また今度。それより話の続きは?」


 強引な軌道修正に陽菜は口を尖らせて、「ノリが悪いぞ~」っと文句を言っていたが、小さくため息をついた後、口を開く。


「私は自分が死んでしまったのに気付いたのは、自分の死体を見たから。幽霊になった私は目の前で、動かない私を抱きかかえて、何度も揺する悠君を見ていた。悠君は、私の名前を恐ろしい程静かに呼び続けていて、それに返事が出来ないのが、本当に嫌だった。私は、悠君が呼ぶ度に『はい』って言ったけど、私の言葉は圏外で届かなかった……」


 僕はその出来事を覚えていない。でも陽菜の口が苦しそうに動き、言葉が耳に入るだけで、心が抉り取られそうだった。覚えていないだけで、この威力。

記憶していたらと思うと……。


「私はそれからずっと、悠君の後ろにいた。そりゃそうだよ。だって悠君以外には、誰も知らないんだもん」


「うん、確かに」


「悠君の傍に、それこそ守護霊の如く片時も離れず傍にいた。私は悠君に話しかけ続けた。相変わらず圏外だったけど、それでも止めなかった。大声を出したり、耳に口を付けて囁いてみたり、色々試してみたけれど。結局、最後まで繋がらなかった……」 


“最後まで”その言葉は一際重く聞こえた。


「あの頃の悠君は人形になっちゃってたなあ。学校も行かなくて、登校途中でいつも足を止めちゃって、けやき公園のベンチで夕方まで、ボーっと空を見ているだけの日々を送っていた」


「空を?」


「うん、ずっと空だけを見ていた。あの時、悠君の目線の先には、何も無かったと思う。顔をただ上にしていたら、そこに空があっただけ、みたいな感じ」


 そんな事をしていたのか。丁度、今もけやき公園のベンチに座っている。条件は同じ。僕は陽菜の話の通りに空を見てみた。細い木を網の目にして作られた天井の隙間から、夕焼けの欠片が覗ける。


「あ、そんな感じ」


「そうなんだ」


 陽菜が見ていた僕は、どんな気持ちでこの空を眺めていたのだろう? 自分の考えがさっぱり理解出来ない。こんな小さい空を瞳に映す日々。

 そこまで考えていると、ふいに僕の手に重なっている陽菜の手に力が入るのを感じた。ああ、当たり前だ。視線を上から陽菜へ変更する。


「ごめん、無神経だった」


「ううん、見たかったら我慢はしなくていいよ? って言ってあげたいけど、ちょっとキツいかな……」


「ごめん……」


 陽菜に頭を下げる。彼女は「うん、大丈夫大丈夫」っと静かに答えた。

 鉛の粒でも混じっているのかと疑う程、空気が重い。元々、明るい話ではないのは、百も承知である。さらに、現実は予想を遥かに凌ぐ。だが、決して逃げてはいけない。先に進まなくてはならない。


「それで、その後は?」


「悠君がけやき公園のベンチに座り始めてから、一ヶ月が経とうとしていた。その頃になると、流石にもう話しかける事は止めていたの。いつもの通り、傍にはいたんだけどね」


 小さく笑う陽菜には、当時の景色が見えているのだろう。


「あの日も変わらず悠君の隣にいた私は一緒に座って、もたれ掛っていた。案の定、もたれ掛ったくらいでは全く気付いてくれないけどね。そして、もう日課となっていたけやき公園のベンチで空を見る。いつもの指定席で。あ、今私が座っている場所がそうなんだ。ここであの日も空を見ていた時、悠君が呟いたの。『陽菜』って。今までもたまに呟いてくれる事があって、その度に『何~?』って返事をしていたんだけど、結果はいつも決まっていて、次の言葉はなかったの」


 互いに一方通行状態で繋がらなかったと陽菜は話す。毎日、傍にいただけに、それは相当応えるだろう。すると、陽菜は「でもね……。あの日は違ったの」っと意外な事を口にした。


「違った?」


「あの日。私の名前を呟いた悠君は、周りをキョロキョロして一言。『そこにいるのか?』って言ったんだ」


 陽菜の体が小刻みに震える。


「弾かれるように私は飛び起きて、目に涙を浮かべていた。伝わったんだっ!! 届いたんだっ!! そんな気持ちが私の中に広がっていった」


「ずっと届かなかったんだから、当然だよ」


「ありがとう。けどね、残念ながら圏外のままだったんだ……」


 首を横に振って、悲しく微笑む陽菜。


「悠君は立ち上がって、けやき公園の外を見ていた。『私はここだよっっ!!』そう大声で訴え続けたけど、まるで届いていない。悠君はフラフラとした足つきで一歩、また一歩と外へ向かって歩き出す。その時の悠君の顔はとても言葉では上手に伝えられないな。今にも死にそうなくらい青く、なのに口元は笑顔で、目からは涙が流れていて……。とにかく、壊れてしまいそうな顔だった。こんな状態の悠君をここから出してしまったら……。最悪の結末はすぐに浮かんでくる」


「あの……、陽菜は幽霊だけど、その時の僕は……」


 陽菜は力弱く頷く。


「幽霊は幽霊とじゃないと触れない。今の私達が触れるのは二人が幽霊だからこそ」


 陽菜は僕と繋いでいる手を持ち上げて、ニギギニギと指を開いたり、閉じたりを繰り返した。


「絶対にどうあっても触れる事は出来ない。それは充分承知してる。それでも、私は大声を出し泣いて顔をグシャグシャにしながら必死で止めた」


 幽霊と人間の関わりの薄さが改めて伝わってくる。僕達は砂場で遊んでいる子供達と一緒に遊べない。生物には触れないのだ。手を伸ばしても指先はあの子達にはぶつからない。水蒸気の如く曖昧な存在。それが僕達幽霊。


「決して触れない中、悠君はけやき公園の外まで、あと少し。アスファルトとレンガ床の境界。ほら、丁度あの辺りの所まで達してしまった」


 普段は気にも留めないであろう、その場所を見る。まさに一つの国境のよう。


「両手を広げて出ていく悠君の正面に立って、必死で止めた。『私はここだからっっ!!』崩れた声で叫ぶけど、言葉は届かない。とうとう悠君は正面にいる私をすり抜けて、けやき公園から出てしまった」


 そう言って、陽菜はその場から立ち上がった。


「歩きながら話していい?」


「ああ」


 僕達はけやき公園を出た。無論、手はずっと繋いだまま。

出る直前、丁度話に出た入口を通る時は、嫌な感じがして、気分が良いものではなかったが、僕だけではなく、陽菜も同じだったらしく、繋いでいる手は微かに震えていた。


「大丈夫?」


「あはは……。何かこう、改めて当時の事を話すとね。私も色々思い出しちゃって……」


 弱々しく微笑む陽菜を見ていると、心が重くなる。もっと酸素が欲しいと肺が要求してくるのが理解出来るくらいに、息苦しさを感じる。

 けやき公園を出て、僕達は歩いた。ここを通ってけやき公園に入った時は、まだ数時間前だと言うのに。陽菜の話を聞いてからでは、年単位の膨大な時間が経過した気がする。


「ゆっくり歩こう」


「ありがと、悠君」


 一歩ずつ右足と左足を交互に持ち上げて、前に下ろす。歩くという誰もが当たり前に行う動作を僕達は意識的に丁寧に行った。


「悠君がけやき公園を出た時、私はその場でしゃがみ込んじゃって、しばらく動けなかったの。そしたら、悠君を見失ってしまった。立ち上がり振り返ったら、いつも必ず視界にいた悠君がいない。その時点で、私の心は空になる寸前だった。そうならなかったのは、大きな音が世界を揺らしたから」


「音?」


「うん、世界中に響いているんじゃないかってくらいの轟音だった。ドンッ! って何かが、衝突する鈍くて低い音。その音が耳に入ると、私は反射的に走り出した。風のように速く走り、見失っていた悠君を見つけられたの。それがこの場所」


 陽菜が足を止める。この場所は、三車線以上ある、交差点の中心だった。流星のように車がヒュンヒュンと走る。

今、僕達はその交差点の中心に立っている。信号は青。当然、流星群は始まっているが、僕達に影響ない。感じるのは耳に張り付くエンジン音、鼻に侵入するガソリンの匂い程度のものだ。どうにでも我慢出来る。

陽菜の声が流星よりハッキリ聞こえるのは、幽霊だからだと思う。自分の置かれた極めて特殊な環境を改めて確認していると、陽菜が手を伸ばした。

 横断歩道の向こう側、信号という名の灯台の下に、缶コーヒーといくつかのお菓子。そして、風に撫でられている花束があった。


「悠君の身内の人達が置いていったんだよ。生きてる頃の私だったら、誰なのか知っていると思うんだけど、幽霊になってしまった私には会話の流れを後ろから聞いて、身内の人達だと判断するしかなかった。……ごめんなさい」


 陽菜はどこも悪くない。なのに自分を責めて頭を下げる。風に飛ばされて消えてしまいそうなくらい、彼女は儚く見えてしまう。


僕は陽菜の存在を全身で確かめるように、しっかり抱きしめた。


「陽菜は一つだって悪くない。頑張ってくれたんだろ? ありがとう。全部、何もかも僕が悪い。酷い言葉を言ってしまって、二人共死んでしまった……」


 どれだけ謝っても、言葉で世界は巻き戻せない。一度死んでしまった僕達は、どうあっても生き返らない。

 揺るぎない真実。それは一つだけだ。僕が陽菜を……。

 そこまで考えた時、陽菜がバッと僕から離れた。


 パンッ!!


 頬に鋭い痛みが走る。それが陽菜にビンタされたからと気付いたのは、無意識に右頬を手で押さえていたからだった。


「言わないで……」


 小さい言葉が陽菜の口から流れる。いくら聞こえると言っても、小さ過ぎて本当に聞こえなかった。何て言ったのか聞き返そうとした時、今度は彼女から僕に抱きついてきた。

普段ストレートな愛情行動を照れて、しようとしない彼女。さっきから意外な行動の連発に驚きっぱなしである。

 僕の胸に顔を埋める陽菜。

僕は彼女の肩にそっと手を置いた。


「陽菜、ごめん……」


 この後に及んで、謝る以外の言葉が出ない自分の語彙力の無さが、嫌になる。もっと国語を勉強しておけば良かった。潤んだ焦げ茶色の二つの瞳から、宝石のような涙を流しながら、陽菜は顔を上げる。


「謝らないで。悠君は悪くないよ。喧嘩なんて恋人なんだから普通じゃない」


「でも、そのせいで取り返しのつかない事態に……」


 喧嘩両成敗なんて甘い言い方で終わっていい次元を超えてしまっている。悪いに決まっているんだ。それなのに、陽菜は僕に優しい言葉を掛けてくれる。

 陽菜が恋人で僕は幸せ者だ。残念なのは、幸せなのは僕だけで、彼女を不幸にしてしまった事だ……。

 陽菜はじっと僕を見た。


「悠君」


 真剣な眼差しに僕はたじろぐ。


「な、何?」


「喧嘩は恋人同士には必要な事だから。謝って仲直りが出来たらそれでいい。悠君は謝って済む問題じゃないとか考えてるんだろうけど、そんな事ないからね? 皆忘れてしまっても、悠君を覚えているから。それに仲直りだってちゃんと出来た、こうやって――」


 そう言って陽菜は僕の口にキスをした。

 どこまでも柔らかく優しくて甘い感触を、目を瞑って受け入れる。

 陽菜の二酸化炭素は、前に補給にしたのに足りなかったようだ。口内に入る甘い吐息にそう思った。世界が自分達のみを残して消失する。

 今、感じているのは陽菜の柔らかい唇だけ。やがて、彼女の唇が離れて、世界は再び動き出す。

再起動した世界で最初に見たのは、照れ笑いをしながら頬を赤くする可愛い陽菜の姿。


「いや~。自分からは何度やっても恥ずかしいもんだね」


「そこがいいんじゃないか」


 そう言うと、陽菜は目をキョトンとさせて驚いた後、「そだね」っと同意してくれた。


「戻ろっか?」


「ああ、色々教えてくれてありがとう」


 辛かったろうに、思い出したくない事もあったろうに。よく最後まで話してくれた。


「どういたしまして。じゃあ、せっかく頑張ったから、ごほーびが欲しいなぁ」


 珍しくおねだりをする陽菜に僕は頷く。

 今の自分に出来る事なんてあまりないが、陽菜の願いには全力で応えたい。僕の頷きに彼女は「ワ~イッ!」っと無邪気に喜んだ。その笑顔にまだ何もしていないのに充実感で満たされる。


「どんな御褒美を御所望ですか?」


「ふっ、ふ、ふ~。それはね~?」


 一体どんな願いなのだろう? 緊張と不安と楽しみが原材料の僕の心臓は大きく鼓動していた。


「私のどこが好きか教えて?」


「あー」


 そうだ、その約束をしていた。すっかり忘れていた。

……いやいや話す約束を忘れていただけで、断じて好きな箇所がない訳じゃない。

 僕の口から出た、何とも奇妙な返事に陽菜は抗議する。


「さては忘れてたな?」


「まさか。ちゃんと覚えてるよ。うん、決まってるじゃないか」


 こういう類の勘の鋭さが学問として存在したら、陽菜はかなりの大学の推薦を取れるに違いない。僕の頬を両手でプ二プ二と押したり、痛くないように力を抜いて引っ張りながら、疑っている。


「怪しいぞ~?」


「怪しくふぁい、怪しくふぁい」


 頬をイジられているので、変な発音になってしまう。弾力が売りのゼリーみたいだ。

 そのゼリーは陽菜の口に合ったようで、「ぷっ」っと小さく吹き出して、両手を僕の頬から話した。


「よし、信じてあげよう!」


 そう言ってくれたのが嬉しくて、僕はつい安堵のため息をついてしまった。

 ……しまったっ! 

これじゃ本当に忘れてたみたいじゃないか! 

激しく後悔するが、陽菜は僕のため息にすらさっきみたいに笑っていた。


「それで? 言ってくれるの?」


「こんな場所じゃ言えないです。雰囲気重視なので」


 交差点の真ん中でなんて、いくら幽霊だとしても拒否だ。大事な事なんだから、ちゃんとそれなりに静かな場所を希望。

キスはしたけどさ。


「我が儘だな~。じゃあ、けやき公園は?」


「いいね。あそこにしよう」


 今まで色々な話をしたけやき公園。こんな交差点より百倍適している。

 僕達は交差点を出て、けやき公園に帰る。行ったり、来たり。忙しい一日だ。僕達はけやき公園に着くまで、会話をしなかった。

ただ手を繋いでゆっくり歩く。それだけで二人の間には、満ち足りた空気が充満していた。会話をしなくても、している時以上の幸福感が心に永遠供給されている。


「~♪」


最上級に機嫌が良い陽菜の口から流れる鼻歌に耳を傾ける。どこまでも甘く温いミルクティーのような空間があった。

じっと陽菜を見ながら歩く。前を見なくても、障害物にぶつからない。電柱、看板。路上駐車の車、全部すり抜ける。幽霊とは何と素敵なんだろう。

っが、いくら何でも真横を見ながら、歩いていたら当然、陽菜と視線が合うのは当たり前で。


「ん?」


 顔を傾けて、疑問を出す陽菜はそれだけで可愛い。今日は、今までで一番彼女を可愛いと感じる瞬間が多い。いつもの倍はあるが、本当に可愛いのだからしょうがない。


「何でもない」


「変なの~」


「変です」


柔らかいスーパーボールのような会話は僕達だけにしか周波数は合ってない。生きている内にこんな会話をこんなお天道様の下でしなさいと言われても、絶対無理。今の特別環境だからこそ、可能な芸当である。


「もう着いちゃった」


 けやき公園が視界に見えて残念な感想を口にする陽菜だが、僕も同じ気持ちだ。この雰囲気がけやき公園に入ってしまう事で、溶けてしまうのは、非常に残念である。

よって、こんな提案を試みた。


「けやき公園の周り、一周する? ロスタイム的な感じで」


 敢えてけやき公園に入らない提案。本末転倒も良い所だが、陽菜には効果抜群だった模様。


「するする~。ロスタイム大希望!!」


二人きりの多数決は満場一致で可決されたので、僕達はけやき公園の周りを一周した。

ただの住宅街。細い道や広い道を歩くだけの、平凡満載の散歩コース。このコースはつい、先程のけやき公園に入る事で生まれる気持ちを上手く回復させてくれる。

ここ最近、頭の片隅に常駐していた、油断してはいけない。みたいな思考メモが全て解除されているのである。天井のない幸せすぎる夢を見ている気分で心地良く僕達はけやき公園に帰ってきた。

 いつものベンチに座る。自宅の位置が分からない以上、このベンチが今の自宅なのだ。何ともプライバシーが解放されている家である。なのに、不思議なくらい落ち着く。


「ただいまぁ!」


 っと口から飛び出す陽菜。


「おかえり」


 正確には一緒に帰っているから二人同時にただいまが正しいのか? まあ、どっちでもいいや。そんな事は野暮というもの。

 ただいまを済ませると、早速二人の間を沈黙が泳ぎ始める。


「……」


「……」


 この沈黙の水槽をひっくり返せるのは僕だけなのは知っていた。僕が言わないと、きっと百年経っても元気に泳ぎ続けるに違いない。陽菜だって待っている。だからこそ、ソワソワと落ち着きがない状態でいるのだ。


「すぅ――っ」


 大きく息を吸った。こんなに吸ったのは初めてだ。掃除機のように空気を集めて、言葉を出す為のガソリンへと変換する。そして、充分に補充された時、重かった僕の口を開いた。


「僕は……」


「うんっ!!」


 僕の声を聞いて弾かれたように顔を上げる陽菜。

焦げ茶色の瞳は、既に輝き始めていて、次の言葉を待っている。

 陽菜の雰囲気につい、圧倒されそうになる。危ない危ない。目を瞑り短い息を吐く。

 そして、とうとう自分の中に積もっていた、陽菜への想いを告げる。


「仕草や声。性格も全部含めた、陽菜だけの雰囲気が大好きだ。だから近くにいるだけで、嬉しくなる。もっと、もっと一緒にいたい。一秒だって離れたくないんだ。愛してるよ、陽菜」


 自分の心の底に隠してある、金庫にしまっていた物をそっと取り出して空気中に晒す。

 直前まで緊張していたのに、言い終えた後に生まれるこの解放感。ジェットコースターがゴールに到着した時の気分に実に似ていると思う。

 僕の告白を聞くと、陽菜は両手で頬を抑えて顔を真っ赤にした。


「ど、どうも……」


「いえいえ」


 予想外の反応だ。こっちだって頑張ったのだから、陽菜にもそれなり反応を求めても許されるだろう。


「どうだった? 嬉しい?」


 頬を隠す陽菜の両手をそっと広げて尋ねる。目が合っただけで、ボンっと音がしそうなくらい瞬間的にイチゴになる陽菜は、初めて見る。新鮮でとても可愛い。


「嬉しい。嬉しすぎて死んじゃいそう……っ!! いや、もう死んでるんだけど」


「死んじゃうくらい喜んでくれたのなら、言って良かった」


 僕も満足である。


「悠君の口から“愛してる”って言葉を聞けるなんて……。幸せだなあ。ねえ、もう一回言って?」


「えっ?」


 突然のおねだりに思考が停止する。


「もう~。もう一度愛してるって言ってよぉ」


 口を風船にする陽菜は、動物的愛らしさがあった。よし、アンコールを御希望とあらば応じよう、ただし。


「陽菜にも僕に言ってくれたらね」


「わ、私は前に言ったでしょ~?」


 予想通りの抗議。首を横に振り、得意気に答える。


「いーや。あの時は、好きな所を言ってくれただけで、“愛してる”とは言ってくれてない。陽菜ばかりズルいな、僕だって言ってほしい」


 僕の対応に「う~っ!」っと唸り声を上げる陽菜。


「いじわるぅ……」


 小さく呟いて、陽菜は僕の耳に口を寄せる。

 耳に入る陽菜の吐息がくすぐったい。前は離れようとして、押さえられたんだっけ。それに比べてると、多少は成長したって事かな。


「愛してる」


 カーっと耳が赤くなる。うわ~、超恥ずかしい! 言わせといて照れるとは思わなかった。


「ど、どうも……」


 僕の感想も陽菜と一緒になってしまった。成長したって件は、前言撤回。

 人はそんな簡単に成長しないらしい。


「私と同じ事言ってる~」


「うん、他の言葉が咄嗟に出なかった」


 クスクス笑う陽菜。あの時は、予想外の反応だと思ったけど、正解だった。自分の立場になって初めて理解出来る。


「じゃあ、私も悠君に倣って同じ事聞くね?」


「何を?」


 聞き返す僕を真っ直ぐに見つめて陽菜が聞く。


「嬉しい?」


「……うん」


「よーし!」


 陽菜は満足そうに一回頷く。


「じゃあ、次は悠君の番。約束だよ」


「了解」


 陽菜が約束を守った。なら、僕だって守る。

 正直言うと、今は約束とかを抜きにして、沢山言いたい気分だった。

 きっと、こんな感情は滅多に顔を見せないから今の内に言いたいだけ言ってしまおう。十回でも百回でも伝えたい。

 僕はまた口を開いた。

目を瞑り、耳を傾けながら待ち侘びている陽菜に愛を伝える為に。

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