第7話 あたり一面の
「本当かしら・・・・」
そう頭の中では考えているが、体はまるで操られているように、次々に掃除道具を用意し始めていた。
「くくり紐でしょ、特大のゴミ袋の方が良いわね、大は小を兼ねるで。古いタオル、バケツ、コロコロも持って行こうかな。替えの芯まではいらないかもしれない。カビ取り剤は・・・・・匂いがするからやめようか。そうだ、台所洗剤で油汚れは落ちる、重曹のシートも持って行こう」
ちょっと楽しく思いながら、でもとにかく素早く用意をした。持って行いく物が大きなゴミ袋いっぱいになったが、とにかく用意が出来たのでトイレの扉の前に立った。
「えっと・・・掃除に入ります、でいいかな」
正直その時、今聞いたものは空耳か、夢を見ているかだろうと思っていた。だから半分笑いながら
「それでは掃除に向かいます、よろしいですか? 」
と私は言った。そしてその数秒後だった。
「え、何? 風が・・・違う・・・」
古い木造の家屋だから隙間風は当たり前のことだ。さっきトイレの窓を開けっぱなしにしていたのかどうかも覚えてはいないが
とにかく、ものすごい突風という訳ではないが、その隙間風が
「乾いている」感じがした。
私は一度も海外旅行に行ったことはないが、よく聞く話で
「ハワイは湿度がないから暑いけれど過ごしやすい」
という。まさにそんなふうな、からりとした風が扉の隙間から私の手を撫でるように吹き込んでいる。
「まさか・・・本当に・・・・・」
ドアノブではなく、小さな金具になっている取っ手を開いた。
恐る恐る開けるにつれ、それが明るく、眩しい日の光であることがわかった。夜中、外は真っ暗なはずなのに、家の明かりとさして変わらぬ明るさを感じ、「電気のつけっぱなしじゃないよね」と、その時は本当に期待を込め、ゆっくりと開けながら
「そう、これはまさしく日差し、そして乾いた空気!! どこなのかしら!!! 」
天国か、地獄だったら阿鼻叫喚がどこからか聞こえるだろうとの迷いは、
目の前にあるもので、一瞬で消え去った。
「なに・・・・・・・これ・・・・・・・」
とてつもなく、広い場所、しかも体育館くらいの高い天井がある。広さは小学校の運動場くらいだった。私はその端っこに立って、運動場すべてを見渡しているような感じだった。真後ろに私の入って来た木の扉があるが、他はすべてが石で、大理石なのか、ツルツルとした所と、ちょっと土壁的な所もある。しかしそれらにはすべて、美しくクリーム色に塗られているようだった。柱も何本も立っていて、それらはまっすぐに並んで、それぞれが装飾されている。金色、青、赤。豪奢だが、あまりゴテゴテしてはいない。上品さまで感じられる。
そう、ここはまさしく古代の宮殿、またテレビで海外の特集などで見たことがある、歴史的な建造物だった。だがそれはまるで映画のように美しかった。つまり新しく、古びた箇所がほとんどないのだ。
だが、広いというのは恐ろしい、すべてが見渡せるのだ、先の方まで。
つまり、私が見たものを簡単に言うと、
運動場くらいの広さの所が
新聞や雑誌、本などで
すべて埋め尽くされて
床が全く見えなくなっている
という状態だった。
人間と言うのは本当に自分と言うものが大事だと、その時ほど感じたことはない。トイレを開けたら、古代の美しい宮殿があるなんてそれは素晴らしいことなのだけれど、
「これを・・・全部片付けなければいけないの・・・掃除よりも前に」
すぐさま夫のためだと切り替えられない自分がいた。
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