第8話 不思議な山々


「何となく・・・見たことのある文字だけれど」


 私は外国のことを知るのが好きだった。ではなぜ海外旅行をしなかったか、と言うと、とにかく幼い頃からく乗り物酔いが極端にひどく、何時間も飛行機に乗ったり、バスに乗ったりということが苦痛でたまらないのだ。だから猶更「見る専門」になってしまい、「兼高かおる世界の旅」は私の大好きなテレビ番組だった。

それ以上のことを本でさらに調べたりはしていないが、何となくどこの国の文字かぐらいはわかりはする。

今私の目の前にあるのはどうも英語かフランス語のようなのだが、表紙が黒人になっている。しかも民族衣装を着ているものもある。そしてちょっと離れた所には、アルファベットが使われているが、英語でもフランス語でもなさそうなものもある。


「ゴミ屋敷と言われるところでも、多少はものを重ねているだろうに」


と思うほど、バラバラと本が置いてある。しかしよく見ると「重ねられない理由」があると思った。本や雑誌がごちゃ混ぜなのだ。しかもその本が古本屋に何十年も眠っているような、硬く、見ただけで少々かび臭く感じるものから、最近の雑誌だろう、アフリカの人特有の、長い手足の美女が表紙を飾っているものもある。すごく厚い辞書もあった。


「あ! あれは日本語だ」


さすが母国語には敏感だ。本の隙間に足を入れ、ちょっとジャンプしながら進むと、そこには日本の雑誌や本がたくさんあった。


「スキンケアの本にネイルの本・・・これ経済の・・・こっちは歴史書・・・」

こっちも最新のものから古いものまであった。近くを見ると


「あ! ハングル! ということはあっちはやっぱり! 中国語だ! 」


中国のエリアはさすがに広く、その中には現代の中国語ではないものも沢山見られた。


「としたら、この上は・・・モンゴル語、ロシア文字を使った今の書き言葉と、昔のチベット風の縦書きの文字・・・その上はロシア語つまり」


 この広い宮殿は、本でできた世界地図だった。乱雑だけれど。

そして何となくだけれど、わざと高く積まれたところもあった。


「あれ、位置的にエベレストだよね、もしかしたら何となく富士山? じゃあアフリカはキリマンジャロ、ヨーロッパのピレネー山脈かな」


この屋敷の主は、遊び心もあるようだ。

        


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