第5話 急過ぎる孤独
戦争や災害で突然人は亡くなってしまう、事故でも急病でも。
そのことをどれだけ多くの人が経験し、涙が出ぬほどの衝撃を受けたのだろう。
夫の死に、私は泣けなかった。目は潤んだがその事実を受け入れがたく、また
「急に本当に独りぼっち」
になってしまったからだった。私にも親はいるが、簡単に言うと
「好きになれない親」だった。反対されていた結婚であったとはいえ
「だからこの人との結婚は止めておいた方がいいと言ったのに」
と、そんな言葉を葬儀の最中に出すような人達だった。
「ねえ、親は選べない。でも人間が親元にいるのは二十年くらいだろう? 結婚してから死ぬまで五十年だ、自分が決めた他人と、二倍、三倍以上を過ごす、それは素敵な事じゃないか」
優しい、賢い人だった。
「生きていてよかったよ! 君と会えて結婚できたから」
その言葉がプロポーズよりも何よりもうれしくて、本当に楽しく過ごしていたのに、残酷な話だった。
「彼の後を追って・・・」と思ったが、そうすることは「彼と言う存在を消してしまう」ように思い私は、生きることに決めた。
そして仕事をし始めると、まだ「未亡人」という言葉が美辞麗句の端っこのようにある時代、若かった私には、色々言い寄ってくる男性もいた。中には本当にもう一度と思った人もいたが、結局受け入れられず「声をかけてくる人が減ったな」と思った時には、もうすっかりおばさんになってしまい、自分でどう見ても「魅力的」とは思い難かった。
「このまま一人で生きていくか・・・とにかく・・・老後の資金だけでも」
そんな年になった現在、現実。本当に独り身なので、できるだけ入退院等が無いように、最近は食生活を気を付けるようになってきた。
そして「何か生きがいになること」をしようと、手芸を始めた。公民館の文化祭のバザーなどに出品している。
「あなたの作品が好きなのよ」と言ってくれる人が数人いるだけでもありがたいと思っている。
「ああ、今日は本当に家が温かくて助かる、ねえ、あなた」
独り言も「言わないより言った方が良い」と言うので、家に飾ってある彼の数枚の写真にいつも話しかけている。
そんな毎日だ。
でも日々の暮らしの中「あんな旦那、早く別れたい」という言葉を他の人が言っているのを聞くと、切なくて仕方が無くなる。
「あなたはそう言えるのよね・・・それはご主人が生きているから」
そう心の中で叫ぶように言う。
今日も家に帰って食事を済ませ、一息ついて編み物を始めたが、そんな言葉を聞いた日はやっぱり気分が優れない。まだ夫婦仲良くしている話の方が、純粋なきれいな気持ちになれる。本当にそうなのだ、編み目も違ってくる。
「人の幸せを喜ぶ」方が作品も良いものができる、例え私がそうでなくても。
でも今日は職場で散々「旦那の悪口」を聞いてきたので、イライラしたままだ。
「どうしてあんな人たちの御主人が生きていて、あの人が・・・・・いけない!! 」
私は叫んだ。
「いけない、いけない、集中しよう、恥ずかしい・・・この前小学生に編み物を教えたら私を「先生」って呼んでいる、いけない、いけない・・・・あ! トイレ行こう」
と何だか自分でもクスリと笑ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます