「第1章 それは優柔不断な朝から始まった」 (3)

(3)


 イエローブースターについて、正確に思い出す必要がある。


 駅を出て高校に着く頃にはそう考えるようになった。


 その為、今日一日の授業の記憶はなく、ただ単純に黒板に書かれた事をノートに写して終わった。全て今日の夢、そして当時の記憶を思い出す事に頭を使用していたのだ。


 知らない内に放課後になり周りに合わせて下校する。今日の学校生活に置いて、巧が認識出来ているのは登下校だけ。まるでワープをしたと言っても過言ではない程、見事に間が抜けていた。


 今朝、マフラーに顔を埋めて歩いた道順を夕焼けの中、一人歩く。


 歩きながら巧は携帯電話を取り出して、作成途中のメール画面を開いた。


 入力していたのは、箇条書きにしていたイエローブースターの情報。


 ふとした時に思い出した事をどんな些細な事でも書き留めていた。


 夢の続きでは、イエローブースターを教えてもらった際、守らないといけない三つの約束がある。巧は携帯電話に入力したそれを見直す。


 ・誰かに話してはいけない。


 ・使う事が出来るのは一日に三回だけ。


 ・イエローブースターと言った声を人に聞かれてはいけない。


 自分が思い出せないだけで、他にも約束がないとも限らない。そもそも、これらの約束が合っているかの確証もない。しかし、たとえ記憶が不鮮明だとしても書かない訳にはいかなかった。


 現実的な効力はない。ただのおまじないの類いだと思っていたイエローブースター。それが実際に効力を兼ね備えている。


 無知でいるのはあまりに危険だ。今のような曖昧な状態では尚の事。


「あー、もうっ。まさかこんな事になるなんて。本当、どうしよう……」


 夕焼けの帰り道。


 巧はため息混じりに愚痴を零す。それは誰にも聞かれる事なく、遠くから来た風に飛ばされて行った。


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