第77話 お願いだから、かわいくならないでぇ!?

 ぼくの悩みのひとつに、【もっと男らしくなりたい!】というのがあります。

 それはもちろん……将来、アイナママやルシアママ、

 そしてレイナちゃんを護れるような、強い男になりたいから。


(ママたちが【救国の英雄】で、実はこの大陸でいちばんつよい……)

(前世の記憶をとりもどしてそれを知ったあとも、そのキモチは変わらない!)

(なのに~)


 アイナママはかわいい服が好きで、レイナちゃんにそれを着せたがるんだ。

 でも? レイナちゃんはそういうのがあんまり好きじゃないみたいで?

 お祭りとかお誕生日にしか着ないみたい。


(そしてアイナママ、なにかとそれをぼくに着せたがるんだよねぇ)


 だけどそのつど、ぼくはキッパリと断ってきたんだ。

 そう……ぼくは男のコだから!

 女のコの格好なんて、ぜったいにしませんのだ!


 ◇◆◆◇


(うぅ そうやってかたくなに、女のコの服は着ないってきめてたのに……)

(なんでよりにもよって! そのぼくの初めての女のコの服が──)

(【えろえろ系コスプレイヤー】みたいな【セーラー服ビキニ】なのぉっ!?】


 しかもいつも首のうしろで結んでるリボンが外されて、

 なぜか後頭部に移動してるし!?

 おかげで腰まである髪が広がって、ますます女のコっぽい!?


(っていうか中のひとがアプリルさんだから……)

(しぐさまで女のコっぽいんですけど!?)


 そんなぼくが、わなわなしていると……


「まぁ♡ まぁまぁまぁっ♡」

「ちょ……アイナママ!? なにそのうれしそうなお顔!?」

「うぅ!? クリスくんのほうが……ワタシより体脂肪率低そう!?」

「まぁ♡ さすがはクリスくん♪ お肌ツルっツルで……じゅるり♡」

「くっ そんな目であたしを見ないどくれ! でないとあたし……ハァハァ♡」


 って、なんだかほかのメンバーまで!?


「や、やりました! ぼくにも【姫巫女の従者】のチカラが♪」

「あ、はい……よかったですよねー(棒)」


 そ、そりゃぁこの厳しい戦いで、メンバーが増えたのはうれしいけど!?

 うれしいけどぉぉ!?


「うふふ♪ では──エルフィー・ノーム! いきます!!」


 ブワッ!!


「え!? これは……霧?」


 アプリルさんが魔力をみなぎらせると、

 ケルベロスのまわり──なにもない空間が、一気に白く塗りつぶされた!?


「や……ちがうっ これは──召喚した【砂】!?」

「ええ♪ そして……こう使うんです!」

「削り取れ!【砂吹すなぶき!!】


 ズワッ!!

 ギャインッ!?


 ケルベロスを取りまく、空中に浮く大量の砂が……

 その近くのモノから順に、一気に襲いかかる!?

 さすがのケルベロスも、360度全方向から押し寄せる砂は避けきれず──

 なすすべもなく、その身を砂に削られていった!?


(こ、これは……【サンドブラスト】!?)


 現代日本の工業技術のひとつであるそれは……

 高圧に圧縮された空気で砂──主に【硅砂けいさ】を吹き付けて、

 対象物の表面を研磨する技術なんだけど──


(それを生き物に使えば、凶悪な武器になる!)

(というか……まとっていた火も、砂で消し止められちゃってるし!?)

(ケルベロスもさすがにコレは……)


 ルシアママの【真・塵旋風しん・じんせんぷう】にも耐えたケルベロスだけど……

 密集する砂に手も足も出ず、その取り巻く砂を確実に赤く染めてゆく。

 そうしてその砂がふっと消えると、そこには──


(うっ!? グロぉっ!?)


 全身の皮と肉を削り剥がされ、血まみれになっている哀れな姿に──


「今です! エルフィーシルフ!!」

「はいっ」

「からめ取れ!【志那都風しなつのかぜ】!!」


 ビュゥ!


 あれだけ俊敏だったケルベロスも、いまは身動きひとつしない。

 その瀕死のカラダを、放たれた風が取り巻いてゆく!

 そしてその風はどんどんと中央に収縮していって──


 コロン……


 小さな球になって、地面に落ちた。


「【ケルベロス】……封印しました♪」


 きゅぴーん☆


「や、やりましたぁ♪ クリスくぅん♡」

「わっ あ、アプリルさ──じゃなかった! クリスくん!?」

「あ、いけない……アプリルさんでしたね? えへへ♪」

(うぅっ!? ぼくのお顔なのにかわいい!?)


 っていうか……それいじょうっ

 ぼくのカラダで、かわいくならないでぇ!?


 ◇◆◆◇


「いやぁ、かなりの強敵であったが……」

「これで封印した魔物は4体目!そして【姫巫女の従者】も4人全員が覚醒!」

「なんとも順調な事だな♪」


 ルシアママ──じゃない、カニンヒェンさんがニコニコしながらそういうと~


「ええ……ですが、残りの2体も先ほどのケルベロスと同等──」

「もしくはそれ以上の強さを持っている……その可能性がありますね」

「そして……あの【悪霊】も残っている──か」

「つくづくイヤなヤツに、まとわりつかれたものだな……」


 そう……そもそもこれは、あの【悪霊】がひき起こしたこと。

 残りの2体も気になるけど、悪霊を討伐しないかぎりは、安心できないんだ。


「さて、ひとまずこちらには被害はなかったが……この後はどうする?」

「そうですね……まず、残りの2体がこの塔にいる可能性ですが……」

「いる──だろうな……ここより効率よく魔力を集められる場所はないからな」

「となると、捜索続行が好ましいのですが……」

「さすがに連戦は──か」


 う~ん……【HP】ヒットポイントは魔法で回復するとしても……

 【MP】マジックポイントは簡単には回復しないし?

 しかもさっきのケルベロスみたいな【中ボス】クラスの魔物相手なら、

 その両方を、しっかり回復しておきたいところだけど~


「あっ そうだ! アイナさん? この塔なら──」


 ◇◆◆◇


「ンマーイっ♡」

「こ、これが……アイナさんの料理、ですか……なんて美味しい!?」

「しかもこんなダンジョンの中で頂けるとはねぇ♪」

「あぁ……本当においしい~ 」

(おぉ~)


 とまぁぼくたちは……タフクの塔の地下にある、宿屋に来ています♪

 もちろん宿屋はしまってたけど?

 そこは緊急事態ということで、ぼくたちが使わせてもらってます。


(ま、アマーリエさんもいるし? 平気だよね~)


 そしてぼくの【異空収納インベントリ】から、アイナママの料理をとりだして……

 みんなに食べてもらってるんだ♪


「なんとまぁ……こんな宿屋が作られていたとはなぁ」

「ええ、ですがここは初心者向けダンジョンですので……」

「ルシア様がご存じないのも、しかたないかと」


 なーんて、ギルドの受付嬢のアマーリエさんがフォローしてる♪

 けど……


「それにしても──アプリルさんが【収納魔法】をお持ちとは──」

「あ、あはは~ エルフの森に伝わる家宝です?」

「な、なるほど……さすがはエルフ、ですね」


 アマーリエさん、収納魔法に興味しんしん……

 というか~ 冒険者ギルドのために使ってほしいってキモチ、あふれてますよ?


(けどよかった……ぼくじゃなくて、アプリルさんの魔法ってことにしておいて)

(でないとなにかあったとき、使わせてほしいっていってくるかもしれないし?)


 いくらでもモノが入っちゃう収納魔法は、大量の物資輸送にも使えちゃうから、

 戦争とかが起きると、強制的に徴用されちゃうことが多いんだ。


(でもアプリルさんならエルフの森に帰っちゃうから、簡単には使えないし~)

(って……そっか、アプリルさん……いつかは帰っちゃうんだ……)


 それはこの【悪霊】と【6体の魔物】の件が解決したということ……

 だからめでたいお話なのに……


(せっかく仲良くなったのに……やっぱりお別れはさびしい──)

「それにしても……アイナさんの料理っ ホントに美味しいですぅ♡」

「えへへ♪ ですよねー♪」

「クリスくんはいつもこんな美味しいもの、食べてるんですね? うらやましい~」

「ですが……それはいささかまずいですね……」

「なにがまずいってのさ、アマーリエ?」

「いえ……クリスくんとしては、この料理が【基準】ですから……」

「その【嫁】としては、超える壁が高すぎて──」

「あ」

「ぐっ……さすがはアイナ様……料理まで【英雄級】かい……」

(え、ええと……ぼく、なんのおはなしかわからないやー(棒))


 ◇◆◆◇


「囲みこめっ【塵旋風じんせんぷう】!!」

「削り取れ!【砂吹すなぶき!!】


 ギュオォォォ!!


 そしてアプリルさんの提案で、ぼくたちはいま……

 の【合体魔法】に挑戦中──なんだけど~


「す、スゴい……」

「あんなにたくさんの【キラービー】や【ミラージュモス】が、跡形もなく……」

「え、ええ……まさか魔石まで、粉になる程とは……」

(あ、あれ? それって……冒険者的にはアウト?)

(い、いいよね? お金の問題じゃないし?)


 とまぁ……昆虫系の魔物とはいえ、まさかぜんぶすりつぶしちゃうとか……


「す、すごいですね……合体魔法?」

「はいっ♪ アプリルさんがこれまでに、魔法を一定の順序で放ったり……」

「組み合わせたりしてたのを参考にして、やってみました♪」

「いえ……その【発想力】は大したものですよ? クリス」

「えへへ♪ ありがとう、アイナママ♪」

(おぉう)


 それにしても……ケルベロスに【砂】で攻撃するとか、

 アプリルさんの頭の回転のよさは、ほんとうにすごい!


(うん……ぼくもまけていられないや、がんばろっ!)


 とまぁ……ぼくたちは比較的魔力に余裕のある……

 アマーリエ、アルタム、アプリル……そしてぼくとアイナママの5人で、

 タフクの塔の捜索を、続行することにしたんだ。

 ちなみにレニーさんとルシアママは……

 ちょっと魔法を使いすぎてたから、ねんのためにお休み中です♪


「それにしても……アイナさん、ちょっと聞いていいでしょうか?」

「はい、なんでしょうか? アルタムさん」

「ここが【ダンジョン】の扱いで、【魔素】が濃い?そこはわかったんですが~」

「そもそもその【魔素】って、どうやったら湧いたり増えたりするんでしょう?」

「ええ、それなのですが……実はまだ解明できていないのです」

「そうなんですか?」

「ただ魔族大陸や脅威度の高いダンジョンに満ちる、高濃度の魔素の中では……」

「人族や亜人は長時間滞在することで、身体と魂が蝕まれ……死に至るそうです」

「怖っ!?」

「まぁ……なんて恐ろしい」


 そう……だから前世、勇者のぼくたちは、なにより迅速な攻略を求められた。

 ある程度は聖防壁で防ぐ事はできたけど……

 もたもたしていたら、どんどん自分たちが弱ってゆくから。


「ですが、それは逆に考えると……人族大陸における魔族や魔物は……」

「魔素がない故に、長くは生きて行けない……そうも考えられるわけです」

「な、なるほど!」

「ですが……知恵のある魔族、そして強大な魔物は……」

「なんかしらの手段で魔素を作り出すことができるのではないか?」

「そう……神殿では考えているようですね」

「魔素を、作り出す……ですか」

「ええ……でないと魔族や魔物は、体内の魔石を削り減らしてゆくしかありません」

「いくら人族の殲滅が魔族たちの祈願だとしても……」

「そこまでする意味がないと思うのですが……」


 と、そんなことを話しながら、ぼくたちは階段を登ってゆく。

 そしてここを登りきれば……塔のてっぺんにたどり着く。


(この塔の屋上はアイナママがさらわれて、あの魔族と戦ったコトがあるから)

(あんまりいい印象がないなぁ)


 そしてぼくたちが屋上にあがると、そこには──


「くくく……お待ちしていましたよ」

「なっ!? ここは……閉鎖中のはず!」

「もしかして……【悪霊】!?」

「ええ、みなさんお久しぶりです」


 そこにはひとりの女のひと──冒険者の魔法使いとおぼしきひとがいた。


「また、人のカラダを奪ったんですか!?」

「ああ……アマーリエさん、アナタの身体を捨ててしまったのでねぇ」

「ですが魔物に襲われ、のたれ死にそうになっていた所を拾ってあげたんです」

「むしろ有効活用していると褒めてほしいくらいですよw」

「ぐ……コイツ!」

「しかし……本当にあなた達は目障りだ」

「こうも私の邪魔をして……魔物たちを封印し続けている」

「ですから……そろそろ本当に、死んでいただきます♪」

「そうはさせない!!」

「ふふ、コレを見てもそう言えますか?」

「え……なっ!?」


 ゴガァァァァッ!!


 そのとき……上空から大きな咆哮が聞こえてきて──


 ズンッ!!


 巨大な魔物が塔に降り立った!?


「あ、あれは……【合成の魔獣】!?」


 アプリルさんのいうその魔物は──

 ライオンの上半身にヤギの下半身、背中の羽はドラゴンで、尻尾はヘビ。

 そして前述の3つの獣の頭がついた魔物──


「き、キマイラ……」


 しかもいままでの魔物よりも、さらに巨大な……

 まるで【災害】の様な魔物だったんだ。

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