第76話 それってぼくのまねっこだよぉ!?

「もしかしたら……【6体の魔物】!? 先に行きますっ!!」

「あ……アプリルさんっ」


 ぼくは【瞬速】のスキルを発動して、さっきの音の方へ駆ける!

 アイナママたちにはいえなかったけど……

 ぼくの【万物真理ステータス】のレーダーには、

 中ボスクラスの強い光点の魔物が、映っていた!


(しかもその周囲には、ルシアママたちがいる!)


 そこまでわかっているぼくは、駆け出さずにいることなんてできなかったんだ!


 ゴガァァァァ!?


「いた! って……あれはっ!?」

「【万物真理ステータス】!?」


 パッ!

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【ケルベロス】

 出典:万物真理事典『ステペディア(stapedia)』


 三つの頭と蛇の尾を持つ 炎をまとう巨大な猛犬の魔物。

 一節には【冥府の番犬】などとも呼ばれ、その入り口を守護しているとされる。


 その身体は巨大な黒犬で、三つ首はそれぞれ別の意思を持ち、

 眠る時もどれか一つの首は必ず起きているという。


 鋭い爪や牙の攻撃力は絶大で、さらには炎の息を吐くという。

 その炎は【煉獄の炎】と呼ばれ、罪深き者を焼き尽くすと言われている。

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「け、ケルベロス!? やっぱり【6体の魔物】!?」


 アプリルさんいわく【煉獄の三頭獣】!

 そのカラダは、真っ黒な三つ首の犬だけど……

 その全身を炎がまとわりつき、おおきく開いたクチからはキバが飛び出してる!


「ルシ──じゃないっ カニンヒェンさんっ 助力します!」

「アプリルか! コイツ……かなりやるぞ!?」

「そのようですね……切り裂けっ【烈風斬れっぷうざん】!!」


 挨拶代わりにぼくは、単純なチカラなら最大の【烈風斬れっぷうざん】を叩き込む!

 巨大な風刃が5本同時に、ケルベロスに向かって放たれた!

 けれど──


「なっ!? 避けた!?」


 ルシアママたちの攻撃をさばいていたケルベロスは……

 さらに襲いかかるぼくの風魔法に気付いたとたん、跳躍して避けてしまった!?


「あ……ありえない! 魔法を見てからよけるだなんて!?」


 魔法は普通、すごい速さで飛んでゆくから、まず避けることなんてできない。

 とくにぼくの魔法は【風】なんだ。

 それをああもやすやすと……


「撃ち抜け!【電光石火】!!」


 レニーさんくり出す【雷】の精霊魔法!

 それがケルベロスに襲いかかる。

 けど……


 ボヒュ!?


 その身にまとう炎が燃え盛さかって……雷を吸収してしまった!?


「ちっ またかい!」

「レニーさんっ」

「さすがに雷の速さは避けられないみたいだけどね……」

「けど、ああして炎で雷を受け止めちまうのさ!」

「そんな……」


 この前の【スピンクス】は、レニーさんの落雷を受けて真っ黒に焼け焦げてた。

 けど……ああして炎をまとっている以上、熱系の攻撃は効かないかも……


「姫巫女さまっ あぶないっ」

「え──」

「跳ね返せ!【水鏡】!」


 ゴォォォォ!!


 ぼくの目の前に張られた【水の防壁魔法】が……

 ケルベロスの吐き出した炎を防いでくれた!


「あ、ありがとうございいますっ アルタムさん!」

「いえ……ですが姫巫女さまっ もっと下がって!」


 けど──


 ジュバァァ!!


「わっ!? こ、これは──」


 吐き出される炎を受け止めていた水の防壁は……

 その熱に晒されるうちに、一気に蒸発してしまったんだ!?


「くっ マズい……真っ白で──見えない!?」


 一面にたちこめた人工の【濃霧】に、ぼくはケルベロスの姿を見失う!?


「この霧を……吹き飛ばせ!風樹嘆ふうじゅのたん】!!」


 ブワっ!


 ぼくの放った風魔法が、あたりの霧を風で吹き飛ばす!

 けれどその瞬間──


 ゴガァァァ!!


 ケルベロスがぼくに肉薄して──3つの首が同時に襲いかかってきた!?


「喰らえ!【真・塵旋風しん・じんせんぷう】!!」


 ギュオォォっ!!


 ルシアママが放った逆巻く竜巻が、ケルベロスの身体を取り囲む!

 そしてその凶悪な風刃は、縦・横・斜め! 縦横無尽にヤツを切り刻む!!


(ってぇ!? ルシアママっ なにワザの名前、叫んじゃってるのぉ!?)


 ルシアママの風精霊魔法は、【考えただけ】で発動するんだから……

 いままで呪文どころか、発動ワードさえナシだったんだ。


(それに助けてもらってアレだけど──)

(【真・塵旋風しん・じんせんぷう】って、ぼくのまねっこだよぉ!?)


 しかも……


「やったか!?」

(ルシアママっ ソレって失敗フラグだから、ヤメてぇぇ!?)


 ボヒュウ!!


「うわっ!?」

「なんと……あの風刃を喰らっても、無傷なのか!?」


 そう……ケルベロスは逆巻く風のなかで炎を爆発させて……

 強引に塵旋風から抜け出してしまった!?


「ちっ! アルタムっ この前の【アレ】をやるよ!」

「アレ? あっ 水で濡らした後に 雷で──判りました!」

「喰らいなさいっ【鉄砲水】!!」


 ブシャァァァっ!!


 アルタムさんの水魔法が、極太の水流となってケルベロスを襲う!

 けれど──


「あぁっ!? 避けられたぁ!?」

「でもアルタムさん……もし当たったとしても、すぐに蒸発しちゃうかも?」

「はっ!? そうでした!?」

「ちっ……ホントにやっかいなヤツだね!?」

「こ、こんなのいったい……どうやって倒したら──」


 そのとき──


「【キリエレイソン】!」


 キラキラキラ…


 ガァァァ!?


「アイナママ!」

「ハァっ ハァっ 遅くなりました!」


 アイナママの神聖魔法を受けて、ケルベロスのカラダが青白い炎に包まれた!

 それを嫌がったのか、後ろ向きに跳躍して、ぼくたちから距離をとった。


「アイナか! いや……コイツが予想以上に手強くてなっ」

「ただでさえ素早く、魔法を避けてしまうのに……」

「さらにはあの身体に纏った炎で、雷の魔法も効かないのだ!」

「そんな……」

「で、では私の火の魔法でも……?」

「ああ……効き目は怪しい上に、最悪の場合──」

「むしろヤツに活力を与えてしまうかもしれん」

「そ、そんなぁ!?」


 まさかの戦力外通知に、がっくりと落ち込むアマーリエさん……

 けど……


「でもアマーリエさん? もしかしたら火の防壁なら使えるかも?」

「そ、そうですよね♪」

「いや……火の防壁は、あくまで熱で魔物を寄せ付けなくするモノだ」

「むしろヤツなら、ゆうゆうとそれを乗り越えてくるだろう」

「あぁっ……やっぱりダメなんですねぇ!?」

「ご、ごめんなさい……アマーリエさん」


 うぅ……素早くて攻撃が当たりにくいうえに……

 当たったとしても、炎熱系や水系、そして風刃が効きにくいだなんて……


(あの3つの頭で同時に見て、考えてるから……)

(死角もないし、判断もはやすぎるんだよぉ!?)

(ん? 3つの頭で同時に? ──そうだ!?)


「私……試してみたいことがあるんです!」

「アプリルさん……それは?」

「はい……それにはクリスくんの協力が必要で──」

「ぼ、ぼくでお役にたつなら!」


 そんなぼくとアプリルさんの強い意思に……

 アイナママとルシアママも、頷いてくれた。


「そしてその協力とは──」


 ◇◆◆◇


「【アインヘリヤル】!」


 ぱぁぁ……


 ぼくとアプリルさんの身体を、アイナママの魔法──

 その全身を【聖防壁】が包み込む。

 これは攻撃による衝撃を緩和・消滅させ、白兵戦を行う対象者の身を守る魔法。

 そしてこの魔法をまとって、ぼくたちは──


「えと……じゃあ失礼しますね?」

「はい、しっかり掴まってください!」


 ぼくのカラダであるアプリルさんを、ぼくはよいしょと背中におんぶする。

 そして風魔法でふわりと浮かび上がると──


「じゃあクリスくん、飛行魔法の制御はおまかせします」

「は、はい!」

「そしてぼくは……【ソニックブレード】!」


 キュ──ン


 ぼくの剣に風をまとわせて、その切れ味を格段に上げた!


「じゃあ……いきます!」


 ギュン!


 ぼくたちはおんぶの体制のまま、ケルベロスに襲いかかる!

 風が持ち上げてくれるから、アプリルさんの重さはほぼ感じない。


「たぁっ!!」


 ギャン!?


 そう、ぼくがしているのは……

 アプリルさんとふたりで飛ぶことによる、風魔法の【速度強化】!

 それと同時に、アプリルさんが飛行制御。

 そしてぼくが攻撃担当の……いわば【並列思考】!!


(アプリルさんとは同じ【風精霊魔法】使いとして、一緒に修行してきたんだ!)

(だからこんなこともできるんだよっ!)


 ズパっ!!

 ギャヒン!?


「いけるっ!!」


 ふたり同時の飛行魔法はとにかく素早く、まるでハチのように襲いかかる!

 そして【ソニックブレード】で強化された剣は……


「たぁぁぁ!?」


 ズパバっ!!


 ケルベロスの右の首を、切り飛ばした!!


「や、やった──うわぁぁぁ!?」

「きゃぁ!?」


 ゴォォォォ!!


「し、しまった!? 炎が──」


 【アインヘリヤル】は物理攻撃は防ぐけど、炎熱や雷撃は防げない!?

 風防壁が多少は防いでくれたものの……業火の炎にぼくらは吹き飛んだ!?


「あぐっ!?」

「あ……アプリルさん!?」


 思わず本当の名前を読んでしまうぼく。

 アプリルさんが壁に叩きつけられるときに──

 その身でぼくを庇ってくれたから。


「ぐぅぅ……っ!?」

「あ、アプリルさんっ 大丈夫ですか!?」

「だ、だいじょうぶ……です、まだ……やれますからっ」

「で、でも!?」

「わ、私……嬉しいんです」

「え……?」

「こうして、あなたと修行してきて……」

「その成果がこうして、カタチになったことが」

「あ、アプリルさん……」

「あぁ……クリスくんと出会えて、ほんとうに私──」


 そのとき──


「「……え?」」


 ぱぁぁぁっ


 アプリルさんの股間に、光り輝く──

 変身ヒモパンが現れたぁぁぁ!?


(ちょっ それぼくのカラダ!?)

(だから……【乙女】ところか、女の子ですらな──)


 そんなぼくの、必死な思いをあっけなく無視して……

 アプリルさんのカラダが虹色の光に包まれ、そこには──


「土の精霊! 土の元素を司る、慈愛の橙黄の大地! エルフィー・ノーム参上!」

「土にかわってぇ……天罰、落としますっ♪」


 きゅぴーん☆


(よ、よりによって……ぼくのカラダで女装しないでぇぇぇ!?」

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