第69話 魔物の素材のありかはどこへ?

「ふぁぁぁぁ……ねむぅ」


 思わず大きなあくびをしちゃって、目からナミダが出ちゃうぼく。

 だって……寝てないんだもん。


「こほんっ アプリルさん?」

「淑女が人前で、大きな口を開けてはいけませんよ?」

「ご、ごめんなさい……アイナさん」


 慌てておくちを手で覆うぼくだけど……

 アプリルさんも、ぼくのカラダで困り顔で見てて……うぅ 素直に反省しますぅ


「で、でも……ほんとうに良かったですよ!」

「アルタムさんを含めて全員無事だし♪」

「それに【大鋏の悪魔】──カルキノスでしたっけ?」

「無事に討伐して、封印できましたし!」

「ですよねぇ♪」


 とはいえ~

 あんな大型で重力級の魔物が街の中で暴れたから……

 街の中、特に石畳の地面は穴だらけにされちゃった。

 それに大きな音と地響きがしたから、人もいっぱい集まってきちゃったし~


「でも、討伐の時間はわずかな間でしたけど……」

「まさかその後の冒険者ギルドの取り調べが、一晩中続くだなんて……ふぁぁぁ」

「あ、アルタムさん……」


 ぼくに負けない大あくびをするアルタムさん。

 そう……ぼくたち4人は全員、冒険者ギルドの取り調べを受けたんだ。

 しかも領主様の配下の人とか、街の守護兵士さんたちまで加わったから……

 それはもう、何度も何度も説明するハメになっちゃって。


「でも。さすがはアイナさ──アイナママだよねっ!」

「アイナママが証言すれば、みんな信じてくれるし♪」


 いくらカルキノスを討伐したとはいえ、街の中がああも壊されちゃ、

 ぼくらもそのまま撤収!

 ってワケにはいかなかったんだよねぇ


「ホント、おかげで助かりました♪ アイナさんっ」

「もしアイナさんがいなかったらとおもうと……今でもまだ、尋問されてたかも?」

「で、ですよねぇ」


 お互いにお顔を見合わせて、ウンウン頷きあうぼくとアプリルさん。

 あの時アイナママを呼びに行って、本当によかった……


「ええ……ですが今回はなによりの【証拠】がありましたからね」


 アイナママのいう【証拠】は、カルキノスの【大鋏】、しかも大きい方。

 ふつう魔物は討伐されると、魔石を残して消滅しちゃうんだけど~


「おそらく……現在のカルキノスは封印され、時間が停まっているようなもの」

「本体がその状態ですから、あの大鋏も消滅も再生もせず、残ったのでしょうね」

「なるほど~」


 もともとカニとかザリガニって……

 ハサミが取れちゃっても、脱皮すればまた生えてくるし?

 だからもう、アレは【生きた魔物の一部】じゃなくなったのかも。


「そうなると……【素材】として使えるんでしょうか?」

「もしも【魔物の素材】で武器や防具が作れたら……んふふふ!」

「あ、アルタムさん?」


 武器と防具の職人であるアルタムさん。

 寝てないのも手伝って、なんだかとってもハイ?

 でも~


「というか、あの大鋏って……誰のモノなんでしょう?」

「そうですね……」


 ぼくがアイナママにそう聞いてみると~


「討伐した魔物の魔石は、それを討伐した冒険者のものですし……」

「だったら、私たちのモノですか?」

「ですが、ドラゴンなどの大型の魔物の魔石は、かなり価値が高く……」

「冒険者ギルドが、強制的に買取りをするという事例もありますね」

「そうなんですね」


 【魔石】はあくまで【討伐証明】としてギルドに収めるワケで、

 それが【討伐報酬】としてお金になるんだ。

 そして魔石は、マジックアイテムとかの電池代わりに使われたりもするから、

 ギルド以外でも高く売れる。

 だけど珍しくて価値のある魔石なら、ギルドが強制的に──というワケか~


「魔石でもそうである以上、今回はそれ以上に希少な魔物の素材」

「しかもアルタムさんの言う通り、武器や防具に転用できそうとなれば……」

「これはもう、一筋縄ではいかないでしょうね」

「ですよねー」


 しかも長さ2メートル近い大鋏!

 そのまま飾っておくだけでも、王侯貴族とかが欲しがりそう。


「それにしても……」

「あ、アルタムさん?」

「ワタシが【姫巫女】様の従者……ですか」

「え、ええ」


 しみじみとそういうアルタムさん。

 そういうアルタムさんの股間には、あの【変身ヒモパン】がある。

 【悪霊】をおびき寄せる、囮をしてた時に装備してたビキニ。

 そのショーツは【変身】を解いた後も、変身ヒモパンのままだったんだ。

 だからそれが【夢】じゃなかったという証拠でもあるワケで~


「あ、あの……アルタムさんっ」

「はい?」

「私たちの都合に巻き込んでしまって本当にごめんなさいっ」

「あ、アプリルさんっ 頭を上げてください!?」


 ぼくはそんなアルタムさんに頭を下げる。

 アルタムさんを、こんな危険なことに巻き込んでしまったから……


「ですがこうなってしまっては、アルタムさんにも力を貸していただくしか──」

「ああ、いえ……大丈夫ですよ!」

「ワタシ、これからもちゃんと協力しますし♪」

「ほ、ほんとうですか?」

「ええ、もともとワタシから言い出したことですしね? 囮になるの」

「それに……あの格好に【変身】したときに、だいたいの事情は判りましたから」

「そ、そうなんですね……やっぱり」


 あのカルキノス討伐の時も……

 アルタムさんは誰にも教えてもらうことなく、難なく魔法を使った。

 そしてアプリルさんのカラダのぼくを、心配して抱きつき【姫巫女】と呼んだ。

 それはもう……


(千年前の【姫巫女の従者】の記憶がある……そういうことだよねぇ)


 アルタムさんに元からその記憶があるのか?

 それとも、変身したから記憶が流れ込んできたのか?

 どっちかはわからないけど……とにかくそういうことっぽい。


(これはまた、ミヤビさま聞かないとなぁ)

(っていうか、こうなるなら先に教えといてほしかったよ!?)


 なんて、ぼくがまたミヤビさまのことを考えてると~


「それに……んふふふ!!」

「あ、アルタムさん?」

「それにこのワタシが! ドワーフのワタシがですよ!?」

「あんなすごい精霊魔法を使えるだなんて~~~っ♪」

「あー」

「そりゃぁ? マジックアイテムに攻撃魔法がエンチャントされてるのとか?」

「そういうのは実際に、発動させた事もありますけどね!?」

「でもなんですか!? あの滅茶苦茶強力な魔法!?」

「しかも下着一枚で変身して、あんな強くなるとか反則でしょ!?」

「で、ですよねー」


 あ、アルタムさん?

 なんだかすっごい早口なんですけど!?


「とにかく!【6体の魔物】でしたっけ?」

「それでもこんなチカラが使えるならっ ぜひ協力します!」

「アルタムさん♪」

「それにワタシ、もともと冒険者やってましたしね♪」

「えっ そうなんですか?」

「ええ、ドワーフの職人は駆け出しの頃、たいてい冒険者やりますよ?」

「そもそも現場を知らなきゃ、最先端の職人なんか務まりませんからね」

「なるほど!?」

「たいていは戦士兼、武具のメンテ役ですね~」

「だから前衛は経験ありましたけど……今回みたいな【魔法職】は初めてで♪」

「おぉう」


 アルタムさん、実はけっこう戦い慣れしてたんだ!?

 とにかく……魔物は1体無事に封印できたし?

 そして従者もひとり増えた♪


(うんうん、順調順調♪)

「ですが……アプリルさん?」

「え? なんでしょう、アイナさん?」

「こほん……お忘れですか?」

「カルキノス封印の影で、まんまと【悪霊】を取り逃がしているのを」

「あ」


 そう……そうなんだ。

 封印成功の嬉しさで気づかなかったんだよ~~~!?

 そして気づいた頃には、もうどこにも姿がなく……

 さすがの【万物真理ステータス】さんでも、その居場所はつかめなかった。


「まぁ、かくいうわたしも、あなた方が心配でうっかりしていたのですが……」

「ともあれこれは……あの悪霊が、また同じ様な事をする可能性もあるのです」

「ですからこれからも、気を引き締めていかないと」

「は、はい……おっしゃるとおりですぅ」


 とまぁ、そんなぼくたちが反省会をしていると~


「ああ、遅くなったな」

「あっ ルシアさんっ」

「ルシアママっ♡」


 やってきたルシアママは、ぼくとアプリルさんのほっぺにキスをする。

 ぼくはもちろん、アプリルさんもめっちゃ嬉しそう。


「それでルシア、どうなりましたか?」

「ああ、おおむね上手くいった……そう言っていいだろうな」

「まぁ、それでは?」

「うむ、今回の【悪霊】と【6体の魔物】の件……」

「我らに【特務】として、依頼が発生した」

「おぉぉ」


 それというのも、あのカルキノス討伐のあと……

 取り調べを受けているぼくたちのところに、ルシアママがやってきた。

 それはもちろん、いつまでも帰ってこないぼくたちを心配してのこと。


(もちろんアイナママには……)


『貴女は街に来ない約束では?』ゴゴゴゴゴ……


 って、【笑顔の威圧ゴゴゴゴゴ】の発動つきで怒られてたけど~

 だけど今回に限っては、結果的には来てもらってラッキーだった。

 それというのも……【領主さまの配下】【冒険者ギルド】【街の守備隊】、

 そんな人たち相手に、交渉しなくちゃいけなかったから。


(アイナママもいってたけど、ああして悪霊が街で魔物を使ったからには)

(またこんなことが起きることも、じゅうぶんありえる)


 だから、ある程度の事情を話して……

 むしろ街の関係各位に協力してもらうことにしたんだ。


「だいぶ時間も掛かった様ですが……揉めたのですか?」

「ああ、向こうも【立場】というのがあるからな」

「それこそ……私が悪霊に狙われたのが、そもそもの原因だ!」

「などと言ってきた奴もいたぞw」

「まぁ……それは災難でしたね」

「ああ、とんだ難癖だなw」


 そ、そんなヒトいたんだ……


「それにあのカルキノスの大鋏の件もあったのでな」

「ルシア様っ アレはどうなったんですか!?」

「ん? ああ……あれに感してはとにかく揉めたが……」

「最終的にはいったんギルドが預かり、競売にかけることになった」

「そんなぁ!?」


 すごくガッカリしてるアルタムさん。

 やっぱり素材にしたかったんですね?


「それで落札額から手数料を引き……残りの半分がクリス達に」

「もう半分は、壊された街の復興に充てることになった」

「なるほど……それは名案ですね」

「ああ、今後も被害がでるやもしれん」

「なら最初から費用があれば、街の協力も得やすいというものだ」

「でも、街の復興なんて……すごくお金がかかりますよね?」

「ん? あの大鋏の予想落札価格だが……」

「金貨50枚は下らぬだろうと、商業ギルドの者が言っていたぞ?」

「きんかごじゅうまい!?」


 ちなみに金貨1枚は、日本円でだいたい百万円ですぅ


「あふぁぁぁ……大鋏がぁ 素材がぁぁ」

「あ、アルタムさんっ 気をしっかり!?」

「ああ、そういえば……其方そなたがアルタムどのか?」

「は、はいっ ルシア様っ」

「ふむ、この度の件……私の家族とアプリルがたいへん世話になった」

「そして此度の件は、エルフの森の不始末でもある」」

「家族として、エルフの森の者として、改めて礼を言わせてほしい……感謝する」

「ももっ もったいなきお言葉ですぅ!?」


 深々とあたまを下げるルシアママに、アルタムさんは大あわて。

 まさか【救国の英雄】にあたまを下げられるとは思わなかったんだろうなぁ


「あ、ルシアさま?」

「このアルタムさん、そのビキニアーマーの作者なんですよぉ?」

「なんと、これは奇遇な」

「は、はひっ 軍より依頼をいただきまして……」

「ははっ そうかそうか♪」

「いや、軍から渡されたはいいが、これを使う相手もなく死蔵していたのだがな」

「装備してみれば、まさに具合がよく……実に気に入っている♪」

「ああ……ルシア様♡」

「ふむ、なら今後は私の武具の整備も頼むとしよう」

「その腕、これからも私とその家族たちの為、存分に奮ってほしい」

「あ、ありがたき幸せっ」


 な、なんだか……アルタムさんまで、ミラさんとハマさんみたいに~

 まぁ? ルシアママって?

 エルフの森の、尊い血筋のお嬢さまで?

 そのうえ救国の英雄だから……ホントにえらいんですけどね?


「ともあれ、其方そなたが【姫巫女の従者】として選ばれた上は……」

「此度の件が収まるまで、今後も協力してもらわねばならん」

「は、はいっ それはもう……」

「そうか♪ では頼むぞ? アルタムどの」

「わ、ワタシの事は【アルタム】と、呼び捨てて頂ければと……」

「そうか? ふむ……他人行儀なのもよくないか」

「はいっ つきましてはワタシもルシアさまのことを……(ちらっ)」


 ぼくのカラダである、アプリルさんをチラ見するアルタムさん。


「【お義母様】と呼ばせていただければと♡」

「はっはっはっ いやいや……アルタム?」

「はいっ」

「それは却下だ」

「そんなぁ!?」


 あ、アルタムさん……それまだ諦めてなかったんですね?

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