第68話 カニは横にしか歩けない、それが常識

(【万物真理ステータス】っ アイツの詳細っ!)


 パッ!

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【カルキノス】

 出典:万物真理事典『ステペディア(stapedia)』


 主に海を棲家とするカニの魔物。

 その大きさは、幅4メートルを超えることもある大型種である。

 通常のカニと同じく3対・6本の脚、左右に2対の大鋏状の腕を持つ。


 その大鋏は強大で、挟み込まれたらまず離すことはなく、

 そのまま両断、もしくは圧潰される可能性が高い。


 また尋常ではない守備力を持ち、物理攻撃は効き目が薄い。

 水棲の魔物故に、火の魔法に弱いとされている。

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「か、カルキノス!?」


 勇者時代……船に乗って旅してる時に、いちど襲われたことのある魔物だった。

 船にとりつき、そのハサミで船体のあちこちをバキバキと砕かれたことがある。


(け、けどその時のより、もっと大きくて凶悪なんですけど!?)


 その幅は4メートルどころか6メートル近くあって……

 そのカラダと大鋏には、物々しいトゲがぎっちり並んでる!?

 しかも左の大鋏は特に巨大で、まるでドラゴンの横顔みたいなシルエット!?

 ここが海の近くのダンジョンだったら……

 まさにダンジョンボスに相応しい、大きさと禍々しさだった!?


「こ、こんなのどうやって倒したら──んなっ!?」


 ガシャガシャガシャ!


 【カニは横にしか歩けない】

 前世の日本ではそれが常識だったけど……


「こ、コイツっ まっすぐに突っ込んでくるぅ!?」


 6本の脚を器用に動かして、地響きを立てて迫るその姿は、

 まるで戦車が突っ込んでくるみたいだった!?


「あ、アイナさん!? 防壁をお願いしますっ!」

「わかりました! 【ミズガルズ】!」


 アイナママが掲げる杖から、光の奔流が放たれた。

 そしてそれは円を描き──


 ガシィ!!


 間一髪、カルキノスが振り下ろした大鋏を、受け止めた!?


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【ミズガルズ】

 種別:神聖魔法

 状況:常時

 対象:術者、対象者

 効果:神聖魔法の上級防壁魔法。

    神々の神聖な祝福を受けることで、

    対象者の周囲にドーム状の聖なる力による防壁を作り出す魔法。

    一定の時間経過で効果は消失するが、

    その防御力及び遮蔽密度を、術者が自在に変化させる事が可能。

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 けれど──


「くっ なんてこと!? 1回の攻撃で、防壁がこんなにダメージを!?」

「アイナママっ!?」

「だ、だいじょうぶです! 魔力を注き続ければ維持はできますからっ」

「く、クリスく──アプリルさんっ 今のうちに【戦装束】に!?」

「は、はいっ」


 そうだった!? 今のぼくはアプリルさんなんだ!

 そしてアプリルさんのそのチカラはまさにっ

 あの【6体の魔物】を倒すためにあるんだ!

 そう自分に言い聞かせ、ぼくは右手を掲げて──


「【シュミンケ】!」


 ぱぁぁぁっ」


 ぼくのカラダが光につつまれ──


 パッ

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 【アプリル(エルフ)】の【姫巫女の戦装束】に関する考察

 出典:万物真理【管理ログ】より


 姫巫女【アプリル・インゼルドルフ】は、わずか1ミリ秒で戦装束を装着する。

 ここでは、その変身プロセスを説明する。


 『シュミンケ』


 この呪文により、術者である【アプリル・インゼルドルフ】の股間に装着された

 【神託の装束】、通称【変身ヒモパン】が光り輝きはじめる。


 そこから溢れ出した魔力は奔流となって【戦装束】に転換され、

 【エルフィー・シルフ】として 化粧装着されるのだ。

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「セーラーコス☆美少女戦士! エルフィー・シルフ♡」

「風にかわってぇ……おしごとですっ♪」


 きゅぴーん☆


(って!? 【万物真理ステータス】さんっ!?)

(そんなコトまで詳細に説明しないでぇぇ!?)


 そんな心の叫びを発しながら、ぼくは涙目でアイナママを振り返る。


「アイナさん、打って出ます! 数え3つでお願いします!」

「さんっ」


 ぼくはアイナママの返事を待たずにカウントする!


「にっ」

「いちっ」

「いまっ!!」


 ふっと防壁が消え、ぼくはその瞬間に【俊足】のスキルで駆け出した。

 そしてその直後……背後からまた、聖防壁が張られた気配がした。


「空へ!」


 ぼくがそう【願う】だけで 精霊さんが集まる気配がする。

 そして1秒も経たずに、ぼくの身体を持ち上げた!


『∩(´∀`∩) ワショ──イ!!』


 持ち上げられた空中で、くるりと半回転。

 そして自由落下したその瞬間──


「切り裂けっ【烈風斬れっぷうざん】!!」


 今のぼくが放てる、最大の風刃。

 長さ5メートルを超える大型の風刃が5本、一気にカルキノスに襲いかかる!


 ガキッ!!!


「な、なん……ですって!?」


 けれどそのカラダには、うっすらと傷が付いただけ。

 むしろカルキノスは激怒したみたいで、こちらに向かって水を吹き出した!?


 ブシュ!!


「わっ!?」


 勢いよく吹き出す水鉄砲。

 間一髪避けたものの、その水が当たった石壁は、ぽっかりと穴が空いていた!?

 しかも空いた穴からはブスブスと、異臭と白煙があがってる。


「ま、まさか……酸!?」


 こんなのっ 盾で受けても酸で溶ける!?

 そんな凶悪な水鉄砲を、カルキノスは何発も撃ってきた!?


「ま、まさか遠距離攻撃もあるとかっ 聞いてません~っ!?」


 というか勇者時代に戦ったカルキノスは、こんなに強くなかった。

 なのにコイツはもっと大きくて、凶悪だった。

 しかもなんとか討伐したとしても、また復活しちゃうとか──。


「これってもしかして……魔族に改造されてる!?」


 というか、そうでも考えないと理屈があわない。

 魔族の言うことをきくだけでも不自然なのに……


「だからって、負けるワケにはいかないんですっ!?」


 ぼくはもういちど、カルキノスに急接近しながら呪文を練りあげるっ

 そんなぼくの考えを、察してくれた風の精霊さんたちが集まって……

 ヒュウっと弧を描いた!


「囲みこめっ【塵旋風じんせんぷう】!!」


 かつてルシアママが、レニーさんの聖防壁を破壊したという風刃。

 対象物を風刃で取り囲んで、高速回転させるという……

 まるでチェーンソーの刃を内側にしたようなその魔法を──

 ぼくはさらに強化した!


「巻き上げて!!」


 カルキノスをとりまく風が渦を巻き、螺旋状に立ち昇る。

 それは地面のチリや砂を巻き込んで、回転しながら風刃を作り出した!!


 ギャギャギャギャギャ!!


 粉塵を含む風はさらに堅さを増し、高速回転しながらカルキノスを包み込む。

 その激しい攻撃に、ヤツの強固な甲殻がカン高く耳障りな音を立てた!


 バキンっ!!


「いけるっ!」


 カルキノスの脚が窮屈に歪み、その中でも細身の脚が1本切断された。

 ぼくはさらに気合を入れて、風刃を狭めようとした──

 そのとき!?


「おっと、そのまま倒されてしまっては困りますね」

「……な!?」


 アルタムさんを人質にした神官──【悪霊】は、

 あろうことか、アルタムさんのカラダを盾に、こっちへ近づいてきた!?


「このドワーフの命が惜しければ、その風を止めてください」

「ひ、卑怯な!?」

「なに、勝てば卑怯もなにもありません」

「さぁ、残りわずかな気力をドレインすれば……この女は死にますよ?」

「くっ」

「あ、アプリルさんっ ダメです!?」


 アルタムさんが、目にナミダをいっぱい溜めて、そういってくれる。

 でも……アルタムさんの命には変えられない。

 ぼくが無言で風を止めると【塵旋風】は音もなく霧散する。


 ガシャァ!?


 拘束を解かれたカルキノスが、地面にそのカラダを広げる。

 ダメージはあったものの、まだ動けなくなるほどではなかったみたい。


「あ、アプリルさぁん!?」


 そんなアルタムさんの声と同時に、カルキノスがこっちを向いて──

 そしてぼくに向かって、突進してきた!?


(くっ 風の防壁を──)


 ぼくがそう思い、風を集めようとしたその時──


「……え?」

「なっ なんですか!? これは──」


 ぱぁぁぁっ


 アルタムさんの股間に、光り輝く……

 変身ヒモパンが現れた!?


「なななっ!?」


 そしてアルタムさんのカラダが、虹色の光に包まれると、そこには──


「水の精霊! 水の元素を司る、知性の蒼き泉! エルフィー・ウンディーネ参上!」

「水をぶっかけられて……猛省しなさいっ」


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 きゅぴーん☆


「あ、アルタムさんが……【四人の乙女たち】になっちゃった!?」


 そのコスチュームは、だいたいぼくとおなじだったけど……

 カラーリングが紺色じゃなくて、明るめの水色で統一されてる。

 そしてあいかわらずの……おヒゲ!?


(あ、アルタムさん……そこはゆずれないポイントなんだ!?)


 けど、そんなことを考えちゃうぼくに、カルキノスは遠慮してくれない。

 大きくて凶悪な大鋏を振り上げると、ぼくに向かって──


「両断せよっ【御名方みなかた】!」


 そんなアプタムさんの声と共に、一筋の水がぼくの頭上を通り過ぎる。

 そして振り下ろれる大鋏を、すくい上げるように受け止め──

 そのまま切断した!?


 ズーンっ


(うっ 【ウォーターカッター】!? すごい!!)


 大鋏が地面に落ちて、地響きをたてる。

 さすがのカルキノスも驚いたようで、その動きをピタリと止めた。

 そして──


「その硬そうな甲羅、砕いてあげますっ」

「踏み抜けっ!【須佐之男すさのお】!!」

「な、なになに!?」


 アルタムさんがそんな声をあげると……

 上空に、大量の水が渦を巻いて集まってくる!?

 そしてそのカタチは縦長の──


「あ、あれって……脚いぃぃぃ!?」


 巨大な人の脚になって、それがカルキノスめがけて落ちてくる。

 その超重量級の【水の脚】は──


ドゴンっ!!


 あっけなくヤツの甲羅を踏み砕いた!?


 グガァァっ!?


 そんな断末魔をあげるカルキノスを背に、アルタムさんがぼくを振り返る。


「今ですっ エルフィーシルフ!!」

「あ、はいっ」


 今のぼくの使命は、この魔物を封印すること!


「からめ取れ!【志那都風しなつのかぜ】!!」


 吹き荒れる幾筋もの風が、カルキノスのカラダを渦巻き、とりまいてゆく。

 あの硬かった甲殻を物ともせず、バキバキと砕きながら……

 そしてそのまま、どんどん小さくなって──


 コロン……


 手のひらに乗るサイズの球になった。


「【カルキノス】……封印しました♪」


 きゅぴーん☆


「って、なんでポーズとかキメてるのぉ!?」

「またカラダがかってに──ふごっ!?」

「【姫巫女】さまぁぁぁっ」


 アルタムさんが、凄まじい速さでタックルしてきた!?

 ぼくのカラダはふっとばされて、そのままふたりでゴロゴロ転がった。


「姫巫女様ぁ よくぞご無事で……うぅっ」

(あ、これって……)


 教えていないはずの【姫巫女】の名前で、ぼくをそう呼ぶアルタムさん。

 勝手にキメるポーズといい……

 この【姫巫女の戦装束】の法則が、すこしわかった気がした。

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