第66話 やっぱりこれ、あの【悪霊】のしわざ?
「なんと……
「お互いになりきって……生活を?」
あ、ぼくたちは今、冒険者ギルドに来ています。
それで街のなかの人たちで、唯一……
ぼくたちの【入れ替り】の事情を知ってるミラさんとマハさん。
このふたりに、その後のことをお話に来たんだ~
「はい、ミヤビさまから【神託】として、もとに戻れる魔法をいただいて……」
「ですが元に戻る前に、お互いの魂を馴染ませる必要があるんです」
「でないと、魂がぬけ出ちゃうみたいなんです」
ミラさんとマハさんには、あの【悪霊】が逃げ出したあと……
アイナママと5人でしっかりお話したから、だいたいの事情はしってるんだ。
でも、入れ替わり生活まではさすがに知らなくて、すごく驚いてるみたい。
「さ、左様にございますか……(ちらっ」
「そ、それは難儀にございました……(ちらっ」
(ん?)
なんだかミラさんとマハさんが、ぼくをちらちら見てる?
(なんだろ……あっ もしかして?)
(まえにルシアママがいってた──)
『おかげで滞在最後の晩には……アプリルに夜這いをかけられたからな』
それを心配してたりする?
けど今のアプリルさんは、ぼくのカラダなんだ。
もしアプリルさんがぼくのカラダで【夜這い】したら……
(なんだかそんなこと、考えてそうな気がするなぁ)
でもじっさいは……それに近いこと、しちゃってるんだよねぇ
しかもママたちも、ノリノリのニッコニコで~
でも、さすがにそこまではミラさんたちには話してないから……
「大丈夫ですよ? ミラさん、マハさん♪」
「ごしんぱいするようなことは、なにもありませんから」
そう、ぼくがいってあげたら~
「左様にございますか(すん……」
「それは良うございました(すん……」
(えー)
なんで『それはそれで物足りない』みたいなお顔、してるかなぁ。
◇◆◆◇
「うぅ クリスくんっ 最近……ミラとマハばっかり!?」
「もう私に飽きたんですねっ うぅ……ひどいぃぃ!?」
「えー」
そしてアマーリエさんの席に顔をだしたら……
アマーリエさんがめそめそ泣きながら、ハンカチを噛んでました。
「く、クリスくん……これを」(ひそひそ)
「わかりました、では打ち合わせどおりに」(ひそひそ)
ぼくはテーブルの下で、アプリルさんにセッケンを渡した。
あらかじめアマーリエさんにあげるつもりだったから。
「こほんっ アマーリエさん? それはちがいますよぉ?」
「クリスくん……」
「改めて紹介しますね? こちら、エルフの森からいらした、アプリルさん」
「あ、アプリルです、はじめまして♪」
「あなたがアマーリエさんですね?」
「あ、はい……はじめまして?」
「えへへ♪ クリスくんから『すごく素敵な人』だって聞いてましたから」
「お会いするの、楽しみにしてたんです」
「まぁ……クリスくん♡」
おぉ……アマーリエさんのごきげんが、よくなった!
じゃああともうひと押し♪
ぼくはアプリルさんに、こっそりウインクして~
「ほら、アプリルさんって、エルフの森からのお客さんでしょう?」
「だからどうしても、事情に詳しいミラさんたちと話す必要があって……」
「そ、そうですよね……なのに私ったら(ぽっ♡」
「だからぼくもすごく寂しかったんですけど……」
「えっ♡」
(えっ!?)
あ、アプリルさん? いったいなにを……
「やっぱり、こうしてアマーリエさんの笑顔を見てるとぼく……」
「心から、貴女がぼくの担当でよかった、そう思うんです」
「だから……アマーリエさん?」
「は、はひっ!?」
「あんな寂しいことを言わないで……これからもずっと──」
「ぼくの担当で、いてくれますよね?」
「はい……♡」
(ちょっ!? アプリルさん!?)
そりゃあぼく、言いましたよ!?
『ルシアママみたいなかんじで、おはなししてください』
ルシアママ、あいての良い所ところを見つけて、ほめるのが上手だから?
アマーリエさんにも、そうしてほしいっていったケドぉ!?
「ああ……これ、ぼくからの贈り物です」
「まぁ セッケン……しかもこんなに?」
「アマーリエさんにはいつも、素敵な女性であり続けていてほしいから♡」
「あぁ……クリスくぅん♡」
「そ、そんな嬉しい事、言われたら私……私ぃぃぃ……んっ♡」びくんっ♡
い、いまの【びくんっ♡】ってなにぃ!?
(っていうかアプリルさんっ!?)
(それじゃ……まるでぼくっ ホストみたいだよぉ!?)
◇◆◆◇
「ふうっ♪ ぼく……やりとげました!」
「うぅ やりすぎですよぉ~」
アマーリエさんが【お化粧なおし】に席を立っちゃったから……
とりあえずふたりきりでおはなししてるぼくたち。
「けど、あのアマーリエさんって……ぜったいにクリスく──じゃない」
「ぼくのこと、好きですよね♡」
「な、なんのことだかわかりませんのだ」
「うふふ♪ じゃあ、そういうことにしてあげますね♪」
もうやめて! ぼくのお顔でそんなかわいいポーズするの!?
(それに……アマーリエさんはぼくを──)
(受付嬢として応援してくれるから、あの対応だし?)
(そもそもぼくみたいな、一人前になりたての歳の男のコを……)
(アマーリエさんみたいなステキな人が、好きになるわけないし?)
なんて考えているぼくを、ニヨニヨみてるアプリルさん……
ホント女の人って、コイバナが好きだよねぇ?
「んふふ♪ 失礼しました……クリスくん♡」
「あ、アマーリエさんっ」
って、ビキニのショーツの方、ちがうのになってません?
「ところで……アプリルさん?」
「あ、はい」
アマーリエさんが、アプリルさんであるぼくに話しかけてきた。
「あなたは……魔法をお使いになるのですか?」
「はいっ 風の精霊魔法を少々」
「まぁ……やはりエルフの方は、精霊魔法をお使いなのですね」
「ええ、ですがそのぶん【元素魔法】が使えませんし」
これはルシアママがいってたことだけど……
そもそもエルフの人たちは、元素魔法が使えないんだ。
というか? エルフの女の人は、そのほとんどが精霊魔法を使えるんだって。
人族は、男女込みで2割くらいしか使えないのに……すごいよねぇ
「なるほど……それでアプリルさん?」
「その……少々立ち入ったお話をさせていただきたいのですが……」
「はい、なんでしょうか?」
「あなたの魔力──すなわち
「それはどの程度あるのでしょうか?」
「ああ、もちろんコレは冒険者ギルドとしてお伺いしており……」
「その口外はぜったいにいたしませんので」
「あ、はい」
ちらりとアプリルさんを見れば……ちいさくうなづいてくれる。
「はい、おおむね600くらいでしょうか」
「それは……すごいですね」
「レベル40台というと【達人級】のクラスですよ」
「いえ、私自身はレベル22ですし──」
「あ、アプリルさんのおうちは、代々MPが多いんだそうですよ?」
「なるほど……」
アプリルさんが、そうフォローしてくれた。
そういえば……ミラさんたちもいってたっけ。
『大宮司の氏族はそれに次ぐ豊富な魔力を持ち、その宗家長女にございます』
そう考えるとアプリルさん、
やっぱりエルフのなかでもすごいひと──エルフなんだなぁ
「ですがアプリルさんのMP量が、どうかしたんですか?」
「いえ……実は注意喚起をさせていただこうかと」
「ちゅういかんき?」
「これは調査中のことなのですが……」
「最近、ケストレルの街で【魔法使い】が襲われる事態が頻発していまして」
「「えっ!?」」
「しかも襲われるのは、決まって魔力量の豊富な女性です」
こ、これって……
「その手口は現在調査中ですが、何かしら【エナジードレイン】の様な術で」
「被害者の魔力を吸い尽くしているようです」
「ま、魔力を……」
「吸い……尽くす」
「当然、魔力を奪われた被害者は昏倒し……」
「目覚めた後も、ひどい【枯渇酔い】に苦しんでいます」
「ひどい!?」
「幸い、命には別状がないものの、数日は寝込むことが多い様です」
「ですから現在、魔法使いや神官の方には、十分な注意を促しているのですが……」
また、アプリルさんと互いに視線を合わせる。
やっぱりこれ……あの【悪霊】のしわざ?
「アマーリエさん? 犯人の目星は?」
「残念ながら……ですが被害者の証言によれば、派手な魔法などの気配はなく」
「マジックアイテム、もしくは特殊なスキルでの効果ではないか……と」
「そして犯行は、おおむね夜間ですね」
「やはり人の目が少ない時間を狙っているようです」
「そ、そうですか」
あの【悪霊】がいわゆるゴースト系の魔物なら、
【エナジードレイン】のスキルを持っていてもおかしくない。
そしてそれを、何度もやっているということは──
(魔力を集めて【6体の魔物】に使おうとしているのかもしれない)
アプリルさんは『ダンジョンの最深部にいる様な、強力な魔物』っていってた。
なら全部を復活させるには、相当な量の魔力がいるはず。
(なら、それを集めきる前に【悪霊】を討伐しないと!)
ぼくたちはアマーリエさんにお礼をいって……
ギルドから、おいとますることにした。
◇◆◆◇
「ど、どうしましょうか?」
「やっぱり私たちが街ではりこんで【悪霊】を討伐するしかっ」
「ですが……ぼくたちだけで、大丈夫でしょうか?」
「う~ん」
ちょっと、かんがえるぼく。
「ホントは……おうちに帰って アイナさまを呼んだほうがいいと思います」
「アイナさまなら、悪霊を神聖魔法で浄化できるかもしれないし」
「そ、そうですよね!?」
「でも私たちじゃまだ、アイナさまを運んで飛べないし……」
「な、ならルシアさまに──」
「悪霊かもしれない以上、ルシアさまは呼べませんよぉ」
「それに……『送ってもらってありがとう、じゃあ帰って?』」
「そういって、ルシアさまが帰ってくれるとはおもえないし?」
「で、ですよね……あっ じゃあこういうのはどうでしょう!」
「こういうの?」
「ぼくたちふたりで、アイナママを運ぶんです!」
「あ♪ さっすがアプリル──じゃないクリスくん♪」
「えへへ♪」
アプリルさんのいうとおり、ぼくたち二人がかりならぜったいにイケそう!
きっとひとりのときよりも、風の精霊さんが集まってくれるはず。
「あっ なら…もしかしたら……」
「ふたりで手をつないで飛べば…もっと速くなったりしませんか?」
「天才がここにいるぅ!?」
ぼくたちはお互いにうなづき合うと、街の門にむかって駆けだした。
そして街を出て、少し離れたところで──
「【シュミンケ】!」
ぱぁぁぁっ
ぼくのカラダが虹色に光って──
「セーラーコス☆美少女戦士! エルフィー・シルフ♡」
「風にかわってぇ……おしごとですっ♪」
きゅぴーん☆
(うぅ…なんで毎回っ)
(このポーズとセリフ、かってにしちゃうのぉぉ!?)
「さぁアプリルさんっ いきましょう!」
「あ、はいっ」
ぼくたちは空に浮かび上がると、手をつないで──
そのままおうちにむかって、最高速度を目指して飛び始めた!
(わっ 速いぃぃぃ!?)
そして…【
その速度は、ビキニを装備したルシアママよりも速かったんだ♪
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