第55話 レニーさんと、ホークさん

「ところでレニーさんは、これからおでかけですか?」

「まぁね……久しぶりに貴族の護衛さ」

「きぞくのごえい」

「朝イチで出りゃいいものを……呑気に昼からの出発なんだとさ」

「あー」


 【万物真理ステータス】の時計によると、いまは朝の10時ちょっと。

 この世界は、夜明けとともに動き始めるのが基本だから……

 ふつうはこんな時間に、冒険者は街にいないんだ。

 かといって、おやすみの日ならレニーさんも武装してないだろうし?

 じゃあ依頼の帰りかというと、それにしては装備がぜんぜん汚れてない。


(ふむん、名推理! なーんて♪)


 ともあれレニーさんたちは、この街のトップパーティーのひとつ。

 貴族さんがおでかけするとしたら、護衛にしたがるのもわかるかも。


「でも、まはお昼にはずいぶん早いですけど?」

「ああ、なんでもウチのリーダーが──と、噂をすれば」

「え?」


 レニーさんの視線をたどれば、そこには全身板金鎧姿の人がいた。

 たしかリーダーさんの……【ホーク】さん。

 パーティーの【盾役】だから、大きな盾を装備してるんだ。


「や、やあレニー、早くから済まないな──と、君は確か……」

「あ、ぼくクリスです♪ ホークさん」

「ああ、すまない。そして元気そうで何よりだ」

「ホークさんも、あいかわらずカッコイイです♪」

「そ、そうか? ハハッ」


 べつにおせじじゃなくて、ホントにカッコイイんだよな~

 背が高くてガッチリしてて、筋肉ムキムキ!

 歳はアラサーくらいに見えるけど、けっこうシブい感じ?


(はわ~、ぼくもこんな感じになりたいなぁ)

(あこがれちゃうよねぇ♪)


 その点ぼくは背が低くて細いから、我ながらたよりない感じ?

 こう……もっと精悍な感じになりたいのに~

 なーんてぼくが考えてると、ホークさんがなんだか困ったお顔でぼくを見てた。


(あれ? ぼく、おじゃまかな?)


 なにか大事なお話があるのかも。

 じゃあ、おいとまする? って思ってたら……


「ああ、クリスはなんでも買い物に来てるらしくてね」

「さっき偶然、そこで会ったのさ」

「なぁ? クリス♪」

「やぁん♡」


 レニーさんはちょっと背を屈めてぼくを見ると……

 ぼくの頭をなでなでしてくれた♪

 ホークさんが見てるから、ちょっと恥ずかしいけど、

 でもレニーさんのなで方は優しくて、なんだかうっとりしちゃう♪


「あ、いや……意外でな、レニーは子供が苦手なのかと思ってたよ」

「はぁ? 失礼な男だね」

「そもそもクリスはもう一人前の歳なんだ、子供じゃないだろう?」

「え? あ……そうか、でなきゃギルドに登録なんてできないか……」

「アンタねぇ」

「い、いやすまない……その、見かけがな? クリス君、申し訳ない」

「あははー、なれてますからー」


 ホントは慣れたくないけどね~


「それに……苦手なのはうるさくてバカなガキさ」

「クリスみたいな賢くて気遣いのできる子なら、大歓迎だよ♡」

「えへへ♪」

「そ、そうか」

「ま、それに……さ」

「ん? それに何だ?」

「もしあの時……」

「オヤジの言うなりに、嫁に行ってたら……」

「あたしにも、これくらいの子供がいてもおかしくないのか……なんて思ってね」

「レニー……」

「ま、結局は家を飛び出して……いろいろあって、司祭様に拾われて……」

「いまでこそ、いっぱしの神官冒険者なんかやってるけどねw」


 この世界では、15歳くらいでお嫁に行くことも多いから、

 ぼくくらいの子供がいても、ありえないハナシじゃないかも?


「それでリーダー、用ってのはなんだい?」

「あ、ああ……その、な」

「ん? クリスに聞かれたらマズいハナシかい?」

「あー、そういう訳でもないんだが……」

「はっきりしないねぇ」

「あのぅ、ぼくおじゃまでしたらそろそろ~」

「ああ、気を遣わせてすまない……そこまで内密な話じゃないんだ」

「いいのかい?」

「実はなぁ……今日の依頼主の貴族様だが……」

「そこからギルドを通して、相談があったんだよ」

「ギルド経由で? そりゃまた大層なハナシだね?」

「ああ、それで要件は……レニーに縁談だ」

「はぁ?」

「びっくり!」


 ななな……縁談って、ケッコンだよね!?


「いや、俺も驚いたんだが……どうもそのお貴族様の次男坊が、だなぁ」

「まぁ、次男坊と言っても20代の半ばらしいんだが……」

「街でレニーを見初めたらしい」

「あ、あたしをかい?」

「ああ、なんでも、その……ビキニ姿にな?」

「……なんだかねぇ」

「もちろん……向こうは貴族様だ」

「そしてレニーは平民だから……その立場は──」

「あー、はいはい……【めかけ】ってワケだね?」

「ま、まぁそうなるな」

「冗談じゃない、断っておくれ」

「……いいのか?」

「はんっ このあたしが、貴族ってガラかい!」


 すっかり【おこ】なレニーさん。

 なんだか照れ隠しとかじゃ全然なくて、ホントにイヤみたい。


(でも、ちょっと安心しちゃった♪)


 お貴族さまになっちゃったら、そう簡単には逢えないからね。

 せっかく仲良くなれたのに、そんなのさびしいし。


「そ、そうか……ではこの話は、俺からギルドに通しておく」

「とはいえ、大丈夫なのかい? 相手は貴族だろ」

「まぁな、だが無理強いはしないでいいと言われているからな」

「そうなのかい?」

「ああ、なにせその次男坊……すでに妾が5人いてな……」

「けっ 最悪だね!」

「ま、そういうことだ」

(おぉぉ)


 なんだかすごいお話を聞いてしまった!

 というかレニーさん、ホントにモテるんだ~


「えへへ、ホークさん、よかったですね?」

「ん? ああ……レニーに抜けられたら、ウチは大損失だからなぁ」

「ですよねー」


 でも……そのわりにはホークさん、すっごくニコニコしてるんだよねぇ?

 もしかして……?


「はんっ まったく……これだから男ってのは! どいつもこいつも!」

「ん? どいつも……とは、何かあったのか?」

「ああ、ありまくりさ!」

「あたしがこのビキニを装備するようになってから……」

「イヤというほど求婚されてるんだよ!」

「なっ!?」

「れ、レニー……そ、それは、本当なのか?」

「ああ、20人くらいまでは数えてたけどね……それ以降は数えてないよ」

「しかも! どいつも『俺がもらってやる』みたいなカオしやがって!」

「どうせ行き遅れの大年増を哀れんで、からかってるクセにさ!」


 れ、レニーさん……それ、たぶん本気だと思うけどな~

 でも、それよりも……


「なな、なん……だと?」


 ホークさんが、すごいショック受けてるぅ!?

 これはやっぱり……?


「ちっ なら今日はビキニはヤメだね!」

「上から神官服着て嫌がらせしてやる!」

「れ、レニー……」


 そんな【激おこ】なレニーさんを追いかけるホークさん……

 そのうしろ姿には……哀愁がただよっていたんだ。


 ◇◆◆◇


 とはいえ──

 ホークさん……いわゆる【盾役】には、けっこう憧れちゃうぼく。


「う~ん、やっぱりカッコいいしねぇ♡」


 それというのも……最近ぼくは悩んでいるのです。

 もちろんそれは、魔物との戦闘のときの、ぼくのスタイル。


「とりあえず【タフクの塔】ではほぼ負けなしになったけど~」


 あそこはいわゆる【初心者向けダンジョン】だし?

 後ろにママたちがいてくれるなら、オーバースペックもいいところ。


「とりあえず【ソニックブレード】で、剣の切れ味はよくなったけど」

「問題なのは、このまえの【魔族】みたいな【強敵】との戦いなんだよね~」


 あのときは、ぼくとアイナママが全力でやって、ぎりぎり勝てた。

 もちろんあそこにルシアママがいたら、もっと楽に勝てたかもだけど……


「そしてぼくは、当分レベルアップできないから……」


 ベースの【筋力】や【攻撃力】が、ずっとレベル1相当なのが地味にキツい。


「勇者魔法の【超越身技オーバークロック】が使えればなぁ」


 【英雄級】冒険者の3倍のステータスが手に入るし?

 たいがいの魔物&魔族はそれで倒せそう。


「ママたちのおかげで、だいぶMPは増えてきた」

「だけど、勇者魔法が使えるほどじゃない」

「それでも……上級の魔法使いくらいのMP量にはなってきたんだ」


 これなら【魔法使い】としての道も考えるべき?

 ずばり、最近のぼくの悩みはそこだったりする。


「それに……勇者のころと違って、今はステラママがいないんだ」

「だからぼくがそのポジションに入るのも、手だよねぇ?」


 だけど……【剣士】としての道もすてがたい。

 そして思えば……勇者時代のころ。

 当時のルシアママはこういってたんだ。


『私たちを使いこなすことを考えろ』


 それは勇者の【役割】ということ。

 勇者は【主砲にして司令塔】。

 従者達に指示を飛ばし、戦いの場を整えた後……勇者魔法でまとめて敵を殲滅。

 これが勇者の基本なんだ。


「でも、今のぼくは【物理攻撃】もまだまだ弱いし……」

「【魔法】も同じく、まだまだ発展途中なんだよねぇ」


 そこで思いついたのが……【盾役】なんだ。


 パッ

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【盾役】

 出典:万物真理事典『ステペディア(stapedia)』


 全身鎧に加え、身の丈程あるタワーシールドを装備した【前衛職】。

 その高いHPと防護力を活かし、敵の攻撃を一身に受けるという、

 文字通り、パーティの【盾】となる役職。

 また敵に対し【挑発】などのヘイト行為を行うことで、

 自分に攻撃が集中する様に誘導するという役目もある。

 戦況を把握し、司令塔としてパーティー要員に、作戦指示を出す場合も多い。

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「おぉう、【万物真理ステータス】さん、解説ありがとう♪」

「そりゃぁ、見た目はさっきのホークさんみたいなマッチョじゃないけど?」

「実はぼく、HPが10万とかあるしなぁ」

「しかも風精霊魔法のおかげで、風の魔法防壁も身についたし?」

「これならアイナママたちへの説得材料にもなる……よねぇ?」


 ちょっと想像してみる……


「大きなタワーシールドをかまえて……ママたちを後ろに守りつつ……」

「その状況をしっかり読みとって、的確な戦闘指示をだすぼく」

「………………か、かっこいい♡」


 そうと決まれば……大盾、見にいっちゃう?


「【盾術】のホントのスキルも、レベル83だし……大丈夫だよね?」

「とりあえず……ぼくの防具でお世話になった、アルタムさんのお店」

「いってみよ~っと♪」


 ◇◆◆◇


 「重 く て 装 備 で き ま せ ん で し た (泣」

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