第48話 召喚勇者が、遺したアイテム?

「おぉぉ……これはっ!?」


 あいかわらず、ぼくはヒマを見つけては、

 ステラママの遺してくれた魔導書を読みふけってるんだけど……


「【水魔法】をつかった【給水器】──かぁ」

「これがあればもっとアイナママに、楽をさせてあげられるなぁ♡」


 その魔導書は【元素魔法】を【充電池】みたいにチャージできる……

 という【人工魔石】の解説書で、すごく便利な魔道具が作れるみたい。

 そしてこれは、水の魔石から蒸留水なみにキレイなお水を出せるという、

 ぼくにとっては夢のような魔道具だった♪


「前はあたりまえだと思ってたけど……」

「この世界、お水にはホント苦労するからなぁ」


 それこそあたりまえだけど、おうちに水道なんてない。

 だからお水は、井戸や川から汲んでこないといけない。

 そして当然、そのまま飲むとおナカをこわしちゃう。


「だからぼくたちは、ぜったいお水はそのまま飲まないんだ」


 飲むのはもっぱらお水で薄めたワイン。

 お店で買ったときからもう薄くなってるから、これはそのまま飲めちゃう。


「でもぜんぜんおいしくないし……ホント、ヘンな色つき水みたい」


 お料理に使うときも、いちど火で沸かさないとダメ。

 だからアイナママは毎日、井戸でお水をたくさん汲んで……

 それを沸かしてから、ぼくたちに飲ませてくれるんだ。


「ぼくたちもお水を汲むのをおてつだいしてるけど……あんまし汲めないしなぁ」


 それにアイナママの楽しみは、おいしい紅茶をいれること。

 だからぜひ、このキレイなお水を使える魔法具は再現してみたい!


「ええと、ほかには……おぉ、すごい!」

「【火魔法】をつかった【コンロ】と【オーブン】!」

「しかも火力調整つき……かぁ」

「これこそアイナママがよろこびそう♪」


 火を炊くにはマキが必要だし、火力の調節もけっこうたいへん。

 主婦のアイナママが使えば、超べんり!


「なになに?【土&水魔法】をつかった【冷蔵庫】に【冷凍庫】!」

「おぉぉ、それこそ時間が止まる【異空収納インベントリ】にはかなわないけど……」

「これはこれでお手軽だし? いろいろべんりに使えそう♪」


 とくにこの世界は【冷やす】というのがほんとうにたいへん!

 氷なんて冬しかないし? 夏なんかはめっちゃ活躍しそう♪


「それに……【水&風&火魔法】を組み合わせた【掛け流し風呂】!?」

「すごい!? お風呂なんて……しんじられない!?」


 この世界でお風呂にはいれるなんて、よっぽどのお金持ちか王侯貴族くらい。

 ぼくたち庶民はお湯やお水に浸した布で、カラダをぬぐうのがせいいっぱい。


「まぁでも? ここは日本みたいに湿気がないのが救いだよねぇ」

「だから汗もかきにくいから、なんとかガマンできるかんじ?」


 とはいえそのせいで、おせんたくなんかも毎日できないし……

 髪を洗うのも、週にいちどくらい。


「それに、セッケンがにおうんだよねぇ」


 動物のお肉の脂で作られてるから、けっこうくさい。

 だからお洗濯にはいいけど、カラダを洗うには向いてないっぽい。


「まずはいいニオイのセッケン作り、からかなぁ」

「こ、これは……【水魔法】をつかった【おしり洗い機能】つき【トイレ】!?」

「しかも【浄化槽】は、【スライムの魔石】を使って自動で分解処理!?」

「すごいっ すごすぎるぅぅ!?」


 トイレにいたっては、フツーに【おまる】なんだ。

 おうちから離れた小屋に、穴のあいた箱イスをおいて……

 その中におまるをいれて、定期的に捨てるの。


「こ、このおまるから開放されるだなんて……天国すぎるぅぅ!?」

「すばらしい! ぜったい再現させよう♪」


 そんなふうに決心するぼく!

 だけど……


「でもこのラインナップ……どう見ても日本人の発想だよねぇ?」

「やっぱり何代か前の【召喚勇者】が、のこしたアイテムなのかなぁ」


 2百年にいちど、魔王が生まれたびに、新しい勇者が召喚されるから、

 そのたびに日本の文化とかが、こっちに残ったりするんだ。


「この前のハンバーグとか?」

「というか、そういう意味だと前世のぼく……」

「なにものこしていないような──」

「ま、まぁ死んじゃったしね? しかたないよねぇ?」

「あはは……はぁ」


 でもホントはちょっと──ううん、けっこうショック……


「異世界の文化、のこしたかったなぁ……ん?」

「このコンロの絵……」

「なんだかウチのカマドに、カタチが似てるような?」


 ◇◆◆◇


「な、なん……だって?」


 結論からいいます。

 うちのカマド……中をよーく見てみたら、魔石っぽいナニかと……

 それっぽい装置がありました!?


「ん~ お、とれた♪」


 ぼくは手を伸ばして、その魔石をはずしてみた。

 ススだらけだったけど……コレ、魔導書にあった【人工魔石】っぽい。


「と、とりあえず……布でよく拭いておこうっと」


 ふきふき


「ええと……【万物真理ステータス】!」


 パッ!

-------------------------------------

【人工魔石(火)】


種 別:マジックアイテム

制 限:【耐久度:56/100】

価 値:銀貨52枚

性 能:【火】の魔法を封じ込めることができる人工魔石。

    この魔力を用い、対応したマジックアイテムなどの燃料となる。

    魔力が枯渇した場合【エンチャント】の呪文で再充填が可能。

-------------------------------------


「な、なんてこった……」

「というか、ステラママだもんね……」

「これをすでに再現してたんだ!? すごいぃぃぃ!!」


 アイナママとの【レッスン】のおかげで、ぼくの【MP】マジックポイントも300を超えてる♪

 だからチャージしても大丈夫なはず……


「ええと……【エンチャント】!」


 ポゥっ

-------------------------------------

【エンチャント】

 種別:元素魔法(土・水・火・風魔法)

 状況:常時

 対象:術者、対象者の所持アイテム

 効果:魔法の力を持たない普通の武器に対して、一時的に魔力を与える魔法。

    与えた魔力によって、炎や冷気、雷撃などの効果を発揮することが可能。

    ただしその効果は一時的で、その威力も術者のレベルにより増減する。

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「んぁ!? けっこう、魔力もっていかれるぅぅ!?」


 【万物真理ステータス】で調べたら、250ちかくもっていかれてた。


「あ、あぶない……もうすこしで【枯渇酔い】するところだった」

「あれ、すっごくキツいんだよねぇ」


 すると、くすんでいた魔石が、あざやかな色にかわった。


「じゃ、じゃあこれを戻して……と」

「それで……あ、これ……スイッチだったのか!?」

「なにかの模様かと思ってたよ……」


 アイナママがキレイにお掃除してくれてたみたいだけど……

 押してもなんともないから、気づかなかったんだと思う。


「んでは……ぽちっとな♪」


 ボッ!


「ひ、火が……ついた!」

「やったぁぁぁ♪」


 ◇◆◆◇


「なんと……」

「まぁ……」


 ルシアママにアイナママ。

 ふたりにこのカマドを見せたら、すごくびっくりしてた♪


「そういう魔道具があるとは聞いていたが……」

「まさかステラがそれを、再現していたとはな」

「すごいよねぇ、ステラママ!」

「そ、それにしてもわたし……魔道具に薪を使っていたのね……」

「でもアイナママ? これでべんりになるね♪」

「え、ええ……とても助かるわ」

「これで薪を使う量もずっと減るし……」

「あ、それにこれ、ここを押すと──」


 ボウッ!


「火が強くなるんだ♪」

「まぁ」


 火力調節のボタンは3つあって、右を押すほど強くなった。

 アイナママはおっかなびっくり押してたけど……


「なんて便利なのかしら……」

「だよねー♪」

「けれど……」

「ん? どうした、アイナ」

「これ、ステラは使っていなかったのかしら?」

「ん?」

「だって……ルシア、貴女が知らなかったのでしょう?」

「ああ、今初めて知った」

「そうよね……ならなぜ、ステラはこれを使わなかったのかしら?」

「ああ、それなら私にも判る」

「ステラは……料理をしなかったからな」

「「えっ」」


 ぼくとアイナママの声がハモる。


「でも……ルシア? 貴女も料理はしないわよね?」

「ああ、私は料理は不得手だからな」

「なら、いったい誰が料理を──」

「なのでステラは家事を、村の婦人に委託していたのだ」

「は?」


 ぽかんとするアイナママ。

 そのお顔をみて、ルシアママがこう続けたんだ……


「いや、私もステラも互いに子育てで忙しかったし?」

「ステラもあの通り、研究肌の女だったからな」

「なので料理や掃除・洗濯はすべて、村の婦人たちにやってもらっていたのだ」

「なな……」

「い、いや? もちろん対価は支払っていたぞ?」

「こう言ってはなんだが……私もステラも、金には困っていなかったからな」

「ルーシーアー」ゴゴゴゴゴ……

「ひぃ!?」


 あ、アイナママが、【笑顔の威圧ゴゴゴゴゴ】を放った!?


「そういう問題ではありませんっ」

「子供も居るいい歳の女がっ 家事もろくにしないだなんて!?」

「だ、だが──」

「しかもこんな便利な魔道具がありながら……何をやっているんです!!」

「ひぃぃぃ!?」


 今の地球ならセクハラものの発言だけど、この世界ではそれがふつう。

 こうしてルシアママは……アイナママにたっぷりとお説教されて~

 そして──


 ◇◆◆◇


 ジャー


「な、なんと……」

「まぁ……」


 お台所の食器を洗う【くぼみ】のところ。

 そこについてる【ヘンなでっぱり】……

 ここからお水が出ました。


「ルシア……?」

「い、いやその……」

「ステラが井戸から汲み置いてくれたものと(汗」


 とまぁ、こんな感じで……

 ルシアママはこの便利な魔道具を、ほとんど知らなくて──


「では……あの妙にしっかりとした扉のついた戸棚は──」

「あ、アイナママ? これたぶん【冷蔵庫】だよ?」


 それに、いままで物置として使ってたタイル張りのお部屋は……


「これ、きっとお風呂だ」

「ほら、ここにお湯をためて、お湯につかるんだよ!」

「うっ!? そういえば……」

「……ルシア?」

「す、ステラが元気な頃、私も使っていたが……」

「その後は?」

「う、動かなくなったので『まぁいいか』と……」

「それで、今の今まで忘れていたんですね?」

「………………はい」


 そしてとどめは……おトイレ。

 ステラママがいなくなって、浄化槽が働かなくなったから、

 そのニオイがひどくて──


「はい……ココも封印して【開かずの間】にしたのだ……いや、しました」

「ルシアママ……」

「………………(大汗」


 こうして──

 ルシアママは【罰】として……

 今後、ぜんぶの人工魔石に【精霊魔法】で魔力封入をすることと、

 開かずの間にした、おトイレのお掃除。

 そして……


「ほらっ もっと腰を入れて! パン生地はたっぷりこねないと!」

「ひぃぃぃ!?」


 アイナママによる厳しい指導のもと、

 お料理の特訓をする事になったのでした♪

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