第38話 不自然な、魔物の氾濫
(あれ? そういえば……)
その違和感に気づいたのは……食事のあと、小一時間たったころのこと。
あれだけあったほかのパーティーとのはちあわせが、なくなっていたから。
(おかしいな……まだ引きあげるような時間じゃないのに?)
そして──
ドドド……
(なっ!? 【
そのレーダーマップに現れたのは……魔物の列!?
それがぼくたちのところへ向かって移動してる!
(トレイン!? いや……人族が先頭にいないしっ)
(ならっ!)
ぼくはアイナママをみて、短くこういった。
「アイナママっ 魔物っ しかもたくさん!」
「っ!? では聖防壁を──」
「ううんっ ぼくがいく!」
「ですがっ」
「ここはダンジョンの出口に近いし、魔物が外に出ちゃうかも!?」
「だからぼくがやらないと!」
「あっ クリス!」
【
たしかに多いけど……ぼくならやれる!
【俊足】のスキルで駆けだして、魔物たちを迎えうつ。
囲まれるまえに正面から、各個撃破してやるんだ!
「いたっ!」
足の早いキラービーと、ミラージュモスがまっさきにやってきた。
ぼくは高速で駆けながら、【跳躍】のスキルで床から飛び上がり……
さらに三角跳びで壁を蹴って、その軌道を一瞬で変化させる。
「てやぁぁぁっ!?」
「キュキー!?」
そんな空中からの剣戟に、飛ぶ魔物たちもあえなく魔石に姿を変えた。
「やれる!」
2日がかりで、その倒しかたは身体に叩きこんだんだ!
もうキラービーもミラージュモスも、もうぼくにとってザコも同然!!
負ける気がしない!
「たぁぁぁっ!?」
そして──
そんな一方的なぼくの攻撃が、その魔物をすべて魔石に変えた頃……
「はぁっ はぁっ ……やった♪」
「ねえっ みててくれた? アイナママ♪」
けれど──
「あ、アイナママ!?」
いつもぼくを見守ってくれた、アイナママ。
その姿が……見えなくなっていたんだ。
◇◆◆◇
「あ──っ!」
「ぼくのバカバカバカぁぁぁっ!!」
そんなふうに自分を怒鳴りながら、ぼくは無我夢中で走った。
その行き先は……塔のてっぺん。
そこに……【
「よりによってっ よりにもよってぇっ!?」
「アイナママを……さらわれるだなんてぇぇぇっ!?」
そしてそのアイナママを示す光点のまわりには……
魔物の他に【敵意をもつ人族や亜人】をしめす、黄色い光点がたくさん。
(きっとっ あの【闇ギルド】って連中のしわざ!)
(でもまさか……ダンジョンのなかで、しかけてくるだなんてぇぇ!?)
なにが【ぼくが守る】だ!?
ぼくがしたことは、調子にのって魔物を斬っただけ!
アイナママのいうことを、さえぎってまで……
それがほんとうにぼくの、すべきことだったのか!?
「アイナママっ ぼくがバカだった!」
「けど、謝るのはあとっ」
「ぜったいに助けるから……」
「ぼくにっ ごめんなさいをいわせてっ!!」
そんなぼくが、必死にさいごの階段を駆け上がると──
「クリス!?」
「アイナママ!?」
思ったとおりアイナママのまわりには、冒険者らしき連中がいた!?
そしてアイナママには……
不自然な赤い光を放つ、首輪が付けられていたんだ。
(まさかっ あれで魔法を封じられてるの!?)
いや、アイナママがあんな連中のいうとおりになるだなんて……
そうとしか考えられない!?
「おいっ ガキのほうが来やがった!?」
「あ、あの魔物を全部倒したってのか!?」
「ちっ 逃げてきたに決まってんだろ!」
「おいガキ! この女の命が惜しかったら──かふぁ」
あっけにとられる冒険者たちをよそに、ぼくは【縮地】のスキルを発動させた。
その開いていたその距離が、一気に縮まったその瞬間──
【抜刀術】のスキルが、周囲にいた5人を全員切り裂いた。
(あとは──)
アイナママの腕を掴んでいる男と、その横にいるもうひとりの男のみ!
そう思ったとたん──
ドンッ!
「んあぁぁぁっ!?」
ぼくの身体はふっとばされていた。
虚ろな目をした、その【もうひとりの男】に!?
(ま、魔法!? しかも爆発魔法!?)
きりもみ状態で視界がぶれる。
そして肩から地面に落ちて痛みが走る、けど……
【痛覚遮断】のスキルが、それを一瞬で止めてくれる。
(あ、あれは……魔族!?)
アイナママの腕をつかんでるのは、人族だけど……
ぼくに魔法を放った男は、褐色肌に白い髪、
そして頭には、ヒツジみたいな丸まったツノが生えていた!?
「おいおい、マジでここまで来るとか……どーなってんだ?」
「あ、アイナママをはなせっ」
「あのなぁ、そんなことが言えたザマか?」
「なっ!?」
ニヤニヤと笑いながら、その男は腰からタガーを引き抜いた。
そして震えるアイナママのお顔にちかくに、そのタガーを寄せつける。
「や、やめてくださいっ わたしなら……言うことを聞きます!」
「ですからあの子だけは──」
「ハァ? 助けてください~ ってか? バカじゃねーの?」
「どうせ魔法の使えないアンタなんざ、屁でもねぇし」
「それにこんだけ手下を殺られといて、タダで帰すワケねぇだろ?」
「そ、そんな──」
やっぱり……アイナママは魔法を封じられてる。
そしてとなりにいる魔族も……
(【
パッ
-------------------------------------
【服従の首輪】
種 別:マジックアイテム
制 限:無制限
価 値:金貨32枚
性 能:対象の人物の首に装着することで、
使用者の魔力で縛り、使役することができるマジックアイテム。
対象の意思を曖昧な【催眠状態】にすることで自我を失わせ、
強制的に使役することが可能になる。
ただし対象の自我が曖昧な故に、融通がいまひとつ効きくくもある。
その使役には、対となる腕輪を装着する必要がある。
-------------------------------------
(【服従の首輪】!? そんなもので魔族が操れるの!?)
見れば……魔族の首とあの男の腕には、
同じ系統のデザインが施された、首輪と腕輪があった。
そして魔族の赤い瞳は、うつろに宙をみていて……
「とりあえず……オイ、魔族!」
「そこのガキをなぶり殺しにしろ」
「一気に殺るんじゃねーぞ? そうだな……」
「とりあえず手足を1本づつもぎ取りながら、十分に苦しめて……」
「最後に首を飛ばせ」
「く、クリスっ!?」
「アイナママっ」
しかしその直後、魔族が差し出した腕から魔法が飛んでくる。
そしてそれはぼくの身体にふれた瞬間──爆発を起こした!?
ドンッ!
「うわぁぁぁっ!?」
しかもあの男の命令を聞いているつもりなんだろう。
その魔法はぼくの両手両足を、交互に狙ってきた!?
(くぅぅうっ こ、このままじゃぁぁぁっ!?)
ぼくのHPは10万以上あるし、
痛覚遮断のスキルもあるから、まだまだ耐えられるっ
だけど魔族にとって【魔法攻撃】は、息をするみたいに簡単な行為。
それに保身を考えていないあの状態じゃ、それこそ終りが見えてこない。
ドンッ!
「んあぁぁっ!?」
しかもぼくの身体が軽いから、あっけなくふっとばされる。
そのたび、ぼくは床の上をなんども転がりまくった。
(な、なんとか……アイナママに近づかなきゃ!?)
ぼくは立ちあがり、アイナママを押さえつける男をにらみつける。
すると、その男は不機嫌そうに顔をゆがめて──
「チっ しぶといガキが……」
「おい、魔族! もう手加減はヤメだ!」
「いいからガキに、トドメをさ──」
「い、いやぁっ!?」
どんっ
しびれを切らした男が、魔族にそう命じようとしたその瞬間──
アイナママが捨て身の体当たりをして……
「アイナママっ!?」
よろけたその男が、アイナママから離れたのはほんの1メートルていど。
けれどぼくは【縮地】のスキルを発動させ、その間に入り込む。
そして、そのタガーを持った右手首を──
使役の腕輪ごと、斬り飛ばした!
「あ、あひっ!? お……俺の腕がぁぁぁぁぁっ!?」
「クリス!?」
駆けよってくるアイナママをしっかりと抱きとめて、そのまま抱き上げる。
「きゃぁ!?」
「アイナママっ ごめんっ」
そのままお姫様抱っこの格好で床を蹴り、魔族から距離をとった。
けれど……
(う、うごかない?)
あれだけ魔法を連発していた魔族は、その動きをピタリと止めて……
ニンマリと笑う。
そしてその目は、さっきまでのうつろなソレじゃなく──
「よくも……この私を今まで──」
「ひぃぃっ!? や、やめ……やめてくれぇぇっ!?」
「黙れ! この薄汚い人族が!?」
「あ、あひぃぃぃぃ!?」
ドンッ! ドンッ!
それこそ、魔族は恨みを晴らすように……
自分を使役していた男の両手両足を吹き飛ばし──
最後に首を飛ばした。
「くく……だが、キサマも最後にひとつだけ役に立ったようだな?」
「なっ!?」
その赤い瞳が……ぼくたちを見やる。
正確には、アイナママ……そのお顔を忌々しげに。
「あの憎き【勇者】と共に、我が魔族の王を弑した……【聖女】」
「我ら魔族の恨み……ここで晴らさせてもらお──」
「させない!」
ぼくはそう、魔族のことばを遮りつつ、
アイナママの魔力を封じる首輪を破壊した。
「クリス!?」
「アイナママ……さっきはごめんね」
「ぼくひとりで、先走っちゃって……」
「だから、こんどは──ぼくにチカラをかして?」
「クリス……」
「そしてふたりであの魔族を倒して……いっしょにおうちに帰ろう♪」
「ええ、わかったわ……ママが、守ってあげる」
【服従の首輪】の使役がなくなった今……
きっと魔族のチカラはもっと強くなってると思う。
(けど、こんどはアイナママといっしょだ!)
杖のないアイナママは、その両手を組んで高くかかげる。
そこからあふれる光の奔流は……
きらきらとぼくたちを照らし、まるで暖かく包んでくれるかのようだった。
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