第37話 この世界における一般的な性文化

「【バーンファイア】!!」

「キュキキー!?」


 帯状に連なる炎のカタマリが、ミラージュモス4体を一気に焼き払ってゆく。

 その火の勢いに毒粉も広がることなく燃え尽きてゆき……

 残ったポイズンビーもあっけなく剣に斬られ、魔石に姿を変えた。


(って──いまの、ぼくの魔法じゃないんだけどね~)


 そう、いまの戦闘は……

 ぼくたちとたまたま居合わせた、ほかのパーティーのこと。

 さほど広くもないダンジョンの通路、戦闘中に横を通るわけにもいかない。

 だからこうして戦闘が終わるのを待つか、助けに入るかのどっちかだけど……


(さすがにレベルアップ目的で、ずっとここで戦ってる人たちだもんねぇ)

(そうそうピンチにはならないですよねー)


 なので最初こそ『助けがいりますか?』って聞いてみたけど……

 『あ、結構です』っぽい感じでおことわりされちゃう。

 だから……


(こうやって終わるのを、待ってるしかないんだよねぇ)


 へたすると、待ってるぼくたちの後ろに、さらに別のパーティーが来たりする。

 なのでなるべく行動範囲が重ならないように、注意しないといけない。


(気まずいよねぇ)

(でもこれって……ダンジョンあるあるなのかなぁ)

(あ……さっきのパーティーの人たち、宿屋へもどるみたい)


 もしかしたらさっきの火魔法【バーンファイア】で、

 魔法使いの人のMPが少なくなったのかも?


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【バーンファイア】

 種別:元素魔法(火魔法)

 状況:戦闘時

 対象:魔族・魔物

 効果:空気中の元素から帯状の炎を作り出し、標的に向かって発射する魔法。

    集団の魔物に対し、一気に火のダメージを与えることができる。

    水系・氷系の魔物には効果が高く、火系の魔物には効果が薄い。

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 集団の魔物に効果がある魔法は強力だけど、そのぶんMPの消費がはげしい。

 だからきっと、とっておきの魔法を使ったのかも?


(でも、集団の魔物にきく魔法はうらやましいなぁ)


 もちろん、アイナママの【ホーリーブレス】も、集団に効果があるけど……

 アイナママの魔法はレベルが高すぎて、効果もありすぎなんだ。


(だからアイナママに頼ってちゃ、ぼくの修行にならないよねぇ)


 さっきのパーティーの人たちとすれ違いざまに軽くあいさつして……

 ぼくたちは強めの魔物がいる、塔の上の階に向かうのでした。


 ◇◆◆◇


「ふう、ごちそうさまでした」


 お昼ごはん──というにはちょっと早めの時間。

 塔からお外が見えるところでアイナママに【聖防壁】を張ってもらって、

 ぼくたちは軽めの食事をすませたんだ♪

 けど……


「うふふ、クリスはパンのお味にご不満のようね?」

「だってぇ……アイナママのパンに、なれちゃってるから~」

「そうね、ちょっと堅くていまいちよね」


 ホントは【ちょっと】どころじゃないけど~

 このパンは、ダンジョンの宿屋さんで用意してもらったパンなんだ。

 ついでにいえば、お水がわりのうすめたワインもいまいち。

 こうしてダンジョンの中で、手に入るだけマシなのかもだけど~


(う~ん【異空収納インベントリ】の魔法を、アイナママの前でも使えるといいんだけど)

(そうすれば、おうちで作ったアイナママのおいしいお料理が……)

(作ったときの温かいままの状態で、ダンジョンでも食べられるんだけどなぁ)


 とはいえ【収納の魔法】は勇者魔法にしかないから、

 それを知ってるアイナママには、判っちゃうかもしれない。

 それに、いわゆる【収納のマジックアイテム】もあるにはあるけど……

 かなりレアでお高いみたいだし?


(でも、このあともお泊りのダンジョン攻略があるなら……なんとかしたいなぁ)


 と、ぼくがそんなことを考えていると──


「こほん、クリス?」

「ん、なぁに? アイナママ」

「あなたが、その……がっかりするかもしれないので……」

「今のうちに話しておこうと思うのですが」

「ぼくががっかり?」

「今夜からしばらく……【レッスン】はお休みにしましょう」

「がっかり……」

「も、もう……クリスったら、そんな悲しいお顔しないで?」

「でもぉ」

「し、仕方がないでしょう? その……」

「あ……(察し)」

「うん、わかったよアイナママ」

「残念だけど、またしばらくしたら……いいんだよね?」

「え、ええ……そうですよ♡」

「えへへ、じゃあぼく、まってるね♪」

「うふふ、クリスったら」


 うん、月にいちどの【あの日】みたいだから、しかたないよね?

 でも、このところ毎日【レッスン】してたから、正直ざんねん。


「で、ですが……その、クリスが望むなら……」

「え?」

「すっきりするお手伝いなら……そのぉ」

「あ、アイナママ♡」

「もう……そんな可愛い笑顔しちゃって♡」

「えへへ♪」

「でも、ほんとうは……ダメなのよ?」

「ああいう……赤ちゃんができないやりかたは」

「はぁい♡」


 うん、そうなんだ。

 この世界の【レッスン】って……

 ホントに【子作りのため】でしかないんだ。


(だから、最初からローションとか使うはずだよねぇ)

(さすがに3日めで気づいて……)

(ぼくにも【ローションを使わなくて済む準備】をさせてもらったけど)

(アイナママ、びっくりしてたなぁ♡)


 そしてぼくは……頼りになる【万物真理ステータス】さんに聞いたんだ。

 そうしたら、わかったことはこんな感じ。


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 この世界における一般的な性文化

 出典:万物真理事典『ステペディア(stapedia)』


 地球における中世ヨーロッパの【十字教】の様な、

 『子作り以外の性行為は罪』的な意識はほとんど無く、

 むしろ比較的おおらかな性文化といえる。


 とはいえ大義名分なき不倫や浮気は、露見すれば社会的地位を失い、

 同意なき強姦などは立派な犯罪行為となる。


 基本的に性に関する情報に乏しく、その伝承手段はほぼ【実地】に限る。

 故に【性行為=子作り】であり、避妊も『女性の体内に出さない』程度のみ。

 現代日本における【保健体育の性教育レベル】の知識があるに過ぎない。


 故に【入念な準備をする】という概念が薄く、いきなり行為に及ぶ場合が多い。

 その為、女性が【植物油】や、【デンプン粉】を水で溶き加熱したものを、

 【潤滑剤】として使用するケースが一般的とされる。


 【性行為=子作り】である為、それ以外で【男性を導く】行為は

 単なる【無駄撃ち】であり、原則的に【無意味な行為】と考えられている。


 また男性も【女性を導く】という概念が薄い為、

 せいぜい時間を掛けた行為で、女性の高揚を長く持続させることが

 【男性の甲斐性】とされている模様。


 以上のことから農村などでは、経験豊富な人妻や未亡人などが、

 一人前になった男性に、手ほどきをする習わしがある地域も多く存在する。

 ひいては子作りの重要性を鑑みた、村ぐるみの対策の一環とも考えられる。

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 うん、この世界には動画もなければ、本すらほとんどないからね……

 だからみんな【知らなくて当然】なんだ。


(そりゃぁ【てほどき】の文化ができるはずだよねぇ)


 だけど、ぼくには【前世の記憶】がある。

 そしてその、わりとたくさん見てた【動画の資料】のおかげで……


(アイナママは【レッスン】でローションがいらなくなったんだ♡)

(あ、でもおハダのケア用の、ハチミツ入りのは今も使ってくれてるけど♪)


 そんなワケで……

 ぼくとしてはまだまだい~~~っぱい、お勉強したいので、

 ぜひアイナママには【レッスン】をつづけてほしい♪


「もう、仕方ないコなんだから♡」

「えへへ♡ アイナママ、だいすき♡」

「ええ、ママもクリスが大好きよ♪ ちゅっ♡」


 アイナママが、またほっぺにキスをしてくれる♡

 けれどそのキスはかぎりなく……

 おくちに近いところなのでした♡


 ◇◆◆◇


 1時間後──冒険者ギルド


「ふむ……4組、ですか」

「ああ、正直もっといるかと思ってたんだがね」

「そうですね……レニーさん達の噂を聞きつけて、怖気づいたんでしょうか?」

「いや、アマーリエ……そうでもないんだよ」

「と、いいますと?」

「アイナ様たちの件は、あいつらの中で結構なウワサになっててね」

「というのも、すでにそれなりの前金がばらまかれてるらしいんだよ」

「なんと、そこまで太い客筋でしたか……」

「なりふり構わずって感じだねぇ」

「おかげであたしらが相手をした4つのチンピラ供すべてが……」

「問答無用で斬りかかってきたからね」


 ギシっ


「他のパーティーの方々はご無事で?」

「もちろん全員、傷ひとつないさ」

「あの程度のチンピラに遅れを取るようじゃ、ウチじゃやっていけないからね」

「さすがはわが支部のトップパーティですね♪」

「よしとくれ、アイナ様が現役に戻ってるんだ」

「それにアイナ様を抜きにしても、ソロのアイツがいるじゃないか?」

「まぁ……謙虚ですこと♪」

「そうでなきゃこの業界……長生きなんてできないね」

「というか、今は【闇ギルド】の連中の話だろう?」

「うふふ、そうでしたね」

「それにしても……レニーさん達相手に斬りかかるとは……」

「だいぶ士気が上がっているようですね」

「ああ、失礼……チンピラに【士】も何もありませんね」

「ははっ もっともだw」


 カタっ


「とはいえ……依頼主は相当に焦れてるらしくてねぇ」

「闇ギルド秘蔵の【腕利き】を動かすんじゃないかって、もっぱらの噂だよ」

「そいつらの前になんとか自分たちで……ってチンピラ達まで焦ってる始末さ」

「なるほど……要注意ですね」

「それで、アイナ様とクリスはどうしてるんだい?」

「確か今、こっちに来てるんだろう?」

「ああ、アイナ様たちなら今日は──」


 ドカンっ!!


「なっ!?」

「ま、まさか……」

「冒険者ギルドに──直接!?」


『聞かせてもらおう……』

『【聖女】はどこにいる!?』

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