第36話 はじめてのダンジョン攻略♪

「えっ!? ダンジョン!!」

「ええ、クリスくんももうレベル7ですからね」

「たとえ単独だとしても、挑戦が可能と判断しました♪」

「やった♪」


 あいかわらず、ホントのレベルは63のままだけど……

 【万物真理ステータス】に、転生後の討伐した魔物を記録させてるから、

 その経験値の合計で計算してもらったら【レベル7相当】になってたんだ♪


「いくらアイナさんがいらっしゃるとはいえ……この速さは異例ですよ!」

「しかもアイナさんの魔法は4等級縛り、そしてほぼ魔物は倒していないとの事」

「さすがはクリスくん♪ 我がケストレル支部期待のホープ!【かわいい英雄】♡」

「ちょっ!?」


 それっ!

 ホントにぼくの【二つ名】なのぉ!?


「そして聞いていますよ? 先日、二人組のパーティーを助けたそうですね」

「あー、聞いちゃいました? えへへ♪」

「それはもう……鮮やかな剣筋で、あっという間に魔物たちを斬り捨てた!と」

「ギルドとしてもクリスくんには、非常に高い評価をしていますよ♪」

「そうなんですか? いやぁ~♪」

「そして私からも個人的に、【アマーリエポイント】を90点あげちゃいます♪」

「えと? それは集めると?」

「100点集めたら、私をお嫁さんにできます♡」

「わー、あと10点だー(棒)」

「うふふ♪ 頑張って集めてくださいね?」

「が、がんばります?」


 あ、アマーリエさーん、気づいてー

 アイナママの笑顔のほっぺが、ぴくぴくしてるからー


「えと……それで【ダンジョン】ですけど?」

「あら、失礼……話がそれましたね、てへ☆」

「クリスくんに攻略をお勧めするダンジョンは……」

「この街の西にある【タフクの塔】と、それに通じる地下洞窟です」

「タフクの塔……って、この街からも見える、あの?」

「ええ、あの湖の小島に建つ塔は……現在は魔物の巣になっています」

「えっ」


 な、なんで……そんな街に近いところ──


「あ、今『なぜ街に近い所なのに、放置しているの?』と思いましたね?」

「そのとおりです!?」

「ええ……【ダンジョン】は本来【忌避すべき魔物の巣】なのですが……」

「ですよね?」

「ですが、冒険者にとっては【良質な狩り場】であり」

「また近隣の村や街にとっては、冒険者を集め、お金を落とさせるという……」

「一種の【産業資源】とも言えるわけでして」

「さんぎょうしげん」

「故にあえて放置する場合も多く、ダンジョンを中心とした街もある程なんです」

「あえてほうち」

「もちろん国やご領主様としては、表立って推奨こそされておりませんが……」

「産業、及び雇用にも繋がる事案であるため、【定期的な魔物討伐】と」

「【その拡大を阻止】する事を前提に、黙認しているのが現状なんです」

「なんと」

「じっさい【タフクの塔】の魔物は【初心者】でもなんとかなるレベルですし」

「それでいて魔物の出現率は、野外とは段違いですので……」

「腕を磨くのには丁度いい【狩場】なんですよ」

「あー」


 アイナママをちらりと見れば……

 おすまし顔でこっくりと、うなずいているから、そういうものみたい。


「しかも、ダンジョンの魔物は【ドロップアイテム】の確率も高く」

「そのダンジョン内に設置された【宝箱】には……」

「なぜか定期的に、お金やアイテムが入ってるんです」

「ふしぎ」

「とある学者による『ダンジョンが冒険者を誘う為』なんて主張もありまして」

「ダンジョンが、さそう」

「ともあれその危険度を差し引いても、ギルドとしては利益の方が大きいんです」

「故に当ギルドといたしましては、あのダンジョンで腕を磨き、踏破することで」

「6等級──いわゆる【初心者】の壁を乗り越えていただく事を推奨しています」

「なるほどー」


 じっさいダンジョンでコツコツとレベルを上げて……

 そしてお金もためて、装備を整えるのは基本中の基本だし?

 けど、そのために魔物の巣を【あえて放置】かぁ……


(ゲームとかだと気にしなかったけど……)

(街の近くにダンジョンがあるって、そういうことなんだなぁ)


 ケストレルの街はそもそも大きいから、産業にはしてないだろうけど。


「そもそもあの塔は、かつて魔王軍の侵略に備えるための……」

「この大陸に4つある、塔型要塞のひとつだったんです」

「とうがたようさい」

「800年ほど前に【大賢者】様の指示で建てられまして……」

「当時はあの塔の最上階に、とても強力な【魔導砲】があったそうですよ?」

「まどうほう!?」

「もちろん現在は撤去されて、塔自身も役目を終えていたんですが……」

「ですが?」

「地下洞窟ごと封鎖していたのが仇になり、魔物が住み着くようになりまして~」

「気づけばダンジョン化していた……というのが実情ですね」

「おぅふ」

「ですから現在はその塔に通じる地下洞窟ごと、ダンジョンに指定されています」


 ◇◆◆◇


 そんなわけでぼくたちは、【タフクの塔】のそばまでやってきたんだけど……


「うわぁ、【入場料】とるんだ?」

「ええ、けれど料金は安いから、どちらかというと……」

「冒険者以外の人たちが、入り込まないようにする配慮、かしら?」

「なるほどー」


 入り口に人をおいてみはるだけでも、お金はかかるし?

 あとは……どういう人が入ったか、チェックする機能もあるのかも?


(とはいえ、中に入ったパーティーが帰ってこない……)

(なんて事になっても、捜索とかはしないんだろうなぁ)


 冒険者はあくまで【自己責任】。

 たとえダンジョンで死んじゃっても、それは死んじゃった自分が悪い。


「さて……クリス?」

「なぁに? アイナママ」

「じゃあここで、野外とダンジョンの違いを……ママに教えて?」

「あ、はい」


 アイナママはこうしてときどき、ぼくに質問をするんだ。

 それは冒険者として知らなきゃいけないこと。

 だから、その確認をしてくれるんだ♪


「ええと……まず、ダンジョンに入るには、5人以下のパーティーであること」

「それはなぜかしら?」

「それより多い人数だと、魔物がたくさん集まってきちゃうから」

「正解よ♪ クリス」

「冒険者がたくさん集まっていると、魔物もそれに対抗して集まってしまうの」

「そして群れをなして、いっせいに襲いかかってくる……」

「それを【スタンピート】といって、大規模になれば【災害】として扱われるわ」

「こわいよねぇ」

「そして集まった魔物から逃げ出すと、追いかける魔物を誘導することになるの」

「魔物が列をなす様子から【トレイン】と呼ばれるそれを引き起こすことは……」

「冒険者として、とても【罪深い行為】で、罰せられる対象になるわ」

「トレインだめ、ぜったい!」


 【トレイン】っていっても【列車】じゃなくて【長い行列】って意味だけどね♪


「ええ、それから他にあるかしら?」

「えと、中はくらいから……たいまつか【照明】の魔法がいります」

「そうね、ただそれは地下にあるダンジョンに限ったお話で……」

「今回のような【塔】の場合は、お日様の明かりが入るから必要ありません」

「そうなんだ~」


 たいまつは安いけど、その明るくなる範囲が狭いから、魔法のほうが有利だ。

 それに【照明】の魔法は【ランタン】みたいに周囲を照らしたり……


(その光を集めて【サーチライト】みたいな使いかたもできるからね♪)


 ちなみに【照明】の魔法は神官なら、初心者でも覚えてる。

 だから今回はアイナママが使ってもOKです♪


「あとは……マッピングが必要だよね?」

「そうね、別名【迷宮】と呼ばれるのがダンジョンです」

「正確な地図こそ、パーティーの生命綱となります」

「地図は、買えたりしないの?」

「少なくてもこの国では、ダンジョンの地図を売買したり譲渡したりすることは」

「犯罪行為として、固く禁じられているの」

「そうなんだ?」

「それを元に、低レベルの冒険者が無茶をすることがあるのよ……」

「それはあぶない」

「ええ、だから自力で地図を描き、踏破するまでがダンジョン攻略なの」

「ですよねー」

「そして……地図制作は主に神官のお仕事」

「だから、ママにまかせて♪」

「たよりにしてますぅ♡」


 とはいえきっとアイナママのこと。

 ぼくが通らなかったり、気がつかなかったところは、描いてくれないと思う。


(それもぼくのためなんだけどね~)


 そんな確認をしてからぼくたちは……

 いりぐちでお金をはらって、ダンジョンに挑戦したんだ♪


 ◇◆◆◇


「てやっ!」

「キュキー!?」


 【ミラージュモス】をまっぷたつにすると同時に、ぼくは後ろに飛びのける。

 そしてその身体から毒の粉が、もわっ っと、まいあがり……

 しばらくして本体といっしょにぱぁっと光ると、その姿を魔石に変えた。


「ふぅ……また【毒】の魔物だよぉ」

「あら、クリスは返り血や毒の粉を避けるのが上達しましたね」

「そ、そう? えへへ♪」

「でもママ、お仕事が減って寂しい……」

「ちょっ!?」

「うふふ、冗談よ♪」

「もぉぉ!?」


 そう……この【タフクの塔】は、【毒】の魔物の巣窟だったんだ……

 この前の【毒の沼地】にいた魔物に加えて、さっきの【ミラージュモス】、

 そして毒針で刺してくる【ポイズンビー】がセットで組んできて……


「うぅ【ポイズンビー】はめちゃくちゃ仲間をよんで増えるし……」

「【ミラージュモス】の毒粉を浴びると、幻覚を見せられるし!?」


 その【幻覚】状態になると、その姿が定まらなくなって……

 目で見える魔物を斬っても、それが幻覚である場合が多くなる。


(火の魔法で一気に焼いちゃえばいいんだけど……)


 ぼくが使えるのは【土魔法】の礫弾、【ケースショット】だけ。

 ダメージは弱めだし、むしろ毒粉がいっぱいひろがる。

 なのでぶっちゃけ相性があんまりよくない。


(だから、うかつに毒粉をあびると……)


 ただでさえ攻撃があたらないのに、ポイズンビーがどんどん増える。

 そうなったらもう、HPは少ない魔物だから……

 アイナママが【ホーリーブレス】で一気に討伐しちゃう。


(でもそれってぼく的には負け、だよねぇ)

(やっぱり剣のスキルだけじゃ、この先きびしいのかなぁ?)


 ◇◆◆◇


 と、そんなこんなで討伐は、ビミョーに進まない感じ?

 とはいえこのダンジョンでの目的は、あくまでコツコツとレベルを上げること。

 だから、今日は村に帰らず泊まる予定だったんだけど──


「な、なんでダンジョンに【宿屋】があるの!?」

「いらっしゃい、そんなの冒険者を泊めるために決まってるだろう?」

「で、泊まるのかい?」


 そんなおじさんは慣れてるのか、さらっと聞きかえしてきた。


「ええ、2人で……暖炉の近くをお願いします」

「あいよ、食事はどうする?」

「それも2人分お願いしますね」

「わかった、じゃあすぐ持ってくよ」

「そうだな……じゃあ暖炉の右脇に陣取ってくれ」

「判りました、お世話になりますね」

「お、おせわになります?」


 アイナママはここを知ってたらしく、てきぱきとお願いをしてお金をはらう。

 そしてふたりで暖炉のそばにすわった。


「ここはね、場所がら新人冒険者が多いでしょう?」

「だからその救済で、聖防壁を張って宿屋を置いているのよ」

「な、なるほど」

「うふふ、驚いた?」

「とっても」


 ぼくたちのほかにも、4組くらいのパーティーがいて……

 みんな固まって、床にざこ寝をしてた。

 そんな中でも、暖炉にちかいぼくたちの場所は特等席(?)。

 だから他の人たちよりお高いみたい。


(そっか、レニーさんのいってた【ふつうの宿屋】って、こんな感じなんだ~)


 前にレニーさんの泊まってる宿に泊めてもらったけど、

 あんな個室でベッドがある宿屋は、超高級なんだって。

 だからふつうの宿屋はこんなふうに、大部屋でざこ寝するんだ。


(レニーさんたち、あの街のトップパーティーのひとつだもんねぇ)

(それにしても……)


 まわりの冒険者のひとたちもみんな若くて……

 そしてお疲れみたいで、ぐっすり寝てる。


(こうして泊まりこみで、がんばってるんだなぁ)


 そして僕たちも、今日はお泊まり♪

 てっきり街までもどるのかと思ってたけど……


「えへへ、ダンジョンの中でお泊りなんて、なんだかわくわくする♪」

「うふふ、いい経験になったわね♪」

「うんっ ありがとう、アイナママ♪」

「ええ、そのかわり……【レッスン】はお預けですけどね」

「わ、忘れてたぁ!?」

「まぁ……クリスったら♪」

「えへへ♪」


 なんて小声で話すぼくたち。

 みんな寝てるから、お静かにね♪


(けど……アイナママのおかげで、MPもすごく増えたし♪)

(もしかしたら【勇者魔法】が使えるようになるかも?)


 あれからアイナママとの【レッスン】で……

 ぼくのMPマジックポイントは順調に増えてるんだ♪

 ちなみに増えるのは、1日あたり8~12くらい。

 1日の【回数】が多いほうが、MPも多く増えるみたい♡


(だからぼくの今のMPは【251】)

(だいたいレベル20台中ほどの、魔法使いくらい?)

(えへへ~、アイナママと【レッスン】できて……)

(そのうえMPまで増えるなんて、しあわせすぎるなぁ♡)


 とはいえ……今日はそれもおあずけ。

 そして運ばれてきた黒パンは堅いし、スープは具が少ないし……

 ワインはあいかわらず【ナゾの色付き水】だし?

 だけど……


「アイナママ、おやすみなさい」

「ええ、おやすみなさい……クリス、ちゅっ♡」

「えへへ♪ アイナママにも、ちゅっ♡」


 アイナママとひとつの毛布にくるまって……

 暖炉の火に照らされながら、抱きあって眠るぼくたち。

 たまにはそんな夜も……とっても楽しかったんだ♡

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