第34話 アイナママの、ひみつのサイン♡

「たぁっ!」

「ゲコ──っ!?」

「やたっ──うわっぷ!?」


 そのやたらに大きなカエルを、まっぷたつにしたその時、

 大量の返り血が、ぼくの身体に飛んできた!?

 しかもこのカエルはいわゆる【ドクオオガエル】で……

 もちろんその血にも、たっぷりと【毒】が含まれているんだ。


「あ、アイナママぁ」

「あらあら……【スケルチブラッド】」


 ぱぁぁ……


 アイナママが杖をかかげて呪文をとなえると、

 暖かな光がぼくにふりそそぎ、そのチリチリ刺すような毒の刺激がなくなった。


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【スケルチブラッド】

 種別:神聖魔法

 状況:常時

 対象:術者、対象者

 効果:神々の神聖な祝福を受けることで、

    対象者が身体に受けた毒を浄化して無効にする魔法。

    ただしその効果は解毒作用のみで、体力の劣化や外傷などは回復しない。

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 もちろんこのまま放置すれば、身体に毒が回って【毒】状態になって、

 立っているだけでどんどんHPが削られ……そして死に至る。

 そしてぼくがいるこの場所は……

 そんな【毒】の属性をもった魔物ばかりの【毒の沼地】だったんだ。


「もう……クリス? 油断しちゃダメってあれほどいったのに」

「うぅ、でもあんなの、どうやってよければ……」

「さぁ? ママなら神聖魔法で討伐するから、わからないわ」

「そんなー」

「でもクリスは、剣で討伐したいのでしょう?」

「うぅ、はい……」


 とまぁ、アイナママはけっこうスパルタで……

 神聖魔法以外のことは『専門外』って感じでほとんど教えてくれない。


(でもアイナママ、やっぱり今日はゴキゲンだよねぇ)


 そもそも……ぼくがいましてるのは【毒の沼地の浄化】なんだ。

 ここは例によって【特定魔物発生地域】で【毒】を持つ魔物でいっぱい。

 そして長いこと、誰も手を付けないという【塩漬け依頼】でもあるんだ。


(だから挑戦してみたけど……これは確かにやっかいかもぉ)


 まず……毒の沼地に入るだけでダメージを受ける。

 これは【イノキュアス】という魔法で、ダメージそのものは防げるんだけど……

 そもそもドロドロになるし、足はとられるし、

 深い所は底なし沼みたいになってるしと、とっても近寄りたくない感じ?


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【イノキュアス】

 種別:神聖魔法

 状況:常時

 対象:術者、対象者

 効果:神々の神聖な祝福を受けることで、

    その地帯の毒の影響を受けなくする魔法。

    一定の時間経過で効果は消失する。

    ただし魔物などから直に受ける毒には効果がない。

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(しかも、そこにいる魔物から受ける毒は、【イノキュアス】じゃ防げないし~)


 もちろん、アイナママが本気でこの沼を【浄化】したら、

 呪文1発で終わっちゃうだろうけど……それじゃぼくがいる意味がないし?


(だから……アイナママと約束したんだ)

(ぼくと依頼を受けるときは【英雄級】じゃないことにするって)


 アイナママはレベル56の1等級、いわゆる【英雄級】の冒険者だ。

 だからそれを、レベル20台の4等級──

 【一人前】くらいの冒険者ということになってもらったんだ。


(もちろん、いざというときはそんなの関係ないけど……)

(でもアイナママ、今日はうれしそう)


 そうしてアイナママはひとしきりぼくにお説教をして、

 ぼくが反省すると……


「よろしい、では【サンクティファイ】♪」


 ぱぁぁ……


 この前のアイスゴーストの時は、ほんとにただ見てるだけだったけど……

 今回は【イノキュアス】や【スケルチブラッド】とかをいっぱい使ってくれる。

 それに、解毒されたっていっても、ドロドロなのには変わりないわけで……

 そのたびアイナママは、うれしそうな困り顔で【清浄】の魔法をかけれくれる。


-------------------------------------

【サンクティファイ】

 種別:神聖魔法

 状況:常時

 対象:術者、対象者

 効果:神々の神聖な祝福を受けることで、

    対象物の汚れを清浄することができる魔法。

    厳密には汚れていない状態に【戻す】という遡行を行っている。

    故に軽微な損傷等なら、その修復も行ってしまう効果がある。

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(アイナママがこの呪文をとなえると……)

(まるでおろしたてみたいにきれいになるなぁ)


 とはいえここにいる魔物は、さっきの【ドクオオガエル】に……

 毒をもつスライムの【ポイズンスライム】。

 そして毒の粉をふりかけてくる【アルキドクキノコ】とか……

 どれもこれも汚れやすい魔物ばっかり!?


(うぅ、アイナママはきれい好きで……)

(おそうじやおせんたくが大好きだからなぁ)

(けどぼくの肌着とかのにおいをチェックするのは、やめてほしいというか……)

(アイナママ、ぼくの身体のにおいもくんくんするし~っ)


 そんなわけで……

 今日のアイナママはお仕事がいっぱいあってうれしそう?


(ともかく、まずはぼくが魔物をへらして……)

(そのあとで沼を浄化してもらわないと!)


 レベル20台のパーティーなら、そうするんだって、

 アマーリエさんが教えてくれたんだ。


(まぁ? ぼくには【万物真理ステータス】のレーダーがあるから)

(ええと……あと40体くらいかぁ)


 数は多いけど、終りが見えてればそれほどつらくない。

 それに居場所もわかってるし……ね♪


(ホント、パーフェクトだよ【万物真理ステータス】さん♪)


 パッ!

-------------------------------------


 感謝の極み。


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(お返事までできるの!?)


 そんな【万物真理ステータス】さんにビックリスつつもぼくは、

 コツコツと魔物を討伐しつづけて……

 なんとか依頼を達成できたのでした♪


 ◇◆◆◇


「あら、ママにクリス、おかえりー」

「ただいま、レイナ」

「レイナちゃん、ただいま♪」


 ぼくたちが依頼を終えて帰ってきたのは夕方ころ。

 お日さまが沈む前に村に戻ってこないと、夜の道はあぶないからね。


(だから、ぼくが依頼を受けられるのは……)


 日の出と同時に村を出るのが、朝の5時くらい。

 そして街に到着するのがだいたい8時まえ。

 帰りは、17時ころに着きたいから、14時前には街を出ないといけない。


(だから……依頼で使えるのはだいたい8時間くらい)

(そう考えると、おしごととしてはふつうっぽい?)


 とはいえ……

 ほぼ1日かかっちゃうわけだから、おうちのことはほとんどできない。

 だから家事をやってくれるレイナちゃんには、ホント感謝してるんだ♪


「じゃあこれ、レイナちゃんにおみやげ♪」

「わっ かわいいブーツ♡」

「ナカは毛皮でふかふか~♪」

「えへへ、レイナちゃんににあうと思って♪」

「これから寒くなるから、ぜひ使ってね?」

「あ、ありがと、クリスぅ……ちゅっ♡」

「わっ」


 そういうと、レイナちゃんがぼくのほっぺにキスしてくれた。

 小さいころはよくしてくれたけど……

 レイナちゃんのキス、なんだかひさしぶり。


「い、今のは……【家族のキス】なんだからね?」

「べつにクリスのことが大好きとか、そういうんじゃないんだからっ」

「レイナちゃん……それでもぼく、うれしいよ♡」

「な、なによそのっ ステキなえがおはぁぁっ!?」


 とにかく、喜んでもらってよかった♪

 なんて、ぼくがニコニコしていると……


 コトリ


 アイナママが、食器だなの高い所に……ちいさな赤いツボをおく。

 それは──

 アイナママとその晩【レッスン】するってサイン♡


(やった♪)

(って、ホントはちょっと期待してたけど……えへへ♡)


 アイナママが【レッスン】してくれる日は、

 もちろんアイナママが体調のいいときだけ、ってことになってる。

 だから具合の悪い日はダメだし……


(あと【女のコの日】もダメだよねぇ)


 それから……いわゆる【赤ちゃんのできる日】もダメなんだ。

 ちなみにそういうのは、この世界の女の人は【体感】でわかるみたい。


(すごいなぁ)


 だからそれ以外の日には、アイナママがああやってツボをおいてくれる。

 そしたらその晩は、アイナママのお部屋にいくんだ♡

 もちろん、いままでぼくが行かなかった日なんてないけどね♪


(そしてその中身は……【ローション】なんだよね♡)


 作り方はカンタン♡

 まず小麦粉をお水でよく練って、パン生地っぽいのをつくります。

 そしたらそれを、お水の中でよーく洗います。

 そうすると生地がお水にとけて、白くにごってきます。

 最後には、ガムみたいなカタマリが残ります。

 これがいわゆる【グルテン】で、小麦粉の中にあるタンパク質。

 ちなみにこれを乾かすと【お麩】になるんだ♪


(そして使うのは……このお水に溶けたほうの粉♪)


 しばらくそっと置いておいて、下の方に溜まってきたのを集めます。

 これが、小麦粉の【てんぷん】なんだ。

 そしてこのでんぷんをちょっとのお水でといて、かき混ぜながら火にかけると~


(トロリととろみの付いた、お手製ローションのできあがり♪)

(けど、あんまし長持ちしないから、早めに使いきっちゃいましょう)


 そんなふうに、ぼくがニコニコしながらそれを見ていたら──


「ねぇ、ママ?」

「なぁに? レイナ」

「あの赤いツボ、さいきんよく見るけど、なんなの?」

(ぎくっ!?)


 レイナちゃんに気づかれちゃった!?

 あぁっ ぼくのバカバカっ!?


「ああ……これ?」

(あ、アイナママっ!?)


 ところがアイナママは、そのツボを手にとって、

 レイナちゃんに中身を見せちゃった!?


「これはね……小麦粉で作った、お化粧の道具なの」

「おけしょう?」

「ええ、これをお肌に塗るとね……とってもしっとりするのよ」

「おハダしっとり」

「最近、クリスと依頼に行くことが増えたでしょう?」

「お日様でお肌が焼けちゃうから、そのお手入れに……ね?」

「へー、そうなんだ~」


 さすがアイナママ!

 レイナちゃんを、あっけなくなっとくさせちゃった♪


「でも、わたしはそんなのいらないかなー」

「だってわたしのおハダ、いっつもツルツルだもん♪」

「ぐふっ!? そ、そうね……レイナはまだ、いらないわね……」

(あぁ!? アイナママがなんだかダメージを受けてる!?)


 ◇◆◆◇


(なーんてことが、この前あったから……)


 コンコン♪


 レイナちゃんがおやすみした頃、

 ぼくはアイナママのお部屋のドアを軽くノックして……


「アイナママ……きたよ」

「いらっしゃい、クリス♡」


 アイナママはもうベッドの中……

 薄い毛布で身体を覆いながら、ゆっくりと起きあがる。


「あら、その手に持っているのはなぁに?」

「えへへ……今日のお礼に、アイナママにもプレゼント♪」

「まぁ、なにかしら? あら……ハチミツ?」

「うんっ いろんな花から作ったのをいくつか買ってきたから」

「うふふ、クリス……ありがとう♡」

「えへへ~、でね?」

「その中で、いちばん【おいしくないの】を選んでほしいんだ」

「まぁ……どうして?」

「うん、おいしいのはもちろん、お料理とかお菓子に使ってもらって……」

「そうじゃないのは、ローションに使って?」

「ローションに?」

「うんっ ローションにハチミツを混ぜると……」

「とってもおハダがきれいになるんだって♪」

「ぼく……アイナママにずっときれいでいて欲しいから♡」

「まぁ、クリス♡ ママ……とっても嬉しいわ♡」

「わぷっ♡」


 アイナママの身体から毛布が落ちて……

 ビキニに包まれたおっぱいに、ぼくのお顔が押し付けられる♡


(あぁ……アイナママ、いいにおい♡)


 そして今日のレッスンからは……

 ハチミツのニオイがするようになったのでした♪

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