第31話 とても大切な、お勉強♡

「──とまぁ、散々暴れまくった大イノシシ!」

「さすがに暴れ疲れたのか、そのまま広場に居座っちまった!」

「俺らが遠巻きに取り囲んでも、ちっとも逃げだしゃしねぇときた!?」


 なんて感じで村のお兄さんが、あの場にいなかった人たちにお話をしてる。

 それはもちろん、この前の大イノシシのこと。

 そして今日は……みんなが待ちに待った【収穫祭】の日だった♪


「と……そこへやってきたのが、我らがクリスだ!」

「しかも片手に剣を持っての登場だ!?」

『オイオイオイ』

『死ぬぞアイツ』

『たいしたものですね』

「なーんて村の連中は大騒ぎだ!?」

「だが!そんな連中も次第に黙っちまう」

「なぜかというと……そのクリスをじっと見守る、聖女様のお姿を見たからだ!」

「俺らはすぐに判っちまったね!」

「聖女様の、その不安に勝る【信頼】ってヤツが!」

「キャーっ さすが聖女さま!」

「なんでもいいけどよォ」

「相手はあの大イノシシだろ?」

「ああ、そのキモチは俺にもよーくわかる!」

「なにせ相手は、その背丈だけでも俺と同じくらいあるデカブツだ!」

「そしてクリスは、お嬢ちゃんと間違えちまうくらいに華奢でちんまい!」


 なんですと?


「ああ、こりゃあいくらなんでも……俺もそう思ったさ!」

「だがな? クリスは何度か剣を『ヒュン』っと振ったあと……」

『こいっ!』

「っと、大イノシシを焚き付けた!」

「きゃぁ♪ クリスくん、カッコいいっ♡」


 えへへ♪


「とまぁ、そんなクリスにイノシシはお怒りだ!」

「ブギィィ! っと声をあげて、クリスめがけて突っ込んできやがった!?」

「クリスくぅん! よけてぇ!?」

「ああ、俺らもそう叫びかけて……そこで驚いた!」

「なぜかというと……クリスが背中を向けて逃げ出したからだ!?」

「おっと! ガッカリするのは気が早い!!」

「なんとクリスは、そのまま近くの家に向かって駆け出して……」

「カベにぶつかる! 誰もがそう思ったその時!」

「たんっ!と飛び上がって……」

「そのままカベに……トトーンっと、横向きに着地しちまった!」

「すげぇ!?」


 そ、それほどでもぉ……えへへ♪


「そしてそのまましゃがみ込んじまったっと思ったら……」

「そこから……ビョーンと!」

「まるで弓から放たれた矢みたいに イノシシめがけて飛び出したんだ!?」

「なんじゃそりゃ!?」

「マジかよ!?」

「マジのマジ! 大マジよ!」

「そしてその構えた剣が、吸い込まれるみたいにイノシシの脳天に……ズブリ!」

「クリスはその勢いのまま、宙でクルリとトンボを切って……」

「スタっ! っと、イノシシの後ろに降り立った!」

「か、カッコいぃぃっ♡」

「クリスくんっ ステキぃぃ♡」


 えへへ~♪


「そしたらもう……さすがの大イノシシも、ひとたまりもねぇ」

「そのまま横に、ズシーン!と、地響きを立ててぶっ倒れちまったんだ!!」

「すげぇぇぇっ!?」

「キャー♡ クリスくん抱いてぇぇ♡」

「あぁっ シビれちゃうぅぅん♡」


 とまぁ……これでこのお話ももう3回め。

 話してるお兄さんもだいぶ慣れてきて、どんどん語りがなめらかになってるし。


(うぅ でも、本人の目の前でそれをやるのはどうかと思う~)


 おかげでぼくのまわりには、目をキラキラさせた女の人でいっぱい。

 もちろんぼくの左の席はレイナちゃんで、そこは絶対にゆずらないみたい。


「さっすがクリスくん♡ アタシたちにできないコトを、平然とやってのける♡」

「そこにシビれる♡ あこがれるぅ♡」

「けが人も全員、聖女様が癒やしてくれて無事だし♪」

「ついでにイノシシ肉が手に入ったから、ブタも買わずに済んじまったし!」

「ホント……聖女さまとクリスくん、さまさまよね~♡」

「いやいや! 俺もクリスはいつかやるオトコだと思ったね!」

「さすがは魔女様の息子! そして聖女様、騎士様の愛弟子!」

「い、いやぁ……えへへ♪」


 もう、そんなかんじでお祭りが始まってからというもの……

 村の人たちからホメられちゃって……えへへ♪

 そ、それに……


「ね? クリスくぅん♡ お姉さん、クリスくんのこと見直しちゃったぁ♪」

「えへへ、そぉですか?」

「あン! ワタシだって……クリスくん、前からカワイイ♡って、思ってたし~」

「ちょっとぉ! あたしだって前から目、つけてたんだからね?」

「そんなの関係ありません~ ね? クリスくん♡ アタシの方がイイわよねぇ」

「ええと~」


 もう、そんなかんじで、村のお姉さんたちからも、すっごくモテちゃって……

 えへへ♡


「ちょっとぉ! お姉さんたち!」

「クリスは……その、わたしの家族なんだからね!?」

「あン、レイナちゃん……ちょっとだけ! ね?」

「そうそう♪ お祭りのあいだだけ、お姉さんに貸してぇ?」

「だ、ダメに決まってるでしょ! がるるるっ」

「れ、レイナちゃん……あはは」


 そんなこんなで……ぼくの周りは村の人たちでずうっといっぱい。

 そしてテーブルの上にも、すっごいごちそう♪

 みんなで、食べろ食べろって持ってきてくれるんだ♪


(えへへ、みんなの役に立ててよかった♪)

(それもこれも……ぼくを育ててくれた、アイナママたちのおかげ♪)


 そう、たくさんの人たちにホメられて、すごく嬉しかったけど……


(でも、いちばん嬉しいのは……♡)


 ぼくのお向かいの席にすわって……

 そんなぼくを誇らしげな笑顔で見つめてくれる、アイナママ♡

 その笑顔がいちばんきれいで……ぼくはなによりもうれしかったんだ♪


 ◇◆◆◇


「聖女様……本日は誠に有難く存じます」

「いえ村長さん、頭をお上げください」

「わたしはただ、村の神官として役目を果たしただけですので」

「もったいないお言葉……痛み入ります」

「それで……わたしに折り入ってのご相談、とは?」

「は、はい……実は──」


 村の【収穫祭】の行事もひとしきり終わり……

 村人たちが、かがり火の【清めの火】を各家庭に持ち帰ったその頃。

 わたしの所に、村長さんがやってきました。


「クリス君に関わることでして……」

「クリスの?」

「村では、その……収穫祭を控えた、狩りの成果によって」

「年少組の若者たちを、一人前として認める……という習わしがございます」

「それは、承知しています……それで?」

「はい、そして認められたその若者たちは……祭りの晩、つまり今夜」

「村の女衆たちから【手ほどき】を受けることになっておりまして……」

「………………」


 そもそも……

 この世界の神々は、わたし達人族に【産めよ増やせよ】を是としており、

 ひいてはそれが魔族に打ち勝つ有効な手段であることも、間違いありません。

 故に、一人前と認められた若者たちが、そうした教育を受けることは……


(まさしく【正当】なことなのだと、言えるのでしょう……)


 そして、処女童貞で夫婦になっては、初夜を失敗する事も多く…

 それが原因で夫婦不和になる場合もある……と聞き及んでいます。


(──という、一人前になった【お祝い】を兼ねた……)

(子作りの重要性を鑑みた【性教育】……なのでしょうね)


 そもそも、そういった風習があることは、わたしも知っていました。

 一人前になった童貞の男性が、経験豊富な女性に手ほどきを受けることを。

 貴族なら、同じ貴族身分の未亡人などが、金銭のやり取りを経て行われ…… 

 街の庶民の場合、父親などが娼館に連れて行くことが多いと聞きます。


(そして、花嫁を含む女性達もそれを承知していて……)

(【そういうものだ】と割り切っている場合がほとんどだ……とも)


「クリス君の先日の活躍で、村人は一人前だと誰もが認めております」

「それは……ありがたく思います」

「おかげで、村の女衆もかなり乗り気になっておりまして……」

「『ぜひ自分が』という者が続出してございます」

「………………」

「その、こういった話は……本来、男親に相談すべき事なのですが……」

「ご無礼を承知で申し上げます」

「……はい」

「よろしければ、その中でも若く美しい者に……」

「その役目をさせる事も出来ますが……如何でございましょうか」

「………………」


 もちろん……村長さんも善意で言ってくれているのでしょう。

 そしてこれは、それだけクリスが村の人達から認められたという証拠。

 親としては嬉しくないはずがありません。


(しかし……)


 クリスが……教育の為とはいえ、村の女性に【手ほどき】を受ける?

 そう考えただけで……わたしの心が乱れるのを感じます。

 そして……いくばくかの逡巡の末……

 わたしはこう、口にしていました


「わかりました……しかし」

「その手ほどきを行う者に関しては、わたしに思い当たる【あて】があります」

「故に、わたしが直に采配いたしますので……」

「この件は、どうぞおまかせください」

「はい、仰せのままに」


 そう言うと、村長さんは深く頭を下げて辞去してゆきました。

 そしてまた、わたしも……

 とある決心を、固めたのでした。


 ◇◆◆◇


「え? アイナママのお部屋に?」

「ええ、身体を拭いた後……ママのお部屋にいらっしゃい」

「クリスに……大事なお話があるの」

「う、うん……わかったよ、アイナママ」


 そういってアイナママは、ぼくとレイナちゃんにお湯の入った桶をくれた。


「じゃあ、レイナちゃん、おやすみなさい」

「ええ、ふぁぁ……さすがに今日は食べすぎちゃって……眠いわ……」

「あはは♪ 朝も早かったからね~」

「じゃあクリスぅ おやすみ~」


 そしておたがいのお部屋にわかれて……ぼくは服を脱いだ。

 今日は夜までおでかけしてたから、汗をぬぐうととってもキモチいい♪


「それにしても……アイナママが『拭いてあげる』って乱入してこないとか」

「なんだか珍しいけど、やっぱりお疲れなのかな~」


 今日はアイナママも、神官として働きっぱなしだもんね。


「でも、お話ってなんだろう?」

「やっぱり……アイナママが【勇者の従者】だってことかなぁ」


 ぼくはそんな事を考えながら、服を着てアイナママの部屋に向かったんだ。


 ◇◆◆◇


「ええと……アイナママ、お話ってなあに?」

「ええ……クリス、まずはおめでとう」

「え? おめでとうって……なにが?」

「今回の大イノシシ討伐をもって、村の人たち全員が、あなたを認めたのです」

「みとめた?」

「ええ、クリス……あなたがほんとうに【一人前】であるということを」

「あ、そっか……えへへ♪ なんだか恥ずかしいけど、うれしいや♪」

「ええ……そしてクリス、村ではその一人前になった若者に……」

「お祝いを兼ねた【勉強会】をするんです」

「勉強会? そんなのあるんだ……」

「ええ、一人前の男の子──いえ、男性として、とても大事な勉強です」

「そ、そうなの? じゃあ……それっていつするの?」

「それは……今からですよ? クリス」

「今から? こ、こんなおそい時間に?」

「ええ、そうです」

「ええと……じゃあその勉強会って、どこで──」

「場所は……この部屋です」

「そしてその教師は……わたしが務めます」

「あ、アイナママが? って……ちょ!?」


 そういうと……アイナママは立ち上がり……

 着ている神官服を脱ぎ捨てた!?

 そしてその身体に残っているのは……

 肌もあらわな、ビキニだけ。


「あ、アイナママ?」

「これからするのは、とても大切なお勉強です」

「あなたがいつか、そのお嫁さんとする……」

「【赤ちゃんの作り方】です」

「えっ えっ!?」

「クリス……これはこの村の【習わし】なんですよ?」

「な、ならわし?」

「ええ……前途ある一人前の若者を、経験豊かな未亡人が【手ほどき】するんです」

「て、てほどき!? ででっ でもぼくっ!?」

「クリス? ひょっとして……」

「……え?」

「ママといっしょにお勉強するのが……そんなにイヤなの?(うるっ)」

「そんなわけありませんっ」

「うふふ♪ では……そういうことで」

「ないてないし!?」

「うふふ♪ クリスはちょろいですね♪」


 ちょっ、チョロくないもんっ ぼく!


「じゃあ、クリス……いらっしゃい」

「はひっ」


 そしてぼくは……そんなアイナママに抱きついた。

 その身体は、やっぱり少し震えていて……


(あぁ……アイナママのにおい♡)


 前世の恋人であり……

 最愛のママであるアイナママとの初体験は……

 まるで夢のように……すばらしかったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る